第151話 転生者は異世界で何を見る? -情報収集-

「へい、いらっしゃい。適当な椅子に座っとくれ!」


 お店に入ると威勢のいい店員の声が響く。

 同時に客からの視線も集まるが、それは主に俺ではなくフィアと瑞樹だろう。

 そして一泊置いて俺に鋭い視線が突き刺さるのだ。


「空いてる椅子ねぇ」


 視線をスルーして店内を見回すが、どうにも三人座れそうな場所が見当たらない。

 二十ほどあるテーブルはほぼ埋まっており、いろいろな種族の人種が酒を酌み交わしている。

 中には下品な笑い声が響いてくるテーブルもあったが、あそこには近づかないでおこうか。


「カウンターなら空いてるみたいよ」


「ホントだ」


「じゃあそこにするか」


 三人の意見が一致したところで、とりあえずカウンターへと座る。

 それにマスターからも話は聞けるだろう。

 俺の隣にフィアが座り、その隣に瑞樹が着席する。


「……見ない顔だね」


 座るなりカウンターの向こう側から、マスターと思われる人物に声を掛けられた。

 オレンジ色の狐耳が特徴のダンディーなマスターだ。どこぞのジャズバーにでもいれば似合いそうだが、生憎とここは大衆酒場だ。


「あーちょっとね、そろそろ腰を落ち着けようと思ってこの街に来たんだ」


 俺が街の情報を収集するのにもっともらしい理由を口にすると、マスターの頬が緩む。


「ほぅほぅ、この街の第一印象はどうですか」


「悪くはないね」


 マスターの言葉に当り障りのない受け応えで話を進めていく。

 周囲の街に比べて治安はそこそこ良いとか、お勧めのお店やらを教えてもらったが、マスターから聞けた話も当り障りのないものだった。

 注文した酒を飲みながら料理をつまむが、味はまぁそれなりのものだ。

 フィアと瑞樹も飲んでるが、それなりに飲めそうな雰囲気だ。いきなり潰れるとかなくてよかった。


「ところで、ここの領主様ってどんな人?」


 このまま世間話を続けても進展がないので、そろそろ本題に入るとしようか。


「領主様ですか……」


 だがしかし、マスターから聞けた話というのも、ザルムヴングからの情報と大差はなかった。

 客が増えるチャンスだから下手なことは言いたくないんだろうか。


「おうおう、こんなところに可愛い女の子が二人もいるぜー」


 収穫がほとんどなく落胆していたところに、後ろから声が掛かった。

 セリフの中身からもわかるように、俺へかけた声ではないだろうが、無視するわけにもいかない。

 振り返ると二人組の冒険者のようだ。顔を真っ赤にしてすでにかなり酔いが回っているんではないだろうか。

 そんな二人に声を掛けられたフィアは、酒のせいで赤くなった顔を戸惑いの表情にし、瑞樹は眉を顰めていた。

 ……瑞樹は割と酒は平気そうに見えるな。


「俺たちと向こうで飲もうぜー」


 瑞樹の向こう隣の椅子の前に立ってカウンターへ肘を乗せながら、反対側の手で背後のテーブルを指さす男。

 そちらのテーブルを見ると、もう一人椅子に腰かけて無表情でコップを傾ける人物がいた。

 金髪を肩まで伸ばしているが、その中性的な整った顔立ちからは性別がいまいち判別できない。

 そして一番の特徴は……耳が尖っていた。

 この世界でも何度か見かけたが、やっぱりエルフという種族なのかな。今まで自分の中で完結させていて確認したことはなかったが。


「えー、もしかしてご馳走してくれるんですかぁ?」


 そんなことを考えていたときに、隣から聞こえてきたフィアの声に思わず振り返る。

 いつもと声の調子が違う気がする。……なんとなく甘ったるいような。……って酔ってるのか!?


「フィア?」


「ついでだ! にーちゃんもこっちで飲めや!」


 酔っぱらいはよほど機嫌がいいのか、俺まで誘ってきた。

 厄介なのに絡まれたかと思ったが、そうでもないのかもしれない。いやそれよりもフィアだ。


「……フィアさん大丈夫?」


 瑞樹も心配そうにしてるが、お前は大丈夫そうだな。……まぁ二人ともダウンという最悪の事態は回避されたとして。


「大丈夫ですよぉ? ほらマコト、行きますよぅ!」


 フィアが立ち上がって俺の腕をぎゅっと抱きしめると、そのまま俺も引きずられるようにしてテーブルへと近づく。

 ちょっとフィア!? 抱き着いてくれるのは嬉しいが、いつもより行動が大胆になってないか? やっぱり酔ってるんだな?


「ホントに大丈夫なのか……?」


「大丈夫だいじょーぶ!」


「ほら、お嬢ちゃんもこっちに来な!」


 一人カウンターに取り残され気味になっていた瑞樹にも声をかける男。

 瑞樹も一人でカウンターに残っていると、またこうやって他の男に声を掛けられると思ったのか、素早くこちらに移動してきた。

 テーブルは六人掛けのようだ。俺がエルフの真正面に座ると、フィアも俺の隣に座るが、その隣に素早く座ったのは俺たちを誘って来た男の一人だ。

 瑞樹はフィアの隣に座りたかったのか、表情を沈ませたまましぶしぶと俺の隣に座る。残り一席にはもう一人の男が座った。


「おーい! マスター! こっちに料理と酒追加だー!」


 最後に座った男が声を張り上げている。

 まぁこいつらに領主の事聞いてみるかな。マスターからはだいたい話は聞けたと思うし。

 ひたすらニコニコと笑顔を浮かべるフィアを気に掛けながら、俺は目の前の三人を注視するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る