第150話 転生者は異世界で何を見る? -領主-
「それは申し訳ない」
さっそくザニー工房へとやってきて、受付のお姉さんに絶賛されながら案内された先で、ザルムヴングに文句を言った返事がコレだ。
「まさか公爵様がそんな強引な方法を取るとは思ってもいなかったもので……。こればかりはワシにもどうにもなりません」
本当に申し訳なさそうな表情で言うもんだから、これ以上突っ込むのは躊躇われた。
なのでその公爵様について聞いてみるか……。
「ところでその、公爵様ってどんな人?」
俺の言葉にザルムヴングは居住まいを正し、改めて公爵様について教えてくれた。
「このあたりで公爵様と言えば、ベイグ・ルーマイ公爵様のことですね。この魔工都市エキドナを含めた周辺地域を治めておられます」
……ベーグルうまい公爵? なんつー名前だよホント。
話によると、政治に関しては良くも悪くもなく、他の街と比べても変わらないらしい。
だからと言って悪い噂を聞かないということはないようで。貴族至上主義だとか、スラム街が放置されたままになっているとか。
どうやら今回の件はあの色黒執事の暴走で、公爵本人はいい人というパターンではなさそうだ。
「ちなみにお住まいは、ここから街の中心街を挟んだ反対側になります。一番大きいお屋敷なので迷うことはないでしょう」
「なるほど」
自分から訪ねるのは遠慮したいところだが。
「もちろんマコト殿からいただいた情報は、さすがの公爵様から催促があったとしても漏らすようなことは致しませんので」
仕事熱心なことだね。個人的にはレモン電池なんていくらでも漏れてもいいけど。
むしろその方が付きまとわれなくなっていいんじゃね? ……とも思ったけど、すでに色黒執事には目を付けられた後だから手遅れっぽい気がしないでもない。
とは言えこちらから接触する気は起きないので、それはいいや。
「そうですか」
さてどうしようか。思ったより相手が大物だったということしかわからなかったぞ。
「かかる火の粉は振り払うしかありませんね」
俺が今後の対応を悩んでいると、横で聞いていたフィアが若干憤慨した真面目な表情で宣言した。
噂だけで実情は何もわかっていないが、何か思うところでもあったのだろうか。
「危なかったら逃げればいいよね……」
瑞樹はすでに逃げ腰だったりするが、まぁ気持ちはわからないでもない。
ついこの間危ない目に遭ったばっかりだし。
「そこは心配するな。危なくなったりめんどくさくなったらさっさと逃げる」
俺の言葉にホッと胸をなでおろす瑞樹。
「どっちにしろ、今は待ち状態かなぁ。……まぁすぐに逃げられるように、魔導ギア乗りこなし練習するか」
んー、そういえばまだ運転しながら魔法を撃つってことはしたことなかったな。
ちょっとそっちの練習でもしてみようか。
「そうね」
「確かに。まだ何もされてないしね……」
こっちから手を出すのはできるだけ避けたい。そういう状況にさせられる可能性もないこともないが……。
ロクに知り合いもいないこの状況じゃ……、あとは情報収集くらいか?
「うーん。夜は情報収集かなぁ」
「そうですね。もうちょっと詳しく敵を知らないといけないですね」
なんかもうフィアは公爵を敵認定してるよ。俺の中じゃまだ『嫌な奴』程度なんだけど。
まあいいか。やる気を出してくれてるならいいや。
「じゃあ行こうか」
ザルムヴングに別れを告げてザニー工房を後にした。
明るいうちに、魔導ギアを運転しながらの魔法発動を練習した。
運転にも魔力を使いながら発動するのはコツがいったが、まぁ慣れてしまえば簡単だった。
そして問題は照準だと思っていたのだが。これが思ったよりも簡単だった。
なにせ発動する魔法には、自分自身が移動している慣性が無効だったからだ。目標と定めたところに素直に飛んで行ってくれる。
まぁ確かに、もし自分自身の動きも魔法の照準に影響があるとすれば、ボールを投げるみたいに振りかぶって魔法を発動すれば、飛んでいくスピードが上がったりするだろう。
だけどそんなことして魔法を発動させてる人はいないのだ。
そして日が沈めば情報収集だ。
高級宿の晩飯を諦めて、ここは大衆酒場へと赴くことにする。確か冒険者ギルドの近くにはそういう店が多いはずだ。
……ってそういやフィアはこういう店大丈夫なのかな?
「……とっても楽しみです!」
非常に目をキラキラさせておられました。
逆に気になるってやつですか。
むしろ瑞樹が不安そうだな。
「居酒屋とか入ったことないんだけど……」
そっちか! そういや高校生だったな……。日本じゃお酒は飲めない年だな……。
なんとなく店に入るのに抵抗があるのはわからなくもない。
「大丈夫だろ。たいだいこういった世界じゃ、成人は十五歳からとかだろ」
俺の言葉にフィアが目をぱちくりとさせて、さらに助け舟を出す。
「私の国では十五歳から成人ですね。飲酒も特に制限はされてないですけど……」
「ええー、そうなんだ……」
それを聞いた瑞樹は驚いた様子だったが、その表情がだんだんと好奇心に覆われていく。
「じゃあ……、おれも飲んでいいかな」
「いいんじゃね?」
無責任に言い放つと、俺たちは目についた大衆酒場へと入って行くのだった。
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