第149話 転生者は異世界で何を見る? -教習所と公爵家-
「うわっ……、これ……、思ったより難しい」
俺は今大空を舞っていた。……のろのろと。
メロン君に案内されて自分の魔導ギアを選んだ日は、魔導ギアの使い方の説明だけで終わったが、その翌日からいよいよ教習開始となった。
まぁ先生なんていないけど。
俺が選んだのは当初の予定通り、四人乗りの空中を駆ける魔導ギアだ。
見た目がオープンカーのようになっており、現代日本で飛行機を見慣れた俺としては翼がない機体には不安しかなかったのだが、用意されていた航空タイプの魔導ギアにはすべて翼がなかった。
というのも魔法で風の影響も制御しているらしく、そこはファンタジーだと感じた部分でもある。
機体は青みがかったグレーで、地上から見上げてもわかりにくいような色になっている。
一応地上部分も走行可能だが、やはりそこは航空タイプということもあり地上二十センチくらいを浮遊して進むのだ。
俺が乗る魔導ギアに他は誰も乗っておらず、フィアと瑞樹はそれぞれで選んだ魔導ギアを乗りこなす練習をしている。
二人が選んだ機体は、それぞれ二人乗りができる航空タイプだった。
フィアは丸みを帯びた全体的に赤い機体で、俺と同じく座席に座るタイプだ。運転席の後ろに二人目の座席がある。
瑞樹は跨るバイクタイプの機体だ。ダークブルーのゴツゴツとしたカッコいい魔導ギアになっている。この選択肢になったのは元男だからといったところだろうか。
そんなわけでここ一週間はずっと魔導ギアの運転の練習に費やしていた。
一度商会に戻って商品の補充をしたが、概ね平和な時間だったと思う。
それだけの練習時間があれば、さすがに俺たちも乗りこなせるようになってきた。
魔力を込めれば込めるだけスピードが出るので、今はその限界を探っているところだ。
体感速度だと、今制御できるスピードで新幹線くらいは超えている気がする。空はホントに広くて障害物もないから面白い。
だが魔工都市エキドナの周囲の地形がよくわかっていないこともあり、あまり飛ばし過ぎると街に戻れなくなるので注意が必要だ。
そんな感じでそろそろ『乗り物を手に入れる』という目的も達し、あとはどこまで調整するかと思った時だ。
「失礼、あなたがマコトという人物で間違いないかな?」
三人で相変わらずの高級ホテルを思わせる宿を出た時だった。執事然とした服装で色黒、グレーの短髪に目つきの鋭い男に声を掛けられた。
初対面だと言うのに高圧的な口調でムッとしながらも、「そうだ」と返事をすると。
「ふん。公爵様への魔導ギア受け渡しより優先する相手がどんなものかと思ったが……。まったくザルムヴングの奴め……」
何やらブツブツ言いながら、上から目線でこちらの全身を舐めまわすように見つめてくる男。
なんかめんどくさそうなのが出てきたぞ……。
「な……、何よ……」
「なんだよコイツ……」
後ろのフィアも顰め面をしながら俺の腕にしがみついて、相手から隠れるように俺の後ろに回る。
瑞樹はそんなフィアの手を取り、さらにその後ろに回っている。
「……で、一体俺に何の用です?」
ため息をつきながらも失礼な男に要件を尋ねるが。
「貴様がザルムヴング殿に何を持ち込んだのか興味がありましてな……。公爵家よりも優先するほどのものだったのか……とね」
んん……? 優先……? 一体何のことだ?
というか何を持ち込んだとか……、いきなり貴様呼ばわりしてくる相手には簡単に教えたくはねぇな。
「優先ってなんだよ。こっちはザルムヴングに情報提供しただけで、横入りした覚えはねーけど」
後頭部をポリポリと空いている方の手でかきながら事実を述べるが、文句ならザルムヴングに言って欲しい。
「……本人に聞く前にまずは貴様からと思いましてね」
うーむ。魔導ギアを手に入れるためのコネ作りというか、事前工作のことだろうか。俺が持ち込んだものが公爵よりもすごいものだったから、俺たちが優先されてコイツは激おこというわけか?
なんにしても。
「教えるわけねーだろ。アンタは見返りに何かくれんのか?」
公爵家とだけ聞けば何かすごそうだな。よくわからない相手に安全面を考慮して下手に出ると言う手もあるが……。
どっちにしろこの世界にももうすぐ用がなくなるところだし、気に入らないものは自重せず気に入らないとハッキリと主張していこう。
最終手段の『逃げる』という手があるというのは便利なもんだ。
「なに……? 貴様……、公爵家の申し入れを拒否するとは……、どうなるかわかっているのですか?」
俺の質問は無視して次は脅しですか? まったく厄介な……。というかホント公爵家ってなんだよ。すげー腹立ってきたぞ。
「マコト……?」
だんだんイライラしてきた俺に、フィアが心配そうに声を掛けてくる。
「なんかすごい嫌味な人だね……」
瑞樹も男に対しては不満一杯のようだ。
「拒否したらどうなるんだ? この国には来たばっかりでね、よくわからないことが多いんだ。できれば丁寧に教えてもらえるとありがたい」
「……そうですか。わかりました。あとで貴様にはきっちり教えて差し上げるとしましょう。今日はこれで失礼します」
結局最後まで上から目線だった男は、捨て台詞を残して去って行った。
うーむ。俺たちもあとでザルムヴングに文句を言いに行くか。厄介なのに絡まれたってな。ついでに公爵家が何者なのか聞けるだろう。
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