第148話 転生者は異世界で何を見る? -メロン-

 さすがに丸投げはできなかった。

 あのあとザルムヴングが復活するまで一時間も要したわけだが、そのあとにマシンガンのように降り注ぐ質問を躱すことはできなかった。

 と言っても俺も義務教育で習ったあとの薄れた記憶に残った知識しか披露できなかったが。

 それでもザルムヴングは満足したらしい。


「で、そっちは何をくれるんだ?」


 さすがにタダで情報をやるわけにはいかない。ここでダメと言われれば実力行使に出るが。


「ああ、これは失礼。素晴らしい発見に興奮しすぎてしまいました。魔導ギアですが、この工房にあるものであればどれでもお好きなものを持っていってかまいませんよ」


「ええっ!?」


 あまりにもの太っ腹な発言に瑞樹が目を見開いている。

 まぁ俺たちにとっちゃレモン電池なんて、子どもが理科の実験で行うようなものだからな。

 それがこんな高価な乗り物に化けるんだ。知識をないがしろにしちゃいかんな。


「いえいえ、それでも足りないくらいの素晴らしい発見です。なんならおひとりひとつずつでもかまいませんよ」


 マジかよ。四人乗り程度があればいいが、いろんな種類があっても面白いかもしれない。

 軽とキャンピングカーとじゃ用途も違うしな。


「それじゃ遠慮なくいただく」


「はい、助手には言っておきますので」


 これは予想外の結果になった。これは探せば大発見になる簡単な実験とかがあるんじゃなかろうか。

 ……いやでも目的はもう達したからもういいかな。他に欲しいもの出来たら考えよう。


「よろしく」


「とりあえず目的の魔導ギア倉庫まで案内しましょう」


 実験室からさらに奥へと歩き出すザルムヴング。俺たちも遅れまいとついていく。


「うわー、楽しみだなー」


 瑞樹が生き生きとしている。よっぽど乗り物が楽しみのようだ。スピード狂とかにならなきゃいいが。

 フィアは何も言わないが、それでも目は興味深そうにらんらんとしている。

 廊下の突き当りに見張りらしき人間が二人立っている。その扉を抜けて中に入っていくと。

 広い空間に出た。

 初めてザニー工房にきたときに見た体育館よりも広い。広大な空間だ。

 ここにも数多くの魔導ギアが並んでいる。……が、雰囲気が最初に見た場所と違う。

 特に奥から禍々しいまでの魔力を感じる。


「……なにこれ」


 瑞樹もそれを感じ取ったのか、俺と同じ視線の先を凝視しながらゴクリと喉を鳴らしている。

 まぁそんなヤバイやつは必要ないだろ。四人乗りほどで空飛べたらいいんだし。


「やばそうな気配だな」


「ははっ、わかりますか。奥にあるんですが、ちょっと厄介な魔石を組み込んでしまいましてね……」


 ザルムヴングは自嘲気味に笑うが、すぐに表情を元に戻して話を続ける。


「しかし、扱いが難しいだけで乗り物としては問題ありませんので」


 ふむ……。難しいってなんだろうな。


「ちなみにですが、原動力に魔石を用いるタイプと、自身の魔力を注ぐことで動力とするタイプの魔導ギアがあるのですが希望はありますか?」


 そんな種類があるのか。と言ってもな……。魔石がいるとなると、もしかしてこの世界じゃないと調達できないんじゃないのか?

 他の世界での類似品が使えるかなんぞ、ここで確認はできないけどな。じゃあ取れる選択肢はひとつだけか。


「魔力を注ぐタイプでよろしく」


「わかりました。ではあちらです」


 例の禍々しい気配がある方向とは反対へ向かって歩き出す。


「メロン君。いるかい?」


 そして奥に向かって美味しそうな果物の名前を呼んでいる。もしかしてその高級な果物の名前の人物が助手なんだろうか。


「……はーい!」


 奥に目を凝らしていると、そちらとは違う方向から声が聞こえてきた。

 気配をたどればどうやら上空らしい。その気配に釣られるように頭上を仰ぐと、魔導ギアらしき乗り物に乗る一人の少女がいた。

 タイヤの代わりに地面と水平になるような円盤が取り付けられたバイクのような形をしている。

 完全に一人乗り用だけど、こういうのも面白そうだな……。


「この方たちが自力で魔力を供給するタイプの魔導ギアをお探しだ。一人一点まで、制限なしで頼む」


「……はあっ!?」


 ザルムヴングにそう告げられたメロン君は、その胸部に装着されている同じ名前の果物を揺らしながら盛大に叫び声を上げた。

 華奢な体つきをしている小柄なボブカットの髪型の少女だ。名前に違わぬ緑色の髪を見だしながらザルムヴングに抗議の声を上げている。


「制限なしって……、いいんですかっ!? というか、何があったんですか!」


「まぁそれは長くなるから後で。先に彼らを頼む」


「……わかりました。ではこちらへどうぞ」


 メロン君はそう言うと、魔導ギアから降りて俺たちを先導するのだった。

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