第144話 転生者は異世界で何を見る? -冒険者ギルド-
正直に言おう。
初めて自宅よりも快適な異世界の宿というものに出会った。
一人部屋を三つ取ったが、それぞれに風呂とトイレがついており、ベッドの布団もふかふかだ。
さらに宿には大浴場が男女別で設置されていて、中はさながら異国風銭湯といった様子だった。
ローマの銭湯を題材にした映画を思い出したのは仕方がないと思う。
ご飯もさすが高級宿と言ったところだ。
塩だけでなく香辛料もふんだんに使い、おそらく高級食材も使われていたのだろう。
非常に満足のいくものだった。
「それに引き換え、冒険者ギルドは小ぢんまりとしてるな」
宿の受付にギルドの場所を聞いて、翌日になりやってきた。
乗り物の情報を得るためと、手持ちの資金じゃ足りないだろうから、依頼かもしくは高く売れそうな素材となる魔物の分布を確認するためだ。
「そうだね。街の規模はサイグリードより大きいのに」
ただしギルドの建物は鈍色に輝くしっかりした作りになっている。
そしてサイグリードでも見た、盾を背景に二本の剣が交差したエンブレムの看板が掲げられていた。
同じエンブレムを見つけて少し安心だ。
入り口に扉はついていないようで、常に開放されている。その中に俺はフィアと瑞樹を伴って入って行った。
朝から来たが思ったより混雑はしていない。
サイグリードのギルドは雑然という感じだったが、こちらは整然としている。
職員はもちろんのこと、冒険者たちもみすぼらしい身なりをした人物は見かけられない。
雑談をする人たちや依頼票を眺める人はいるが、カウンターには誰も並んでいないようだった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
カウンターの向こう側にいる職員に向かって俺は声を掛ける。
職員は男女の二人だけのようだ。どちらにも熊のような丸い形をした耳が頭から生えているのが見える。
男は細マッチョで、女からは大人の色気といったものが漂っているように感じられる。
もちろん俺が声を掛けたのは女性職員のほうだ。
「はい。なんでしょうか?」
「この街で魔道具の乗り物が手に入るって聞いたんだけど、そういうの扱ってるお店とか工房ってどこかにある?」
「はい、有名なところはザニー工房ですね。ここから――」
と、丁寧にギルドからの道を教えてくれる職員さん。パンフレットを読んでいるかのように淀みがない。
「ありがと。あと、ここらへんで調達できそうな、お金になる素材って何があるかな?」
俺の問いかけにピクリと反応する女性職員。
「お金になる素材……ですか。……ギルドカードを確認させていただいても?」
あー、まぁそうなるか。低ランクの冒険者に高難度の素材を教えて、下手に失敗されて死なれてはギルドにとってもデメリットしかない。
かといってここでギルドカードを渡さないという選択肢もないんだが。
まあランク内で手の届く高級素材を教えてもらえるだけでも、何も知らないよりはいいだろう。
「ほい」
俺がギルドカードをカウンターに出すと、後ろのフィアと瑞樹もカードを出している。
「はい、お預かりします」
職員が熊耳をぴくぴくさせながらカウンターの下で何か操作をしている。
小さくため息をついたかと思うと、その動きが停止する。ぴくぴくしていた耳も一緒に動きを止めている。
「……Fランクで……、コボルドキング?」
女性職員が目を丸くして後ろにいるフィアを凝視している。
そういえば討伐記録がギルドに記載されるんだったか。自分のランク以上の魔物の討伐記録があれば、高級素材の生息場所とかも教えてもらえるかも。
「ゴホン……。えー、高級素材ということであれば、街の南西にあるミストール平原に生息するウサギなどですかね」
「へぇ。……どんなウサギ?」
気を取り直したらしい職員が、ウサギについて教えてくれた。
魔物のランクとしては脅威度は低いらしく、ランクEとのことだった。が、すばしっこいらしく、中級ランクの冒険者でも捕獲は苦労するそうだ。
頭も回るらしく、罠を仕掛けても引っかかる可能性はほぼゼロらしい。
なるほど、そんなメタルなスライム的なやつがこの世界にもいるということか。
他には、北方山脈と呼ばれる山には危険で貴重な素材が獲れる魔物が大量にいるらしい。
この街だけでなく、ミストール皇国として北側にある山は全部北方山脈と呼ばれていて、ちょうど国境にもなっているとか。
そもそもエキドナからだと遠いので、わざわざ時間をかけて行くくらいなら皇国の首都方面にでも行って、いくつかあるダンジョンに潜ったほうがお金になるとか。
ってかダンジョンなんてあるのかよ。
「ありがとね。また聞きたいことあったら来るよ」
とにかく今はザニー工房とやらに行ってみますかね。
ギルド職員に礼を言うと、そのまま何事もなくギルドを出るのだった。
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