第145話 転生者は異世界で何を見る? -ザニー工房-
「うわっ、すげーなこりゃ……」
教えてもらったザニー工房の外観を見た瞬間の感想が思わず漏れた。
どこの大工場だという規模の建物だ。これが魔工都市と言われる所以なのだろうか。
いやでもここって街の外れだしな……。
鈍色に輝く建物は学校の体育館ほどの大きさがある。煙突が何本も突き出ており、黒い煙を吐き出すものや白い湯気のようなものを吐き出すもの様々だ。
そんな建物がいくつも並んでいるのだ。建物同士の間はかなり広くとられており、その間をバイクや車っぽい乗り物が行きかっている。
フィアと瑞樹も目の前の光景に圧倒されているようで、目が丸くなっている。
日本にもこれくらいの工場はあるだろうが、瑞樹は見たことがないのだろうか。まぁ工場の敷地内など社会科見学でもなければ高校生が入ることなどないだろうが。
「「すごい……」」
なんにしろここで見学だけしていても乗り物は手に入らない。
……そういえばこの『乗り物』って、何か名前ついてないのかな。
魔導バイクとか……、ってそれじゃ二輪だけか。……いやそもそもこの世界のバイクが二輪だとは限らないけど。
いやそういえば三輪バイクもあったっけ。
「まぁ行くか」
名前なんて工房の人に聞けばいいか。
無駄な予想はやめてさっさと中に入ることにした。
一番手前にある、乗り物の看板がかかっている建物へと入る。外が明るかったせいか、建物の奥は目が慣れていなくてまだよく見えない。
「……んん? お客さんかい?」
入り口横にカウンターがあり、その奥から声が掛かった。
もちろん客だけど、それ以外にいるとでもいうのか。
「ああ、もちろんそうだけど……」
受付のお姉さんだろうか。その浅黒い肌の上には、体のラインが浮き出るジャケットを羽織り、細身ではあるが引き締まった肉体をしているのが見て取れる。
胸部に鎮座する大質量の物体をカウンターの上に乗せ、両肘をついて手で顔を支えていた。
「そうかい。まぁ好きなように商品を見ていきな」
なんともサバサバとした感じの人である。
促されるように改めて店の奥へと視線を向けると。
「――うおっ」
ようやく慣れてきた目に飛び込んできたのは、無数の乗り物たちだった。
車輪の付いたものが多いが、中には空を飛びそうな形をした乗り物がある。
一人乗りから数人は乗れそうなタイプまで様々だ。
ただしその形は四角いものが多い。先端が尖ったタイプなどもあるが、それも角ばっていてやはりごついイメージがある。
いくら魔工都市として発達した街だとしても、さすがに流体力学などといったものは発達していないか。
ただし風の抵抗は受けるということはわかるのだろう。
「すごいねー」
「……カッコいい!」
瑞樹は瞳をキラキラと輝かせている。割と車やバイク好きなんだろうか?
しばらく三人ばらばらになって展示されている乗り物を物色していく。
やはり車輪の着いたものが多く、空を飛びそうなものは数少ないながらも、ほとんどが一人乗り用と思われるものしか見当たらない。
俺は入り口横にあるカウンターにまで戻ると、受付のお姉さんに尋ねてみることにした。
「なあ。ここに空飛ぶタイプの四人くらい乗れるやつってあるか?」
「んんん? ……ないことはないけど、またえらいハイスペックタイプの
おお、魔導ギアってのか、コレは。
「おう、現に今三人いるしな。山越えとかもしたいから、できれば空を飛びたい」
俺の言葉にニヤリと笑った受付のお姉さん。
「予算やコネはあるのかい?」
……コネ? んなもんはないが……、もしかしてないと買えないのか……?
なんとなく不安に思いながらもこればっかりは聞いてみるしかない。
「いんや、どっちもないが。……ただまぁ具体的な値段や入手方法を全く知らなかったから、それを聞きたいってのもある」
「……なるほど」
腕を組んで右手を顎に当てながら何かを考えているお姉さん。
「……ところで、あんたらは冒険者かい?」
「ああ」
「ふむ。ランクは?」
「まだなり立てでね。ランクはFだ」
「なるほど。ランクA以上だったら直接責任者と交渉ができたんだけどね……」
ふむ……、交渉ってなんだろうな? いきなりの価格交渉か? よくわからん……。
「ちょっと待て。……さっきからコネや交渉って言ってるが、何なんだそれは。金があれば買えるってわけじゃないのか?」
まずは整理しよう。よくわからんまま話を進められても困る。
「そうね。……ここに展示してあるやつは全部お金があれば買えるものだけよ。で、あんたの言うハイスペックの魔導ギアになると、お金だけじゃ買えない」
なるほど……。金だけじゃダメなのか……。
「そこで『交渉』ね……」
「そうよ。コネや、冒険者ランクA以上であればすぐに交渉に入れる。それがないとなると、まずは最低金額を払ってもわらないとね……。
――あ、珍しい魔道具なんかでもいいわよ。……そんなものがあればだけど」
この魔工都市に工房を構える人間が『珍しい』と言える魔道具などそうそう用意できないだろう、とでも言いたげな表情だ。
スタイルのいいお姉さんだがなんだかイラっとした。
しかし珍しい魔道具ね。……LEDライトなんぞ出したら興味を示すかな。
とりあえず余ってるやつがあるし、試してみるか。魔工都市というくらいだ……、フィアの国よりこういうものの研究は進んでるかもしれない。
アイテムボックスからソーラー式のLEDライトをカウンターに置くと、「どうぞ」と言わんばかりに手を差し出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます