第136話 転生者は異世界で何を見る? -人質-

「フィア!?」


 角を曲がって視界から消えるフィアを見て、咄嗟に【気配察知】を行うと、フィアとフィアが追いかけているであろう気配が捉えられる。

 急いで駆け出すとフィアの後を追う。


「くそっ、何があったんだ!」


 瑞樹の気配をフィアが追っているようだが、瑞樹の側には他に二つの気配が感じられる。

 誰かに担がれている感じだろうか。……ってこれ攫われてる!?


「マジか!」


 スピードを上げてフィアが消えた角を曲がると、そこには走るフィアの後姿があったので追いかける。

 その先には瑞樹らしき小柄な人物を担いだ男と、抜身の剣をぶら下げながら逃げる男が見えた。


「待ちなさい!」


 フィアが声を張り上げているが、この状況で待てと言われて待つヤツはいない。

 が、小柄とは言え人一人を担いで走る人間に追いつけないフィアではない。逃げる男たちとの距離は徐々に近づいている。

 剣をぶら下げて走る男がこちらをちらりと振り返ると、何か指を差してもう一人の男へと指示を出すと、近くの廃墟へと飛び込んだ。

 廃墟までたどり着いたフィアが入り口で立ち止まり、俺もそこへ合流する。


「何があったんだ?」


 誰も住んでいる気配のなさそうな廃墟の入口を窺うフィアに確認してみる。

 周囲を見渡すが、人が住んでいないのかこのあたりは廃墟が続いているように思う。目に見える範囲にも人の姿は見えない。


「あ、マコト! ミズキちゃんが大変なの!」


 廃墟に集中していた為か、俺の声にビクッとなるフィア。

 だが振り返って俺の姿を認めると少し安心したのか、早口でまくし立てる。


「落ち着け。瑞樹は大丈夫だ」


 廃墟の中の気配は瑞樹と二人の男以外には何も感じない。今はこちらを待ち構えているところなのだろうか、特に動きは感じられない。

 フィアの頭をポンポンして落ち着かせると、続きを促す。


「あ、うん……、それでね……、店を出てミズキちゃんに声を掛けようとしたところに男が二人飛び出してきて……、そのままミズキちゃんを担いで攫って行っちゃったの……」


 その時の光景を思い出したのか、セリフが尻すぼみになってこちらに向けていた顔もだんだんと下がって地面を見つめるようになる。


「――だから助けに行かないと!」


 だが、落ち込んでいた顔を勢いよく上げると、決意の籠った瞳でこちらを見据えてくる。今は反省している場合ではないと思ったのだろうか。まあずっと落ち込まれているよりはいい。


「ああそうだな。……罠とかがないとも言えないし、慎重に行くか」


 俺の言葉に静かに頷くと、俺の後ろに続いてフィアも廃墟へと入って行く。二階建ての廃墟の入口はもう扉が存在しないようだ。

 慎重に気配のする方向へと進むが、特に罠らしきものは確認できない。天井を仰ぐと、ところどころ二階の床が抜けている隙間からは、青空が覗いている。どうも屋根は存在していなさそうだ。

 そんなことを思いながらひとつの部屋の前へとたどり着く。この中から瑞樹の気配がする。


「ここかな」


「……」


 フィアが慎重に頷いたのを確認すると、俺は朽ち果てた扉のドアノブへと手を掛けてゆっくりと開く。

 男二人の気配は扉付近にはなかったのでそのまま部屋の中へと入った。

 部屋の奥にはカタカタと恐怖に震えて涙を流す瑞樹と、その瑞樹の後ろから首にナイフを突きつけている男と、少し離れたところで抜身の剣をぶら下げる男がいた。

 男二人に見覚えはない……と思う。何かが記憶に引っかかった気がしたけど気のせいだろう。


「ミズキちゃん!」


「おっと、そこまでだ!」


 駆け寄ろうとしたフィアに対して、剣を持った男が制止の声を上げる。

 二人ともニヤニヤした表情を張り付けていてとても気持ち悪い。

 しかしあれだ……。防具買ったし大丈夫とか思ったさっきまでの自分を思い切り殴りたい。誰だよこれで安心とか思ったやつ。さっぱり役に立ってねぇじゃねーか。

 イライラした気分のまま二人を睨みつけているが、もちろん何か効果があるはずもなく。男はそのまま言葉を続けてくる。


「さて、出すもんきっちり出してもらうぜ」


「もちろんさっきの店で買ったヤツも脱いで寄越せ。ああ、女は全部脱いでくれてかまわんぞ」


 あの店はやっぱり有名なんだろうか。確かにあの店で一番高い服を買ったとは思うが、まぁこの世界の住人には見た目ですぐわかるのかもしれない。

 それよりもだ。瑞樹の様子を見る限りだとこれは心が完全に折れてるな……。何かしらの連携は取れそうにもない。


「……おいおい、さっさとしないとこいつがどうなっても知らんぞ!」


 持っているナイフの腹を瑞樹の頬にピタピタとしながら叫ぶ男。

 っとそこにこの廃墟へと入ってくる気配を察知する。……どうもいい感情を持ってなさそうだ。あちらさんの仲間だろうか。


「……どうしよう」


「フィア」


 焦るフィアに、向こうの男たちには聞こえないように小さい声で呼びかける。


「振り向かずに聞いていてくれ。後ろから追加で誰かがやってくる。そいつの対処は俺が派手にやらかすから、目の前の二人が怯んだらナイフ持ってる方の男をぶっ飛ばせ」


 俺の言葉に軽く頷くと、フィアがその場で魔力を練り始めるのだった。

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