第137話 転生者は異世界で何を見る? -倉科瑞樹1-
おれは倉科瑞樹。キサラギ高校に通う二年の男子――だった。
何を言っているかわからないと思うが、ほんの一週間前までは男だったんだ。
いつものように学校に行ったら、校門をくぐったところで真っ白い光に包まれたかと思うと今度は真っ暗になって殴られて。
いやもう超ビビったね。
殴られた瞬間怖くなったけど、急に現れた超かわいい金髪の女の子のおかげでちょっと持ち直せたと思う。
「いきなりなにすんだよじいさん!」
いつも通りにツッコめたと思ってちょっと安心したけど、それもここまでだった。
宇宙空間だった世界が茶の間に変わって、自分が事故で死んだと告げられて、微妙に透けてるらしい自分の体からオッサンの腕が生えて。
わけわからないながらも、魔法という言葉にだけ反応したことは覚えている。
だけどそんなことはどうでもいいんだ。とても些細な事だから。
だって、人間じゃなくなってしかも女になってしまうなんて!!
でもまぁなってしまったものはしょうがない。気を取り直して行こう。なんてったって魔法が使えるようになったらしいし。
と、そんな感じで浮かれていたんだけども、そんな気分は一瞬で吹き飛んだ。
最初の依頼を順調に達成できたことで調子に乗ったのかもしれない。いやまぁそれも誠さんが一人で達成したようなものなんだけど、そのときはそう思ったのだからしょうがない。
ワイルドボアってなんなのさ。日本で普通のイノシシとか見たことないけど、比べ物にならないくらいの大きさだった。
あの巨体が自分へ勢いよく向かって来たときはもうダメだと思った。腰が抜けて動けなくなって、震えることしかできなかった。
ちょっとこの世界で頑張ってみようとか思ったけど、一瞬で挫けそうだった。
その後の血抜きの光景を見た時には、くらっときて気絶しそうになった。たぶん真っ青な顔をしていたと思う。
フィアさんに抱きしめてもらってたことに気付いたときはドキドキしたけど……。
途中でコボルドに襲われてる冒険者を助けた後、魔法の特訓とかもしたけどあれは興奮した!
だって魔法が使えるんだぜ!
一瞬だけ中学時代の黒歴史が脳裏をよぎったけど、今回は本物なのだ。きっと問題ないはずだ。
すぐに魔力切れになったけど、その後に誠さんにしてもらった魔力注入はやばかった。
気持ち良すぎて変になりそうだった。
でも街に帰ってからはダメだった。
稼いだお金を他の冒険者に盗られそうになって、やっぱりこの世界で生きていくのは厳しいと感じたんだ。現実を知ったってやつだね。
だからその日、誠さんに日本へ連れて帰ってもらえるように頼んだんだ。ちょっと気が楽になるだろうと思って――。
それもやっぱり気のせいだったんだけどね。
日本は日本で、命が危険に晒されることはなかったけど、疲れることには変わりがなかった。
おれは自分が死んだという自覚はなかったけど、誠さんのパソコンで自分のニュースを見て多少は実感できた。
事件時の学校の校門の悲惨な写真を見てドン引きし、自宅で自分の葬式が行われている風景と両親の写真を見てちょっと懐かしくも思ったけど、自分の中じゃまだ二、三日しか経ってないんだよな。
女になっちゃったし、今更家に帰ってもなんて言えばいいかわからないし、その時は『帰ろう』と思わなかった。
あとは女性物の下着に羞恥心を覚えながらも風呂に入り、否が応でも自分が女になったことを自覚させられた。
自分の体に興味は出たけど、自分の体からか特に興奮はしなかったけども。
お風呂を上がって脱衣所で、最後の抵抗とばかりにパンツと睨めっこをしていたら、フィアさんがいきなり突入してきて問答無用で服を着せられたり。
今思えばあれはあれでありがたかったかもしれない。ずっと睨めっこをし続けていたら風邪ひいてたかも。
「ということで、買い物に行くわよ!」
翌朝聞いたフィアさんの第一声は嫌な予感しかしなかった。昨日あんなことがあったんだ、何を買いに行くのか想像できる。
そう思うともうため息しか出なかった。
外を歩けば歩いたで注目を浴びた。
いつもは誠さんとよくくっついているフィアさんだったが、今日だけはなぜかおれにくっついていて余計に周囲の注目を浴びる原因になっている気がする。
彼女いない歴イコール年齢だったおれとしては、かわいい子と一緒にいるのは嬉しいことではあるんだけども。
それに、この姿はコスプレじゃないんだよ……。ちょっとだけ尖った耳のことを言われて否定できなかったけどさ。
正直もう疲れた。外を歩くだけでこれだ。異世界だと外を歩くくらいじゃ誰もおれのことを気に留めないのに。
誠さんにスマホ買おうかと聞かれたけど、この時はそんな気分になれなかった。
そして結局また、異世界に戻ると誠さんに頼んでいたのだ。
嫌になったからあっちへ逃げこっちへ逃げと、気軽に世界を移動できるせいか、すぐに現実逃避をしている気分になって、自分でも嫌気がさしてくる。
誠さんは向こうの世界に移住する気はないって言うけど、おれはどうなのかな……。さっぱりわからない。
日本で生活するにしても、異世界の金貨が日本円にできるから心配するなと言われた。
だけどさすがにそれは誠さんに悪いと思ったから、すごく魅力的な提案だったけど断った。ニートにはなりたくないと思った。
だったら。おれは何になりたいんだろうか。
人間じゃなくなったおれは何がしたいんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます