第135話 転生者は異世界で何を見る? -油断-
武器は魔法があるしそれほど心配はしていない。世の中には魔法が効かない敵がいるのかもしれないが、そんときは殴ればいいだろう。
きっと【格闘術】スキルが仕事をしてくれるはず……。
何よりもフィアと瑞樹の安全第一が優先だ。
「……ちょっと待ってろ」
何が不満なのかわからないが、そう言って仏頂面のままカウンターの奥へと引っ込んで行く店主。
「え……、ちょっとっ!」
瑞樹が引き留めようとするが、それでも無視してさっさと引っ込んでしまう。
うーん、なんだろね。あんまり高額商品は裏にしか置いてないとかかな。
遠くのローブコーナーからはフィアの声が聞こえてくる。なんだか楽しそうだ。
もともと買い物は好きなようだったが、それは防具でも変わりがないらしい。
「希望は伝えたんだし、待ってればいいんじゃね?」
「……そうだね」
楽しそうに商品を物色するフィアを眺めていると、カウンターの奥から店主が台車を引いて戻ってきた。その上には体へと装着する防具がいろいろと載せられている。
「待たせたな。とりあえず今置いてある予算内のヤツを持ってきたから好きに選んでくれ」
店主によると今持ってきたやつが在庫の中で一番の性能の装備らしい。しかも200万リル均一だと。
これ以上の品になると完全オーダーメイドしかないらしく、高性能で一般的な装備の上限となると、一着200万リルあたりに落ち着くそうだ。
もちろん装飾を派手にすれば値段も性能も上がるが、後付けできるものは購入後に本人にやってもらえばいい。
超絶レア素材で作った防具でもサイズが合わなかったり、不要な装飾があれば売れないということだ。
「といわけでフィアもこの中から選ぶように」
「はーい」
楽しそうにローブを選んでいたフィアも呼び寄せて、目の前の台車に載せられている服を物色する三人。
そう、服だ。軽装の鎧やチェインメイルといったものもあるが、やはり動きやすそうなものと言えば服という形状の物だろう。
「軟そうなただの服に見えるヤツもあるが、ミスリル繊維で編んだ上に付与魔法で物理と魔法防御を上げたやつだ。防御力という点においては俺が保証する」
「へぇ、そうなんだ」
それじゃあシンプルで地味なやつを選ぶかな。後付けの装飾がないからそもそもそんなに派手なやつはないけども。
「あ、私はこれにしようかな」
ロングコートのような薄手のフード付きローブをいくつか羽織っていたフィアが、紺色のローブを着てくるっとその場で一回りしている。
背中には金糸で彩られたような魔法陣が描かれてある。後付け効果は付けていないということから、これは付与魔法の結果なんだろうか。
なんにしろ濃い色のローブの上にたなびく金髪がよく映える。
このローブだけならコスプレっぽくないから、日本でも外を歩けそうだ。
「おれはコレかな……」
瑞樹もフィアと似たようなローブを選んでいたが、こっちはさらに地味だった。装飾の類が一切入っていない薄いグレーだ。銀髪と一体化していて目立たない。
「……むぅ」
そんな瑞樹を見たフィアが不満そうな顔をしているが、サイズが合うものがそうそういくつもあるわけでもない。
むしろフィアよりも小柄な瑞樹に合うサイズがあるだけでもマシだろう。
魔工都市エキドナに着いてからオーダーメイドの装備を注文してみるのも悪くないかもしれない。
俺も適当に黒いコートっぽい物を選んでおいた。これなら日本でも普段使いにできるだろう。
「おう、決まったか。三着で600万リルだな」
「ああ、これにするよ」
金貨を懐から取り出したように見えるようにして60枚を渡す。
「ふんっ。他にはいいのか? ……まあローブ系を選んでる時点で盾とかはいらんか」
確かに店内にはいろいろな形の盾も陳列されている。まったく興味がなかったので注視していなかったが。
隣を見ると瑞樹が着心地を確かめるように軽く柔軟体操みたいな動きをしているが、ちょっと店内だと狭いだろう。
「ちょっと先に外出てるね」
「おう」
やっぱり狭かったみたいだ。そのまま腕をぐるぐる回しながら瑞樹は店の外へと出ていく。
フィアは何度か首を左右に振りながら後ろを見てるが、「鏡が欲しい……」という呟きから自分の後姿を確認したいんだろうか。
しかしまぁこれで少しは安心できるかな。よくよく考えれば今までただの服しか着てなかったんだからな。
これである程度不意打ちにも対処できるようになったか。
毒ガスとかには耐えられないが、この世界にそんなものがあるかわからないし、あとで考えよう。
「じゃあ私も外に出てるね」
「わかった。
……んー、盾はいらないかな。魔法が主体だし」
フィアを見送りながら考えるが、やっぱり盾はいらないな。
「そうか。まぁ防具に何かあったらまた来い。メンテくらいはしてやる」
「ああ、ありがとう。世話になった」
「おう」
そう店主に挨拶をして店の外に出るが。
「ミズキちゃん!!」
そこには焦った声を上げて走り出すフィアの姿があるだけだった。
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