第134話 転生者は異世界で何を見る? -防具-
「で、誠さん。結局装備はそろえるの?」
なぜか期待に満ちた表情で聞いてくるのは瑞樹だった。装備のどこにワクワクする要素があるというのだろうか。
物語に入れると気づいた最初の頃、いろんなゲームに入っては各種装備をそろえて着てみた俺としては、何も楽しいと感じる要素はない。
あんなもの動きづらくて苦痛なだけである。
……ということを体験していないからのワクワクなんだろうけど。
しかしまあ、確かに身を守るという点では装備を整えることに間違いはないのは確かだ。
もしかすればしっくりくる防具があるのかもしれないし。何より不意打ちなんぞでフィアや瑞樹が傷つくのは避けるべきなのだ。
「確かに、防御力はあった方が安全っちゃ安全だしな」
「防御力の高い服も、探せばきっとあるはず」
フィアが同意するように大きくうなずいている。
確かに防具と言っても金属製の鎧ばっかりじゃないよね。どんなRPGにでも服系統の鎧装備なんてあったはずだし。
モンスターズワールドの世界にも防御力の高い服はあったはずだ。フィアに頼めば用意してもらえるとも思うが、結局それはフィアの父親を頼るということだ。
婚約者の父とは言え、なんとなく国王を頼るというのは恐れ多いというか、嫌な予感がするというか、まぁ取りたくない手段ではある。
「そうだな。防御力の高い服でも探すか」
とりあえずということで、ギルドを去り際にデクストから紹介された防具屋へと行くことにした。
ギルド職員が推すお店だから近いと思ったが、これが意外に遠いこと。三十分ほど歩いて到着したのは。
「……ほんとにココか?」
大通りからは外れた路地にある店だ。看板には盾のイラストが描かれているので防具屋であるのは間違いないだろうが、何にしろ俺たちは字が読めない。
店先には看板しかなく、入り口に扉はついていないが布が掛かっており中を窺うことはできない。
「間違ってないとは思うけど……」
「きっと大丈夫ですよ」
瑞樹も疑わしそうにしているが、フィアは何も思うところがないのか躊躇いもせずに店の中に入って行ってしまった。
うーん。もしかするとあれか、気難しい店主のいる名品を扱う店とかそういうやつか。
「俺たちも行くか」
「う、うん……」
入り口をくぐって瑞樹と一緒に中に入る。薄暗い店内に照明はないようで、窓から差し込む光だけで照らされている。
先に入っていたフィアは金属製鎧が置かれている前を通り抜けて、奥にあるいかにも魔法使いが着ていそうなローブが掛かっているエリアへと向かっている。
追いかけようと思ったのだが、何か変な音が聞こえるのでそちらに顔を向けてみると、そこにはカウンターに突っ伏して寝ている店主らしき人物がいた。
そう、変な音はいびきだ。
ここからではグレーの頭頂部しか見えない。しょうがないので近づいてみることにするが、あと数歩というところでいびきがピタリと止まり、カウンターに着くと同時に勢いよく起き上がってきた。
「うおっ!?」
思わず一歩後ずさる。
「おっと、客か……?」
胡散臭い目でこっちを見つめる店主はドワーフというやつだろうか。俺の胸くらいまでの背丈のずんぐりむっくりとした体形の人物だ。
グレーの髪はボサボサで、同じ色の髭を盛大に蓄えていて、眉間にしわが寄っている。
「えーっと、デクストにこの店を教えてもらったんだけど、お勧めの動きやすい防具ってないですかね?」
「あん? デクストだぁ? ……あー、あのギルド職員か」
誰だかピンとこなかったようだがどうやら無事に思い出せたような雰囲気である。
つーかお勧めするくらいだから顔見知りなんじゃねーのかよ。それともただの一方的な紹介か?
「わりぃな。滅多に紹介客なんて来ねえもんで」
店内を見回すが俺たちの他に人は見当たらない。紹介客どころか普通の客も滅多に来ないんじゃないだろうか。
いやまぁ、店内のカウンターで寝てる姿を見れば敬遠したくなる気持ちはわかるが。
「んで、動きやすい防具ね。他に希望はあるか? 魔法や物理重視とか、色や見た目、予算とかな」
ふむ。他の希望ね。しかし魔法防御か。確かに魔法で攻撃されることもあるな。
それと予算か……。まだこの世界の物価がよくわからんからなあ。しかし乗り物を買うって目的もあるし……。
とは言えたった二回の狩りで得た報酬程度なら問題ないかな。生活するだけならそれほど金もかからないし。
えーっと確か今の手持ちは1200万リルくらいあったっけか。
魔物を売り払ったときにマッチョハゲタンクトップから、「素材に傷がなく満額です」と言われたな。
普通はこんな金額にならないと。
「うーんと、物理寄りのバランスで……、予算は三人で1000万リルくらいかな?」
「――はぁ?」
うん? 何か変なこと言ったかな?
「いやだから、バランスタイプの防具で」
「そこじゃねえよ! 予算は本当に1000万で間違いねぇのか!?」
ああ、そっちね。
「もちろん」
俺は躊躇いなく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます