第125話 転生者は異世界で何を見る? -索敵-

 前回薬草を採集しに行った森に、聞いた魔物が四種類ともに生息しているという話だ。

 十匹以上からなる群れで生活しているウォーウルフと、巨大でずんぐりした力強い熊であるボーズベアは森の奥地に。

 ワイルドボアは森の全域に、そして奥地で生活する群れからはぐれたウォーウルフ――はぐれウルフは森の浅い領域に出現するらしい。

 森にはコボルドも多少は生息しているが、こいつ自体はお金にはならない。冒険者たちから巻き上げたお金を手に入れることができれば別だが。


 そんなわけでお昼前ではあったが、一昨日来た森へともう一度向かっているところであったのだが。


「――なにあれ」


 それを最初に見つけたのはフィアだった。

 街から南東の方向へと歩いている時だった。遠目に見える森の背後から、ここからでもわかるくらいに大きな土埃が左側――北東方面へと延びていくのが見える。


「……あれも魔物?」


 瑞樹も首をかしげている。

 幸いにもこちらには向かっていなさそうなので慌てずに観察してみる。

 ……うん、ちょっと遠くて何かが高速移動してるような雰囲気としかわからない。


「――えっ?」


 と思ってたら、その土埃を追うようにして森の影から巨大な飛行物体が飛び出してきた。

 数キロは離れていると思うが、かろうじて翼をゆっくりとはためかせているようなシルエットが見て取れる。


「うわぁ……」


 引き攣った顔をしつつも興奮した様子が見え隠れしている瑞樹。

 あれはなんというか、いわゆるドラゴンというやつだろうか。こんなに遭遇率の高い相手だったっけ?

 いやいや、小説を流し読みしていた時点では出現していなかったと思う。


「――あ」


 フィアが思わず声を漏らした瞬間、遠く羽ばたく生物から赤い閃光が一瞬だけ見えた。ドラゴンの口から放たれるブレスだろうか。

 だが逃げる土埃の勢いは相変わらず続いている。


「何かをドラゴンが追いかけてるのかな……」


「……そう見えるね」


 思わずつぶやいた言葉に口調を固くしたフィアが反応する。

 俺はただ、ドラゴンっぽい飛行生物がこちらに進路を変えないことを祈るのみだ。

 もちろんフラグになりそうなので口には出さない。


「……こっち来ないよね?」


 が、それは無駄だったようだ。瑞樹が見事にその役割を果たす。

 とは言え。


「ぶらぶら散歩してるならともかく、明確に獲物を追ってるっぽいし大丈夫だろ」


 それこそ土埃の進路がこちらに変わらない限り。

 それに進路を変えるなら俺たちが来た方向である街だろう。まぁそんなことになれば大変なことになるが。

 冒険者ギルドでのルールにも、魔物を街におびき寄せるような行為は禁止されていたが、果たして切羽詰まった状況で守られるかはわからないが。それに追われているモノが何のか不明ではあるし。


「……だよね。……しっかし、異世界すげーな……」


 俺の言葉が信用できたものとは思えないが、何か安心したのか瑞樹がワクワクした表情になっている。


「ま、ここで立ち止まっててもしょうがない。森に行こう」




 森までやってきたが、他の冒険者と出くわすことはなかった。

 そして先ほど見た土煙とドラゴンらしき魔物も、進路を変えることはなかったようでいつの間にか視界から消えていた。


「瑞樹もちょっとレベル上げとこうか」


「えっ」


 俺はアイテムボックスの中を物色すると武器を取り出して瑞樹に渡す。

 柄が木製で、先端の刃が金属になっている槍だった。たぶん最初の頃にいろんなゲームに片っ端から入っていたときの物だと思う。

 ちゃんと威力のある魔法をまだ使えない瑞樹には突き刺すだけで使える、こういった武器の方がよさげだ。


「持てる?」


 ぼけーっと両手に槍を持ったまま呆けている瑞樹に問いかける。


「……あ、……うん、大丈夫みたい」


「おう。多少でもレベルが上がれば魔法も使いやすくなる……かも?」


 少なくともステータスが増えればMPも増えるし、練習回数が増えるだろう。HPも増えれば生存率も上がって言うことなしだ。

 何度か槍を繰り出す動作を確かめる瑞樹にそう伝えると、ぎこちなくも頷いてくれた。

 そして気配察知の範囲を全力で広げて魔物を探す。

 今の俺の【気配察知】はLv8だ。鑑定で調べたところ、広さはスキルレベル×100メートルらしいが、【空間認識】があるとそのスキルレベル×10%のボーナスがつくらしい。

 ということで半径1280メートルまで察知できる計算になる。


「……いた」


 さっそく反応があった。単独だしちょうどいいな。もしかしたらはぐれウルフかな。だとすると相手としてもちょうどいい。

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