第124話 転生者は異世界で何を見る? -帰還-
「あ! やっと出てきた! もー、三人そろって一日中部屋に籠ってるとか、健康に悪いですよー。
いったいなにをやってたんですかー?」
日本の自宅からさっそくこちらの世界にやってくると、取っていた宿の部屋からさっそく階下へと降りてきたところだ。
ちょうど出くわした女将さんの娘であるクラリアちゃんが、ニヤニヤとしながら話しかけてきた。
十代前半くらいだろうか。女将さんと同じ黄色い髪の間から覗く狐耳がかわいらしい少女である。
「え……、あ……、べ、別に変なことは……」
あからさまに反応したのは瑞樹だった。この年頃の高校生には耐性がないのかもしれない。まぁ人によるだろうが。
わたわたと焦りながら釈明する瑞樹に益々笑みを深めるクラリアちゃんだったが。
「はっはっは、そこはまぁ秘密ということで」
「えー、つまんないのー
……あ、それともう朝ご飯出せない時間だけど大丈夫?」
乾いた笑いでうやむやにしようとすると、頬を膨らませながらもすぐに自分の仕事に戻る。
「ああ、問題ない。これからちょっとギルドに行ってくるよ」
すでに食べたあとなのでもう入りません。
他愛のないやりとりを宿の看板娘としたあと、行き先を告げてギルドへと向かうのだった。
この世界に戻ってきたからといって、以前いた時とやることが変わるわけでもない。
ちょっとした大金が手に入ってはいるが、それで俺たち三人が何もせずダラダラと生活するわけにもいかない。
しばらくは持つだろうが、周囲から奇異の目で見られることは間違いなしだ。変に注目されることは避けたい。
というわけで仕事を探しにギルドへとやってきたのだが、目ざとく俺たちを真っ先に見つけたのはいかつい顔をした隻眼のデクストだった。
「おうおう! 昨日は見かけなかったが特に問題はなさそうでよかった!」
一瞬何のことかと首をかしげたが、そういえば冒険者に絡まれたんだったか。
つーか片目なのによく俺たちに気が付いたな。まだギルドの入口をくぐったくらいで、比較的に空いているとはいえ俺たちとカウンターの間にはうろうろする冒険者もそれなりにいる。
話しかけられたので仕方がなくデクストのカウンターへと近づいていく。
「宿に籠ってたんで何もなかったよ」
ぶっきらぼうにそう告げてやるが、特に何も思わないのか表情が変わることはない。
「そうか、そりゃ何よりで」
カウンターの前の冒険者とやりとりをしながら俺の相手をするという離れ業をこなしながらそこで言葉を止める。
……おい、他に何かあるんじゃないのか?
「――――」
しばらく待ってみるもカウンター前の冒険者とやり取りをするだけでこちらにはもう視線を向けていない。
マジでそれだけですかい。まぁ心配してくれてるだけでもありがたいことだが。
肩をすくめながら改めてデクストの列へと並ぶ。またもや他の列へと並ぶ機会を自然に潰された錯覚に陥ったがきっと気のせいだろう。
振り返ると様々な依頼が張り付けてある掲示板の前にはそれなりの数の冒険者があれこれと物色しているのが見える。
文字が読めれば俺たちもあそこに行ったんだが、読めないものは仕方がない。直接デクストに何か仕事がないか聞くしか方法が浮かばないのだ。
ないならないで、前回のように適当に魔物でも狩ってくれば何かしら素材の買取はしてくれるだろう。
「……そういや文字が読めないのも不便だよね」
瑞樹が掲示板を振り返りながらしみじみと呟いている。
この世界に戻ってくることを願った本人が早速後悔じみた呟きを漏らしている。
どっちの世界にも嫌なことがあるんだろうが、どっちがマシなのかな。本人もよくわかってないんじゃなかろうか。
「別に不便は読み書きだけに限ったことじゃないだろう。……家電とかいろいろね」
「……まぁ、そうだけど」
「マコトの世界が便利すぎるだけだよ」
などと話をしているうちにカウンターの一番前までやってきたらしく。
「おう、マコトか。次の依頼でも受けるのか?」
デクストが組んだ腕をカウンターに置くようにしてこちらに乗り出してくる。
「ああ、何か受けようと思ったんだが、何かおススメはないかと思ってね。
薬草採集の常時依頼があるのはわかってるんだが、他にもないかなと……」
「ん~? ……ああ、そういやお前ら誰も文字読めないんだったか……」
仕事を紹介してもらおうと思った俺の言葉に何か考え込んでいたが、ようやく合点がいったようで。
「他の常時依頼は街周辺の魔物退治と、あとは……、お前が前回持ち込んだみたいな、常時買取を受け付けてる素材を持ち込むか……、だな」
「それも常時依頼なのか」
「ああ。掲示板には買い取れる素材と、その素材が取れる魔物のランクが書いてあるんだが……」
ため息をつきながらも律儀にしてくれた説明によると、魔物のランクというのはその魔物のだいたいの強さを表しているとのことだ。
同ランクの冒険者が四人で、同じランクの魔物を一匹相手取れるというのが目安だとか。
そしてこの街の周辺で買い取ってもらえる魔物と言えば次の通りだった。
ランクF はぐれウルフ
ランクE ワイルドボア
ランクE ウォーウルフ
ランクD ボーズベア
「他にもいるが、これ以上はランクC以上の魔物で危ねーから、むしろ狩りに行くんじゃねーぞ」
「わかった。ありがとう」
デクストに魔物の出る地域も聞いたが、結局前回薬草を採集しに行った時と同じ場所だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます