第109話 転生者は異世界で何を見る? -決意-
ボクっ子はたまに小説などでは見かけるが、おれっ子となると俺自身が読んだ小説では出会ったことがなかった。
もちろん瑞樹が今の姿になって自分のことを「おれ」と呼ぶことに違和感がないでもなかったが、一応元の姿とこうなった経緯を知っているので何も言うことはなかったが。
しかし他人はそうではない。
「ああ……、うん。もしかして男兄弟だらけの中で育ったのかも……」
リーダーは何かを呟きながら一人で納得したようだが、突っ込むのは控えておく。
「ガハハハッ、まあいいじゃねぇか!」
斧使いはすぐにいつも通りに戻っており、エルフはと言えば「それはそれでかわいいわね……」といったセリフが聞こえてくる。
瑞樹自身もこうやって明らかに「おれ」と自分の口から出たセリフに反応されるのは初めてなのか、若干の動揺が見られる。
「まぁそれはともかく……。これは礼だ。受け取ってくれ」
リーダーが差し出したのはコボルドたちの前に差し出していた袋のうちのひとつだった。
そういうつもりで助けたわけじゃないんだが、確かに金欠なのも事実なわけで……。むしろ入街税が払えなくて借金持ちと言っても過言ではないほどだ。
渋る俺を見て冒険者パーティのリーダーも苦笑している。
「これで貸し借りなしだ。……それに実際に金が必要なんだろ?」
こちらの手に無理やり袋を押し付けてきた。
金がないのはバレていたらしい。まぁ冒険者ギルドでの俺たちのやりとりを見ていればすぐにわかる話だ。
「あ、ああ……、そうだが……」
手に持つとジャラジャラと言った音が聞こえてくる。お金が入っているのかもしれないが、この場で改めるのも何なのでそのままポケットへと仕舞うふりをしてアイテムボックスへと入れる。
「ありがたくもらっとくよ」
「ああ。
しかし……、キングがいるとまさかあんなことになるとはな……」
「ええ、そうね……。それにただのコボルドと思っていたけど、連携を取ってこられると厄介だわ」
深刻な表情のリーダーに続いて弓使いのエルフが零す。
俺は普通のコボルドと相対したことがないのでよくわからないが、キングの持つ【統率】というスキルが厄介ということだろうか。
確かに弱いモンスターでも連携を取って数で押してこられれば脅威になるだろうことはわかる。
「オレらはもう街に帰るよ。……ギルドにも報告しないといけないしな」
「そうか」
「世話になったな。まぁ、お前らなら大丈夫だろうけど、気を付けて」
それだけ言うとリーダー含む冒険者パーティは森から引き揚げていった。
「……大丈夫かな?」
去っていく冒険者たちの後姿を眺めながら瑞樹がポツリとつぶやく。動揺からは脱したようだ。
致命傷はなくかすり傷程度だろうが、満身創痍な見た目は心配になるのだろう。回復魔法でもかけてやればよかったかな。
「仮にも冒険者だし、大丈夫でしょ」
フィアが何も問題ないといった様子で冒険者を見送っている。これでも元の世界では駆け出しとは言え、傭兵たちに激励をし続けてきたフィアである。
傭兵と冒険者は呼び方は異なるが似たようなものだろう。それらの頑強さは一般的な日本人とは比べ物にならないだろう。
まあそれよりもだ。
「これ、どうしよう?」
俺は辺りを見渡して誰ともなしに聞いてみる。
そこかしこで転がるコボルド。動く姿はもうない。二足歩行しなくなった犬などただの犬だ。じっくり見てみると、さすがに二足歩行に適した体格になっていて、犬とまったく同じというわけではないのだが……。
「放置はまずいよね」
顔をしかめながら瑞樹が告げる。フィアも同意するように頷いている。
「しゃーない」
ここが森でなければ一気に焼却処分といきたいところだったが、生憎と無理だったので穴を掘って埋めることにした。
もちろん魔法を使ってサクッと終わらせる。
「……便利だね、魔法。
やっぱりおれにも教えてくれ。……足手まといは嫌だ」
俺とフィアがモンスターを相手にして、自分は何もしていないことが悔しいのだろうか。ただ守られるだけなのは元男としても譲れないものがあるのかもしれないな。
とはいえ日本に戻れることは伝えたうえでこの返事ということは、帰る気はないってことなのかな? まぁそうでなくても剣と魔法の世界だ。モンスターと戦うという恐怖を知ったからと言って、簡単に逃げるようでは男ではない。――うん。もう男じゃないけど。
「おう、そうだな。ついでにレベルも上げようか」
「れ、れべる……?」
レベルと聞いて瑞樹が首をひねっている。そういえば鑑定したときにスキルは伝えたけど具体的なステータスには言及してなかったな。
「ああ、俺の【鑑定】だと結構細かいところまでわかるぞ。ちなみに瑞樹はレベル1だな。フィアが26で俺が34だ。
この世界で俺の【鑑定】以外でレベルが見れるのかどうかは知らないけどな」
コボルドキングをぶっ飛ばしたことでフィアのレベルが上がっていたようで、改めて【鑑定】したところ26になっていた。
残念ながら俺は上がってなかったが。
「うわっ。おれって雑魚じゃん」
自分のレベルを知らされた瑞樹の声が森へと響き渡った。
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