第110話 転生者は異世界で何を見る? -特訓-
コボルドを埋めた後、場所を移動して昼食を摂り、瑞樹に魔法を教えることにした。
レベルを上げるにしても攻撃手段があったほうがいい。
ナイフで直接攻撃してもいいかもしれないが、瑞樹の腕力と生き物を殺すという行為を考えると、魔法の方がいい気がしたのだ。
「そうそう、そうやって魔力を集めて……」
しかしさすがにチートスキルを持ってるだけはある。それに想像力豊かな思春期の高校生だ。ゲームやアニメはよく知ってるだろう。
「できたっ!」
瑞樹の目の前にあった細い木の枝が、風に煽られて激しく揺れている。
本来は枝を切断する威力が出るが最初はこんなもんだろう。なんにしろただの強風ではモンスターにダメージを与えることはできないのだ。
「おめでとう。最終目標はこれくらいだからがんばれよ」
そう言って【エアカッター】で目の前の直径二十センチほどの木を切り倒す。
べきべきっと音を立てて周囲の木の枝を巻き込んで木が左側へと倒れこんだ。
「……がんばります」
呆気にとられる瑞樹を他所に、切り倒した木をアイテムボックスへと収納する。今後何かに使えるかと考えたりしたが、なんとなくもったいなかっただけかもしれない。
「でもコツを教えただけでとりあえず発動できたんだ。やっぱり胡散臭かったけど、神様にもらったチートのおかげだろうな」
「確かにそうかも」
それから何度か練習するがどうやら魔力が切れてきたようで。
「うう……、すごく体がだるい……」
「魔力切れかな?」
フィアが魔力を練る練習を止めて、小首をかしげながら瑞樹の症状の原因を告げる。
「じゃあちょっと、魔力補充してみようか」
前回ネッツという魔力切れで倒れていた学者に魔力を注ぎ込んだことを思い出す。一度成功してるし問題ないだろう。
「あ、前にやってたあれですか」
瑞樹も思い出したんだろう。確かあの時ネッツは「いつもより調子がいい」とか言ってたはずだ。
単純に魔力切れの状態で目を覚ますはずが、ある程度回復していたからという理由かもしれないが。
「このままじゃだるいだけなんで、お願いします」
そう言いながら右手を差し出してきたので握手をする形で握る。
見た目通りの小さくて柔らかい手だ。思わずにぎにぎして感触を確かめたくなったが自重しておく。
そして握った手に魔力を集中させるとゆっくりと注ぎ込んでいく。
「ん……」
流れ込んでくる魔力を感じたのか、瑞樹が軽く声を出す。
瑞樹の魔力の波長に合わせるように、自身の魔力の波長を合わせながら、ゆっくりと魔力を流していく。
「んぁ……、あふ……」
なんとなく声が聞こえるが集中して瑞樹に魔力を注ぎ込む。
【鑑定】でどこまで魔力が回復したかを確認しつつ、とりあえず半分ほどまで回復したところで魔力の注ぎ込みを止めた。
「はぁ、はぁ……」
気が付くと瑞樹が顔を真っ赤にして息を荒げていた。
「……大丈夫か?」
そんなに呼吸が苦しくなるくらいに辛かったのか……。ネッツのときは気を失っていたからわからなかっただけで、本当は魔力を注ぎ込まれるというのは苦痛を伴うものだったのだろうか。
「はい……、大丈夫……、です」
ちらりと隣を見ると、フィアはなぜか顔を赤くしてもじもじしている。
「……何があったんだ?」
まったく意味が分からなくてフィアに聞いてみるが、何も言わずに首を横に振るのみだ。
「本当に大丈夫なんだな……?」
何が何だかさっぱりわからないが、とりあえず念を押して確認してみるが瑞樹はあくまでも「大丈夫」と答えるのみだった。
うーむ……。魔力を他人に渡すのって危険なのかな……。とりあえず今日はここまでにしとくか。
「まぁ、今日はもう帰るか」
「そ、そうですね……。薬草もそこそこ集まったし……」
腰に下げた袋を持ち上げながら薬草を示している。フィアも帰ることに異論はないようだ。
瑞樹も異論はないようで、俺たちはひとまず今日は帰ることにした。
森を抜けるとまだ太陽は空高く輝いている。時計があれば午後三時か四時といった時間帯だろうか。季節もわからないので合ってるかどうかもわからないが。
……というか四季があるかどうかも謎だけどな。
街へと帰る間、瑞樹は何か考え込んでいるのか終始無言だった。
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