第108話 転生者は異世界で何を見る? -掃討-

 両手に持った木剣を勢い良く振りかぶって、手近なコボルドの首へと叩きつける。

 何も反応することもできないまま、コボルドは俺の木剣をその首で受け止めるが。


 バギッ!


 鈍い音がしたかと思うと、コボルドの首と手持ちの木剣が同時に折れた。


「マジか!?」


 まさか一撃で折れるとは思ってなかったぞ! 壊れたら弁償って言われてんのにどうすんべ!

 いやいや、今アレコレ考えてもしょうがない。とりあえず目の前の敵を排除しないと!

 壊れてしまった手持ちの木剣を投げ捨てると、俺はそのまま素手でコボルドへと殴り掛かった。


 こちらに気が付いていたコボルドキングが慌てて指示を出しているようだが遅い。

 体制が整う前に五体のコボルドを一撃で沈め、次のコボルドへと向かう。が、連携が取れるコボルドと言っても所詮コボルドのようだった。

 こちらの攻撃の隙に死角から襲い掛かろうとするが、その攻撃が到達する前に俺は次のコボルドに向かっていてその場にはいないのだ。

 気が付けば敵はコボルドキング一体のみになっていた。


 見渡せばそこかしこにコボルドが倒れている。

 二足歩行する犬という見慣れない姿はまさにモンスターと言った印象を俺に与えてくれる。


「そういやこの世界のモンスターは倒されても消えないな……」


 ましてやドロップアイテムなど落とすはずもなく。

 ワイルドボアを撃退したときに気が付いてもよかったものだが、あれはイノシシという認識で、モンスターとは思っていなかった。


「た、助かった……」


 襲われていた冒険者のセリフが後ろから聞こえてきた。まだキングは残っているが囲まれている状況からは脱したのでもう安全だろう。

 敵のキングもじりじりと後退しており、逃げる機会を窺っているのもあるかもしれない。


「マコト!」


 と、そこに追いついてきたらしいフィアの声がする。ちょうどコボルドキングの後ろからだ。


「――ッ!!」


 その瞬間にコボルドキングが踵を返して逃げるように走り出す。フィアがいる方向に向かって。


「う、うわああぁ!」


「お、おいっ!」


 同時に瑞樹と、後ろの冒険者の慌てる声が聞こえてくる。

 とっさに魔法を使おうと両手を向けたが、フィアは慌てていないので少し様子を見ることにする。

 キングのステータスもそれなりに高かったが、フィアと比べるべくもなかったし。

 そしてフィアとコボルドキングの距離が五メートルほどになった瞬間、巨大なハンマーで打ち上げられたかのごとくコボルドキングが空高く舞い上がった。おそらく【エアハンマー】を使ったんだろう。

 なすすべもなく頭から地面へと激突したコボルドキングを鑑定してみるが、すでに死んでいるようだ。打ち所が悪かったのか。

 キングという割にはあっけなかった。


「はは……、あんたら、すげぇな……」


 振り返ると満身創痍な冒険者が五人そろってこちらへと近づいてくるところだった。

 前を歩くリーダーは所在なげに頬をポリポリとかいている。後ろのメンバーも信じられないといった表情で目を見開いている。


「マコト……、あの大きいモンスターがコボルドなの?」


 フィアもこちらに近づいてきていた。自分がぶっ飛ばしたモンスターの正体が気になるのか。


「どうやらあのでかいのはコボルドキングってやつらしいぞ」


「そうなんだ」


「なっ!? コボルドキング!?」


「キングですって!?」


「……こんな街の近くの森に出るなんて」


「マジかよ……、こりゃギルドに報告だな」


 フィアと冒険者たちが口々に感想を漏らしている。

 にしてもキングは報告案件なのか。まぁ確かに森に出るモンスターをギルド職員に聞いた中にはいなかったな。


「その様子だと、間に合ったみたいだな」


 俺は五人の冒険者の状態を改めて確認してみて、自分が間に合ったことに安堵する。見た目満身創痍ではあるが、自分で立って歩いているので問題ないだろう。


「ああ……、おかげで助かった。……その、ありがとう」


 助かったことは感謝しているがどうも納得がいかないような口調だった。

 ついさっき「邪魔するな」と冷たくあしらった相手に助けられたので、バツが悪いだけかもしれないが。


「もう! クレイは素直じゃないんだから!」


 後ろの弓を背負った女性がクレイと呼ばれたリーダーの男に注意している。よく見るとその耳は長く尖っていた。なるほど、前回ちらっと見たときには気づかなかったが弓使いの女性はエルフらしかった。


「おめぇ、見かけによらずつえーな!」


 ドワーフ体型の斧使いが豪快にガハハハッと笑う。後ろに控える魔法使いの二人はそれぞれ無言で頭を下げた。

 男の魔法使いは無表情だが女の魔法使いは恥ずかしそうに男魔法使いの後ろへと移動している。


「後ろの子もすごかったわね。……あれって風の魔法かしら?」


 なんとなく風魔法が得意そうなエルフの弓使いがフィアの魔法を褒めている。

 フィアは肯定するように頷いているが、それを見てさらにエルフの弓使いが尋ねてくる。


「そっちのお嬢ちゃんも見た目で判断しないほうがいいんでしょうねぇ……」


「えっ? あ、いや……、おれは全然たいしたこと……」


 しどろもどろになりながらも言葉を絞り出す瑞樹だが、そのセリフに冒険者が目を丸くしている。


「「「おれ?」」」


 お嬢ちゃんと呼ばれたことに複雑な表情をしているが、自分を「おれ」と呼んだ瑞樹に対しても冒険者は似たような表情であった。

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