第85話 モンスターズワールド -納入-
「で、他にあった要望ってのは?」
店の奥でガツガツと飯を食う野良猫を見ながらアルブレイムに続きを促す。
やたらとニャーニャーうるさいと思ったらどうも腹が減ってたようだ。すごい勢いで貪り食っている。
「ええ、あとは追加注文をいくつか受けてます。ガラス食器にLEDライトと、あとは意外ととらんぷっちゅーカードゲームが人気ですな」
いくつかトランプでの遊び方を書いた解説書を付けたのが功を奏したのだろうか。
トランプ以外のゲームも人気があるとのことだったが、トランプだけは群を抜いていた。
「あとは、遠回しにやけど商品の仕入れ先を聞き出そうとする客もおったね」
暗黙のルールとしてそこは聞いちゃダメなところだが、物がモノだけに思わず聞いてしまったのだろう。
「要望と言ったらそんなところですわ」
「ああ、ありがとう。要望は次回の仕入れのときにでも取り入れるかな……。
んじゃさっそく、今回仕入れた商品だけど」
開店前の店舗を見渡すが、仕入れた商品を広げるスペースはないようだ。
仕入れた商品を全部出したらどれほどの量になるのか自分でも把握できていない。
「……ここだと狭いですね」
一緒に仕入れをしていたフィアがそう口にする。
前回は少量しか仕入れていないため、店内にはこの世界にある既存商品でほとんどが埋められている。
値段設定もしていない今回の商品はまずは倉庫代わりにしている地下に置くことにした。
三人連れだって、先ほど出てきた階段を下り、こちらの世界へと来た小部屋とは別の大部屋へと入る。
部屋の奥へとやってくると、アイテムボックスから取り出すと、備え付けの棚へと並べていき、段ボールで仕入れたものはそのまま地面へと置いていく。
ひたすら並べていくと、アルブレイムの表情がだんだんと引き攣っていくのがわかる。
「か、会頭殿……。一体どんだけ出てくるんや……」
アルブレイムは俺がアイテムボックスというスキルを持っていることは知っているが、どれだけの容量が入るのかまでは知らない。
「これで最後かな?」
広い大部屋の半分ほどが埋まってしまった。もともとこの世界既存の商品はメインにするつもりはなかったので、倉庫内には置いていない。
「こら、どういう商品なんか覚えるほうも大変やな……」
アルブレイムに言われて初めて気が付いた。つまり俺は商品について全部説明しないといけないわけで。
フィアも何に使うかわからない商品も多いだろう。
「会頭殿。他にも店員が欲しいところやな……」
「……そうだな。信用できそうな人物がいれば頼む」
「おおきに。さすがにこんなに商品が大量に入るとは思ってなかったわ……」
さて、商品の説明をしますかね。……でないと売れないから。
□■□■□■
「マコト、お疲れ様です」
使用の許可をもらった城のプライベートエリアの一室にて、フィア自らがお茶を入れてくれていた。
侍女も待機しているので、呼べばお茶くらい入れてくれるのだが、このところ家事類は率先して自らやっていた。
「ああ……、ありがとう」
久々に帰ってきたのだからフィアも両親に会うために戻ってきたというわけである。
仕入れた商品も一種類ずつ全部見本のために持参している。
時間はもう夕方になろうとしていた。
そんな感じでくつろいでいる俺たちの部屋に、扉をノックする音が響き渡る。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
フィアが返事をすると、扉を開けて入ってきたのは五十代ほどの女性であった。
廊下を歩いているとすれ違う侍女と同じ服装ではあるが、その雰囲気にはどこか貫禄がある。
「――リア!」
入ってきた女性の姿を見た瞬間、フィアは飲んでいたお茶のカップをテーブルに置くと立ち上がり、勢いよくリアと呼んだ女性へと向かった。
「お久しぶりでございます。フィアリーシス様」
「ええ、リアも変わりないようで」
フィアに接するその顔は慈愛に満ち溢れており、娘に対する母親のようでもある。
ああ、この人がフィアが言っていた侍女頭かな。
入ってきたときは貫禄があって、さすが侍女頭かとも思ったけど、フィアの前では乳母をやっていたときの雰囲気が出るんだろうか。
そんなことを考えているとリアと呼ばれた女性がこちらに向かって挨拶をするところだった。
「お初にお目にかかります。侍女頭を務めておりますフローリアと申します。以後お見知りおきを」
深くお辞儀をすると、何も見逃すまいとするかのように視線が鋭くなる。
乳母をやっていたということなら、娘と言ってもいいフィアの婚約者がどんな人物なのか気になるところだろう。
こっちも挨拶はしておいたほうがいいとは思っていたからちょうどいい。
ゆっくりと立ち上がるとフィアの隣まで歩いていく。
「これはご丁寧に。マコト・サワノイと申します。こちらこそよろしくお願いします」
「ではやはりあなたがサワノイ商会の……!」
自己紹介とともに驚かれるが、いったい何に対しての驚きだろうか。
「あの皮むき器という道具はとても便利に使わせていただいておりますよ」
あ、そこでしたか。
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