第56話 行方不明事件その後
「おう、生きてるか」
『誠か。ようやく生き返ったところだな』
「なんだよ、死んでたのか」
電話を掛けた小太郎にいつもの挨拶をし返してやったら、若干物騒な返事が返ってきた。
『ああ……、あの行方不明事件のおかげでな』
「そ、そうか」
そういえばコイツ、行方不明者の捜索依頼受けてたんだっけか。さっぱり情報がないとか言ってたが、まぁあちこち走り回ってたんだろう。
「解決したんだし、よかったんじゃないか」
『……まあそうなんだが』
「なんだよ。歯切れが悪いな」
『お前からの電話でまだ終わってないことを思い出しただけだ』
「そうなのか。がんばれよ」
と言ってもほぼ終わったも同然だろう。当人が見つかったんだし。
そう思って軽い調子で他人事のように励ましてやったんだが。
『何言ってる。被害者の第一発見者のお前に用があるに決まってるだろう』
おおう、なんてこったい。まあいい、小太郎には金貨の換金方法を聞かないといけないし、異世界の話はするつもりであった。
「なるほど。ちょうど俺も小太郎に用があったからな」
『ああ、そりゃ電話してきたんだろうからわかる』
「そうか。いやちょっと見てもらいたいものがあってな。そんな急ぎじゃないんだけどどっかで会えないか?」
『ほぅ? そうだな……。明日家に寄っていいか? 行方不明者を見つけた公園とやらにも行きたいし。近所なんだろ?』
あー、見つけたってでっちあげた公園ね。たまたま近所に
「そうだな。近所だな。
『ああ、頼んだ。んじゃ、明日朝十時くらいに行く』
「りょーかい」
『それじゃ、また明日』
「ああ」
来てくれるんならありがたいな。ああそうだ、さくらにも言っておかないと。
小太郎にさくらが来ていることを言わなかったのは理由がある。そんな大層なものでもないけど。
なんとなくだけど、小太郎はさくらに苦手意識があるっぽいんだよね。よくさくらにからかわれてるというか振り回されてるし。
まあ今回のパターンだと、言ったところで家に来ないという選択肢はないだろうけど。
ついでに風呂に行くかと思い立ち着替えを持って部屋を出る。さくらの部屋に明かりはついていないようだったので二階から降りてくると、案の定リビングにいた。
「あ、お兄ちゃん」
リビングの扉を開ける音に気付いたのか、さくらが振り返る。
「おう、明日の朝十時くらいに小太郎が来るってさ」
「ホントにっ!? やった!」
どうにも反応が子どもっぽい。確かもう二十七だった気がするが。
「ああ、例の行方不明事件の被害者の親父さんから捜索依頼を受けてたみたいでなあ。思わず近所の公園で二人を保護したって小太郎に言っちゃったもんだから見てみたいってね……」
晩飯の時に行方不明事件の真相を俺から聞いたからだろうか、リビングのテレビではニュースが流れており、ちょうどその特集をやっていた。
『……保護された高校生二人とも、何も覚えていないと答えるばかりで真相の究明には未だ進展が見られません……』
はは、俺自身のことは口止めしたわけではないが、本当になにも言ってないみたいだな。まぁこの家に報道陣が詰めかけることがないというのはありがたいことだ。今度お礼を言っておこう。
ついでに小太郎に会ったら俺のことは言わないように言っておかないとな。まぁ言いふらしたところで誰も信用しそうにないことをぶちまけるわけだが。
「あははっ! 秘密を知っちゃうと言いふらしたくなるなあ」
ニュースを見ながらニヤニヤ笑いが止まらないようだ。
「おいおい、言いふらすんじゃないぞ」
「わかってるよ。言ったら連れて行ってくれないでしょ」
ばらしたら異世界行きはナシとは言ってないが、もちろんそのつもりだ。
「おう、わかってるならいい。
んじゃ風呂行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
――翌朝。
『ピンポーン』
午前十時きっかりに玄関のインターホンが鳴った。
「はーい」
インターホンの電話に出ればいいのに、なぜか返事をしてパタパタと玄関に向かうさくら。
これで人妻というのだから驚きだ。旦那さん曰く『それがいい』らしいが、俺には理解できん。きっと身内フィルターがかかっているんだろう。
「小太郎さんお久しぶりです!」
ガラッと開けた玄関の向こうから小太郎を迎えるさくらの声が聞こえてくる。
「あれっ? さくらちゃん帰ってたの!?」
「はい。お兄ちゃんが心配で様子見に帰ってきました」
「あー、連絡付かないって言ってたもんねぇ」
「元気そうだったんでよかったんですけどね……」
まだ玄関でしゃべりそうな二人の声がする。そろそろ家に入れてやれよ。
「どうしたの……?」
小太郎の声音が若干うんざり気味になっている。
「聞いてくださいよ! 洗面台に歯ブラシが二本刺さってたんですよ!」
おいおいさくらさん? 一体玄関で何を愚痴りだすんですかね!?
リビングで待っていた俺であったが、さすがに面倒なことになりそうだったので慌てて玄関へと向かう。
「……はぁ? ……あぁ。そういうことか……」
どうやっても通じそうにない言葉だったが、どうやら小太郎にはピンと来たようで。
職業柄察しはいいから困るよね!
「何か知ってるんですか!?」
「いやー、あいつと電話中に、後ろから女の――」
「いらっしゃい小太郎! 玄関でいつまでも無駄話してないで、さっさと入るがいい!」
会話を遮るためにも大き目の声で叫んだはいいが、変な口調になるのであった。
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