第57話 換金依頼
「で、話ってなんだ?」
リビングテーブルに三人分のお茶の入ったコップを置いた俺に小太郎が切り出してきた。
俺は小太郎とさくらの向かいのソファーに腰かける。
「実は、ちょっとしたお宝を手に入れてね」
「ほぅ」
ピクリと小太郎の眉が上がる。
「なんでも屋」なんていう仕事に就いているからかどうかはわからないが、小太郎はこういった話が好きだ。
実際にトレジャーをハントするような仕事は一回もないのだが。
「金貨だと思うんだけど、鑑定も含めて換金できないかなーと思って」
「……マジか。見せてくれ」
「おう」
小太郎にはまったく隠す気がないので、堂々とアイテムボックスから金貨の入った袋を三つ取り出す。
俺の開店用資金の残りである金貨三十五枚のうち三十枚と、明と穂乃果から預かった金貨九十九枚ずつの袋である。本当は百枚もらったんだが、二人が「一枚は記念に」とポケットに入れて持って帰ったのだ。
目の前の小太郎はと言うと、何もないところからいきなり袋を三つ取り出したというのに、それをスルーするかのように袋に手を伸ばして中身を一枚取り出している。
が、そこでようやく気が付いたのか。
「……お前、コレをどこから出したんだ?」
気づくのがおせーよ! しかも見覚えのあるヤバい物を持ってる理由を問いただす風に言わんでもいいだろ。
「お兄ちゃんは魔法使いなのです!」
さくらもややこしくなるからやめろ! しかも答えになってねーし!
それに微妙に間違ってないから指摘しづらい。
「なんだと……!? お前も……、オレと同じだったのか……!」
ちげーよ!! お前のはこっちの世界のだろ! 一緒にすんな!
「えっ!? 小太郎さんも魔法が使えるんですか!?」
「だあああああっ!! ややこしくなるからもうやめろ!!」
俺が静止の声を上げるがどうやら遅かったようだ。
「ぐふっ……! お前……、さくらちゃんの前で何を言わせるんだ……!」
何のことかわかってはいなさそうだが、友人の妹の前で自ら暴露してしまった小太郎が顔を真っ赤にして頭を抱えている。
つーか俺のせいじゃないよね?
「知るか! 自業自得だろ!」
「……まあそれは置いといて」
まだ復活した感じには見えないが、本題の話を進めることを選んだようだ。いやな話題はスルーするに限る。
「いきなり袋が現れた気がしたが……、魔法……、なのか?」
「魔法の話は置いとけよ!」
「置いただろ! 勝手に話を戻すんじゃない!」
お、おう、置いてたのか。すまん。自分の中じゃアイテムボックスは魔法という感じがしてなかったから、思わず突っ込んじまった。
「すまんすまん。まあ魔法みたいなものだ。……で、その金貨は行方不明の高校生がいたこことは違う世界の国のお金だな」
もう一つ別の世界のお金もあるが、そこは説明が面倒なので省く。小太郎からすればどっちも変わらんだろう。
「……はあっ!?」
「ええっ!?」
小太郎と一緒にさくらも驚いている。そういや金貨もらった話はしてなかったな。
「だからその金貨を換金できないかなーと思って。……しかも定期的に」
「「なんだって!?」」
今度は声をそろえて驚く二人。
「入手先が言えないところだし、追加で手数料払ってもいいからできないかな?」
「……いやちょっと待て。なんだよ『こことは違う世界』って。あの二人はお前が保護したんじゃないのか?」
「あの二人は俺が連れて帰ってきたんだ。……異世界からね」
「……じゃあ俺が見に行きたい公園ってのは」
「近所に公園があるのは本当だけど、まったくもって事件とは関係ない。すまんな、嘘ついて」
さすがに小太郎がどこで電話に出てるかわからないところだと、周りに誰がいるかわからないので異世界の話を打ち明けるわけにもいかなかった。
と言うのは建前で、はやくフィアの件を片づけたかったからだが。
「いや……、それはいい。それはいいが……、ほんとにあるのか? 異世界なんて……」
手品のように金貨の入った袋を出したがそれでも信じられないのだろう。疑うような感じではないが、何か考え込んでいるのか腕を組んで唸っている。
こいつのことだから異世界が存在する理由だとか原理だとかを無駄に考えてるんじゃないだろうか。
「今すぐは無理だけど、準備ができたらそのうち連れてってやるよ」
「……そうか、……平行世界? ……次元の……、位相……」
俺の言葉が聞こえていないのかブツブツと腕を組みながらつぶやき続ける小太郎。いつもの悪い癖でも出たか。
なかなか戻ってこない小太郎にしびれを切らしたのか、隣にいるさくらが肘で小太郎の脇腹を思いっきり殴りつける。
「ごふっ! ――な、なにするのさ!」
もしかしてこのために小太郎の隣に座ったんじゃないだろうな。何にしろ助かったが。
わき腹を抑えながらさくらに抗議するも、俺たちの視線に気づいたのか軽く咳払いをして平静を装う。
換金についてはむしろ喜々として請け負ってくれたが、どちらかというと疑り深い小太郎はさくらとは違うようで、何度か問答を経て異世界に納得したようだった。
「もちろん誰にも言うんじゃないぞ」
「当たり前だ。どっちにしろ言っても誰も信じてくれんだろ。しかし……、依頼人には『不明』という結果しか言えなくなったな……」
ひとしきり納得した後であるが、眉間にしわを寄せて考え込む小太郎。今日ここに来た目的も行方不明の間に何があったか探るためだったっけ。
うん、まあそこは諦めてくれ。
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