第55話 さくら2

「お、おお、お兄ちゃん……、魔法使いだったの!?」


「え? ……あ、うん」


 さくらの予想と違う反応にどう応えていいものかわからず、とりあえず肯定するしかできなかった。

 いきなりアイテムボックスから物を取り出すなんてやらずに様子を見てからのほうがよかったか。


「何もないところから急に出てきたように見えたけど……」


 テーブルの上に置かれた金貨を手に取って、「うわ、思ったより重い」などと言いつつしげしげと眺めている。


「うん、何もないところに何でも収納できるぞ」


「うわっ、なにそれ超便利」


 なにも疑ってないような口調である。他人を疑うことをしない性格なのは知っているが、ここまでとは思わなかった。むしろ逆にこちらが心配になってくるぐらいだ。


「危険物持ち込みし放題だね!」


「…………」


 注目するところはそこじゃねえ。いつも予想の斜め上を行くさくらだが、今回も例に漏れなかったようだ。

 しかしそういう発想に収穫がないわけではない。誰にも気づかれずに持ち込めるというのは確かに危険な能力かもしれない。今までなんとなくで隠していたが、これからはきっちり隠していこう。


「ところで、これは何?」


 金貨を持っていない反対側の左手で、テーブルの上に置かれた牙を指さす。

 うむ。俺も何の牙かなんて覚えていない。


「なんだったかな。生物の牙であるのは間違いないが」


 テーブルの上にあるソレは十センチはあるだろうか。犬歯だとしても大型動物であることは間違いない。

 ちらりとアイテムボックスのウインドウを確認してみると、同じ牙が格納されている枠にあった名称欄には『グレイトウルフの牙』と記載されている。


「そうそう、狼の牙みたい」


「……大きすぎない?」


「まあ異世界だし?」


「象くらいあるんじゃない?」


「かもね」


「……乗れそうね?」


「……かもね」


 なんかいろいろ悩んでた自分が馬鹿らしくなってきた。魔物なので乗りこなすことができるのかどうかは不明だが。


「こっちは金貨よね?」


「ああ、向こうの世界の国の金貨だな」


「ふーん。……金貨ねぇ。こっちの金と同じ成分なのかな?」


「えっ? ……いや、そんなこと考えたこともなかったな」


 向こうの世界で『金』と言っているものがこちらの金と同じ保証は何もない。そもそも世界が違うのだし、極端な話向こうの食べ物で俺がちゃんと栄養を摂れているのかということもわからないわけだ。

 まあ何度も飯は食ってるしそこは大丈夫と思うが。


「そこらへんも含めて小太郎に頼んでみるか」


 もともと継続的に換金可能か小太郎に頼んでみるつもりだった。アイツにはよくわからん伝手がいろいろあるからなんとかなる気はしているが、成分鑑定とかも含めて言っておけばいいか。


「あ、わたしも久々に小太郎さんに会いたいな」


「ん? ああ、そうだな」


 俺はちょくちょく会うが、さくらはそうではない。たぶん結婚式以来じゃなかろうか?


「ところでお兄ちゃん、結局あの歯ブラシは誰の?」


 くっ、ちゃんと覚えていたか……。しょうがない。


「まぁ成り行きでな……。向こうの世界の人間がこっちにきちゃったんだよ」


「へー。……ちゃんと紹介してね?」


 ニヤニヤしながらも深く突っ込んでこないさくらに薄ら寒い予感を覚える。いかん、これは下手に突っ込んだらダメなやつだ。




 リビングで話をしているといつの間にやらもう夕方だったらしく、さくらは結局そのまま泊まっていくことになった。

 久々に兄妹で食卓を囲み、異世界であったことを話しながら過ごした。相変わらず斜め上の反応をされ、もちろん連れて行ってくれとも頼まれたが他の動物で実験してから……と濁しておいた。

 フィアの送り迎えは何度かやっているが、こちらの一般的な生き物が問題ないかは確認していないので慎重に行きたい。

 鑑定をしてみてわかったが、俺と違ってこちらの一般人の平均ステータスは二桁だったからだ。


 今は自室のパソコンで、自分の商会で並べる商品を物色中だ。今は自分のポケットマネーから出すことにしているので、そんなに大量に品物が買えるわけではない。

 最初は少量から売れるかどうか確認するだけでもいいだろう。

 明日はフィアを連れて行ったショッピングセンターにでも行ってみるかな。百均と三百円均一の店を中心に回るか。で、ネット注文の品が届いたらあっちの世界に一度戻るか。


 ああ、小太郎にも連絡しないと。

 そういえば行方不明事件の顛末も気になるな。ニュースサイトで見た限りではあの二人は『記憶にない』で通してるようだし。

 そのせいか、二人がもらった褒美は俺が預かることになっているのだが、同じ金貨だし一緒に現金化してしまうか。


 ああいった世界の国の宝物庫というのは武器防具というものが多かった。

 まさかそういったものを持って帰ったところで使い道などあるはずもなく、雑貨系のアイテムにしてもこちらの科学技術に勝るものはあまりなかったのが大きい。

 結局二人は向こうで言う『現金』の金貨となったわけである。記憶にないはずなので、余計なものは持っていたら怪しまれるし、ましてや換金は未成年だと親の承諾がいるはずだ。

 ということで俺に回ってきたわけである。

 しかし現金化できたとしてもこんな大金どうすんのかね。


 まあいっか。


 とりあえず小太郎に電話してみるか。

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