第41話 アンデッドになるために召喚されたわけではありません! -神官長-
副神官長の執務室から訓練場に行くまでにすれ違った兵士に、執務室であった出来事を話して人を向かわせてもらう。
時間はまだ昼前なので、まだ三人は訓練場にいるはずである。様子を見たら忠告だけでもしてから神官長のところに向かうとしようか。
廊下を走りながら訓練場へと続くアーチを潜る。そこを抜ければ訓練場だ。
特に廊下の向こう側から音は響いてこない。剣戟の音だったり魔法の炸裂音だったり。今は休憩中なんだろうか。
そんなことを思いながらアーチが終わり訓練場に飛び出した。
ぐるっと見渡すが、目立つところに人影は――いや、ひとつあった。
こちらに背を向けてゴソゴソと何かやっているようだが……。
近づいてみるとその近くで寝転がってる三つの影も見える。……って、あれフィアたちじゃねーか? 何やってんだ。
「おーい、休憩ちゅ――」
寝転がって休憩でもしているのかと声をかけてそこではたと気づく。こちらに背を向けている人物は誰だ……? 何をやっているんだ?
声をかけたことでそいつが振り返る。
「おや、……随分と早かったですね」
にたりと口をゆがめて微笑を浮かべた神官長のジョゼがいた。
「――何をしている」
ジョゼを睨み付けながら油断なくいつでも動けるように腰を落とす。
振り返ったジョゼが手に持っていたのは、黒い液体のようなものが半分ほど入った牛乳瓶サイズのガラス瓶だった。
くそっ、黒幕の正体を掴んだからと言ってまったくもって油断していた。まさか先手を取られるとは思っていなかった。
フィアたちは見たところ外傷はないようだが……。そういえば鑑定で状態がわかったな。
ちらりとフィアを一瞥して鑑定してみる。
――――――――――――――――――
状態:睡眠
――――――――――――――――――
どうやらただ寝ているだけのようだ……。いや、この場合眠らされた可能性もあるか。ちなみに他の二人も同じ睡眠状態だった。
なんにしろ無事だとわかってほっと胸をなでおろす。少し余裕を取り戻せたかな。
「いえね、勇者殿の訓練が激しすぎたようで倒れてしまわれたようなので、お薬を処方して差し上げようとしていたところですよ」
なんだよ薬って。まさかアンデッド化する薬とかじゃないだろうな。んな怪しい物は却下だ。
「そうですか、でも俺が魔法で治療するんで大丈夫ですよ」
「いえいえ、お疲れのマコト殿を煩わせるわけにはまいりませんので……」
「……ふむ。ところでその薬、……ちゃんと
俺の言葉にピクリと眉を動かすジョゼ。
「……どこでそれを」
そう言いながら懐から短剣を取り出して、地面で寝ているフィアに向かって突きつける。
ぬぅ、もう隠す気もないのか。素直に薬を使わせてくれないことがわかったのかもしれないな。気づかれていないのならば、薬を使えばちゃんと目を覚ますのだし。
「さてね……、どこでしょう?」
瓶にはまだ蓋がされてあったのですぐに薬を使われる心配はなかったが短剣は別だ。飛びかかろうかと思っていたがテレポートにするか。
「ふん。どちらにしろ、あなたがこちらに近づく前にこの女にナイフを突き立てる方が早いですよ……」
俺とジョゼの距離は十メートルほどだろうか。
一般的なステータスの人物なら確かに間に合わないかもしれないが、直立した状態から屈みこんで寝転がる人間にナイフを突き立てる時間であれば、俺なら間に合うかもしれない。素直に走ったりはしてやらんが。
テレポートを使おうかと思ったとき、ジョゼの表情がもう一度にたりとしたゆがんだ微笑に変わる。
「――そうだ。マコト殿がこの薬を飲んでいただければ、
「なんだって?」
自分を差し出せば三人が助かるってか? しかもそれって今だけじゃねーか。誰がんなことやるかっつーの。
……いやでも待てよ?
「あなたがコレを飲めば、この三人が助かるんですよ」
「……本当だな?」
むしろこの状況を利用してやればいいんじゃないかという気になってきた。瓶を俺に渡すために接近しての手渡しなんていう危険は冒さないだろう。とすればきっと――。
「ええ。それはお約束しますよ。きっちりと飲んでくださればね」
しばらく焦りながら考えるフリをして様子を見る。念のために周囲を【気配察知】と【空間認識】で探ってみるが、やはり神官長以外の人間はいないようだ。
「……わかった。飲めばいいんだな?」
「ははっ。賢明な判断です――ね!」
セリフと同時に手に持った瓶を放物線を描くようにこちらに投げてくる。
と同時にテレポートを発動!
相手の背後に回り込むと、背中側に突き出した短剣を持つ手首を手刀で打ち付けると同時にパラライズを叩き込む。
「くはっ!! ……なっ、どうなって……」
こちらを振り返ることなく前のめりに崩れる神官長であった。
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