第40話 アンデッドになるために召喚されたわけではありません! -全滅-

「くそっ!」


 迫りくる騎士の斬撃と投げナイフに俺は咄嗟にテレポートを使用する。

 魔法を詠唱し発動寸前の魔法使いの向こう側へと、腕をつかんだままのレイと共に出現した。


「――っ!!」


 一瞬で視界が切り替わる現象に声にならない悲鳴を上げるレイ。

 どうやら触ったものは一緒に移動するようだ。咄嗟のこととは言え上出来だ。

 さてと、ちょっと冷静になれたし、とりあえず全員無力化しますかね。


 テレポートを使った時点でさっきまで維持していた氷の槍の制御は完全に放棄したため、空中での静止を維持することができずに床へと落下している。

 まずは腕をつかんだままのレイに対してパラライズを使用すると、まだこちらに背を向けたままの魔法使いに対してパラライズを行使する。

 まだ体勢を整えられていない騎士たちにもパラライズを行使していくが、素直に食らったのは三人までのようだ。

 これで残りは騎士が三人と黒ずくめが二人である。


「――な、なにをする!?」


 体勢を立て直した騎士が真っ先に問いかけてくる。


「そっちこそいきなり何しやがる! 捕縛と聞いてたのに……あの剣筋は殺す気だったんじゃないのか。

 ……それにそこの黒ずくめ二人は何なんだ。明らかに投擲ナイフは俺に向かってたんだが」


 それにしても姿を消すスキルでも持ってんのかね。あの黒ずくめは。

 会話で少し余裕が出てきたので鑑定してみる。


 ――――――――――――――――――

 名前:ルドルフ

 種族:人族

 性別:男

 年齢:27

 職業:アサシン Lv18


 Lv:42

 HP:1612/1612

 MP:264/264

 STR:289

 VIT:259

 AGI:598

 INT:109

 DEX:432

 LUK:29


 特殊スキル:

 【投擲術】【短剣術】【気配察知】

 【忍び足】【隠密】

 ――――――――――――――――――


 【隠密】か……? 【忍び足】もあるが、そんなんで姿が見えなくなるようなことができるのか……。

 ……俺もできるのかな。まあできるんだろうなあ。

 こちらの世界だと特殊スキルとしてなにか持っていれば、それ系統のスキルというか技を繰り出せるようになるようなのだ。

 例えば【火魔法】の特殊スキルを持っていれば、火を使った魔法全般が使えるようになるとか。


「……抵抗をしたので反撃したまでだ」


 騎士の言葉で黒ずくめ……というか隠れるスキルへの考察を中断する。

 ふむ。闇魔法とか厄介なものがあるから、黒幕をしゃべらされるくらいなら口封じというところか。

 ついでに俺も始末できればってところだったのかな。ここら辺で一回揺さぶっておくか?


「そうかい。闇魔法にかけられないように口封じってわけか。神官長もよっぽどの念の入れようだな」


 ニヤリと口元をゆがめると、動揺が広がっていくのがわかる。黒ずくめはさすがに何も反応がないが、騎士はそれ以上に反応する者がいたようだ。


「――なっ!?」


 思わず声を上げた騎士を一瞥すると、わざと驚いたふりをしてやる。


「へぇ? やっぱり神官長だったのか?」


 さすがにその騎士を窘めて墓穴を掘るセリフは他のメンバーからは上がらなかったが、少しでも神官長を疑えるネタを得られたのは大きい。


「……なんのことだ」


「さあね。上司にでも聞いてみろよ」


 ここにきて俺を狙ったという事実に、他の三人がちょっと心配になってきた。

 神官長のところに乗り込む前に三人の様子を見ておきたいところだな。確か三人はいつものように訓練中だっけか。捕縛作戦に動かない人間はできるだけいつも通りって話だったし。


「その前に俺が直接問いただしてやるけどな!」


 セリフと共に手近な騎士に体勢を低くして近づくと問答無用でパラライズを行使する。

 精鋭といってもステータスが十倍以上離れているので俺の動きについてこれる人間はいない。いたとしても反応できる程度で、その動きがこちらの攻撃を防ぐことに間に合っていない。

 一人二人と騎士を無力化していき、最後の騎士を無力化しようと接近したとき、それに合わせるように黒ずくめ二人からナイフが投擲されるのが気配でわかった。


「おっと」


 避けてもよかったのだが、ナイフの飛翔速度が体感で遅く感じられたのをいいことに、親指と人差し指でつまんでキャッチする。

 お返しとばかりにナイフにパラライズを纏わせて投げ返す。


「ぎゃっ!」


「ぐあっ!」


 刺すつもりはなかったので適当に投げたが、一人には運悪く刺さったようで麻痺したようだがビクンビクンと痙攣している気がする。

 大丈夫かなあれ?

 ちらりと鑑定するとHPはまだ半分以上残っていたので大丈夫だろう。

 ステータス状態にも『麻痺』と出ていたので、魔法を武器に籠めても有効だということがわかった。ぶっつけ本番だったがうまくいってよかった。


「あとはあんた一人だな。でもまあ、用はないんで寝ていてもらおうか」


「くっ……、化け物め……!」


 失礼な。俺はれっきとした人間ですよ。鑑定した種族も人族ですし?

 しかしこのステータス差だとそう思われてもしょうがないのかな。今まで何人か鑑定してきたけど、俺と同じ桁の数字のステータスを持った奴はいなかったし。

 渋面を浮かべながら最後の騎士を無力化するのであった。

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