第42話 アンデッドになるために召喚されたわけではありません! -褒賞-

 あれからすぐに三人は目を覚ました。

 なぜ訓練場で寝ていたのか聞いてみたが、三人とも記憶が曖昧で疑問形でしか答えを返さない。


「いつものように団長とセルフィナさんとで訓練していたような……?」


「うーん……。あ、でも途中でそこで縛られてる神官長が来たような……?」


「そうだったかも。……そのあとなんだか甘い匂いがしたような……?」


 明、穂乃果、フィアと順に回答があった。何か眠り薬でも使われたのかね? まあ元凶は成敗したからいっか。

 しかし日本に帰れると明かした時には泣いて喜ばれたな。


「そういや二人とも、もし日本に帰れるとすれば……、帰りたいか?」


「「はい?」」


 おいおい、何言ってんのコイツ? みたいな顔で俺を見るのはやめろ。


「まあこの王国で、邪教徒を倒した英雄? として生きていくのもひとつの選択肢ではあると思うが……。

 帰りたくはないか? 冗談を言っているわけじゃないぞ。

 ちゃんと帰る手段を見つけたんだ」


 最初からあったけどね。もちろんそんなことは言わないが。


「ほ……、ほんとうに?」


 震える声で穂乃果が呟く。目には涙がたまっており今にも零れそうだ。


「…………」


 明はうめき声を漏らすだけで口をパクパクさせるだけだ。なんかしゃべれよ。


「ああ、本当だ。だけど今すぐじゃないからな。

 一息つくにはちょっと時間がかかるかもしれんが、邪教徒問題を解決したんだ。

 ――褒美はちゃんともらって帰らないとな」


 それだけ言うとニヤリと口元を笑みの形に変えてやる。


「えっ? 解決? したの?」


 ああ、そういえばこいつが邪教徒のトップだって言ってなかったな。まあめんどいからいいか。


「解決しましたよ」


 フィアも説明は面倒と感じたのだろうか。有無を言わせぬ笑顔でそう断言するのだった。




□■□■□■




 あの黒い謎の薬が引き金となり神官長も闇魔法にかけられることとなったのだが、それからがもう早かった。

 芋づる式というのはこういうことを言うのだろう。トップから聞き出した人物が次々と捕縛され、あっという間に駆除が終わってしまった。

 とはいえ、ようやく落ち着いたのはあれからさらに三日後だ。

 大物はそれほどいなかったので、捕縛と周辺勢力の鎮圧が終わり、ひとまず気を抜けるようになったというところだが。

 もちろんその間は戦力として扱き使われましたとも。ええ、またもや三日間も元の世界で音信不通をしてしまったよ。ちょっと帰るのが億劫です。


「まことにご苦労であった。勇者殿。

 特にマコト殿。そなたには大変助けられた」


 そして、今現在は城の謁見の間である。四人並んでかと思いきや、三人の前に俺が一人前に出る陣形となっている。

 どうしてこうなった。

 功労者に褒美を授ける場ということだが、正直言えばさっさと帰りたくなってきたというのが本音である。

 まさかこんな緊張する謁見の間とかで褒美を授かることになるとは思わなかった。


「ところでな。今回の騒動でいくつか貴族の数が減ってしまってな。爵位に空きができておるのだよ」


 おいおいおいおい、なんか余計なもの与えようとしてませんかね。持って帰れないものはいらないんですが。

 後ろの三人の様子は見えないが、穂乃果に至っては「ぶふっ」とか言って噴き出している。

 これはよくない方向に向かってる気がするぞ。早々に断らなければ……。


「恐れながら陛下。発言をお許しいただけますでしょうか」


 国王の会話を途中でぶった切るとか、謁見の間に出るために軽く受けたレクチャーには含まれなかったが大丈夫だろう。一応功労者だし。そうでもしないと面倒なことになりそうだし。


「……うむ。許す」


「はっ。今回偶然ではありますが、故郷に帰る方法を発見しまして。四人とも帰還することを所望しております。

 そのため、またすぐに空きができてしまうことになる爵位については辞退させていただきたく」


「ほほう!」


 ある意味有能な戦力がこの国からいなくなるという宣言に等しい言葉に反対されると思いきや、好奇心が多分に含まれる声音で玉座から乗り出す国王。


「してその方法とは?」


「はい。私の魔法でございます」


 そういうアイテムがあるとかいう正直なことは話さない。城から出てないのにそんなものを見つけられるはずはないし、持ち込んだなど言えるわけもない。

 ましてやそれを使ってこっちにやってきたなどとバレれば……。

 一応俺のスキルに【空間魔法】があったから誤魔化せるはずだ。


「ほう、そこまで使いこなすか……!

 であれば、戻ってくることも可能では?」


 ニヤリと国王の口元が笑みを形作る。爵位授けてもいいんじゃね? とか思ってねーだろうな。

 しかしそう返されることは予想済みだ。なので予防線を張っておく。


「いえ……、もしかすると可能かもしれませんが、我が故郷はそもそも『魔法』が存在しない世界なのです。なので、可能性は限りなく低いかと」


「なるほど。……しかし、一度試してみてはくれんかね」


「はっ。かしこまりました」


 だが断る。

 どうせこっちから日本への連絡手段なんかないんだ。帰ったら放置に決まってるだろ。


「しかしそうさな……」


 顎鬚をさすりながら一考すると、続きのセリフが紡がれる。


「我が城の宝物庫から好きなものをひとつ持ち帰るがよかろう」

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