第3話 ロードライフオンライン -マジシャン-

 ジャージ姿のまま、衣料品店の前を物欲しそうにして素通りして到着したマジシャンギルドは、他の建物より一際大きかった。

 歩いているうちに、さすがに自分の服装が浮いていることにひしひしと実感していたのだが、この世界に来たばっかりなので無一文だ。ゲームの中では見かけなかった衣料品店や雑貨屋など、興味がそそられるものはあったが、いかんせん先立つものがない。

 ゲーム中であればお金を稼ぐ手段と言えば、モンスターを倒してドロップするアイテムを売ることなのだが、果たしてどうなることやら……。


「マジシャンギルドへようこそ」


 とりあえずは今目の前にあるものを堪能――、いや用事を済ませてしまおう。

 ボンキュッボンなお姉さんにマジシャンになりたい旨を告げる。うむ、やはり画面越しよりリアルがいいね。モニタを斜めから覗き込んでも視界が変わったりしないしね。

 え? 俺は変態ではありませんよ? 単純に二次元より三次元派だと言いたいだけで。


「はい、ではこの水晶玉に触れてください」


 カウンターの隅に鎮座しているソフトボールくらいの透明な玉を指し示す。触れるだけでマジシャンになれるのかな?

 ゲームじゃ転職クエストなんてのもあったはずだが、よくよく真面目に考えるとよくわからない材料から謎の薬を作ったからと言って、転職そのものに必要なわけではなかった。


 まあ不要なクエストは置いておくとして、飲み終わった缶ビールをカウンターに置き、右手で水晶玉に軽く触れる。


「……ん?」


 しばらく何も起こらないので首をかしげた頃に、水晶玉の中心から淡い光が生まれた。ある程度の明るさになったかと思うと、光はそのまま俺の手のひらに吸い込まれるようにして消える。


「はい、これで終わりました。ステータスを確認してみてください。スキルとして使える魔法が増えているはずです」


 にっこりとこちらに語りかけてくれるギルド職員のお姉さん。


「……ステータス?」


 そういえばゲームなんだし、ステータスがあったな。どうやって確認するんだろう。


「心の中でステータスが見たいと念じてもらえれば確認できると思いますよ。使い方は……、なんとなくわかると思います」


 うーむ。そういうもんなのか。案外適当だな。ともあれ自分のステータスが早速気になったので、心の中で『ステータス』と唱えてみる。

 と、不意に前方片隅にホログラムのようにステータスが表示される。


 ――――――――――――――――――

 名前:サワノイ マコト

 種族:人族

 性別:男

 年齢:31

 職業:マジシャン Lv1


 Lv:1

 HP:42/42

 MP:180/180

 筋力:6

 体力:8

 敏捷:6

 魔力:38

 技力:12

 幸運:59


 スキル:

 火【フレアアローLv1】

 水【ウォーターボールLv1】

 風【ウィンドカッターLv1】


 特殊スキル:

 【アイテムボックスLv1】

 ――――――――――――――――――


 おおお、なんだこれ。ちょっと初期値高くないですかね?

 俺はゲームの初期ステータスを思い浮かべて比較してみる。HPは普通っぽいが、MP多くね? 他のステータスも確かLv1だと一桁だったと思うんだが。

 しかも最初から使えるスキルとして三つもあるんだが何よ。ゲームじゃ敵を倒してジョブレベルを上げてスキルポイントを割り振るシステムだったはずだ。もちろん転職したてで使えるスキルなんてなかった。

 うーむ、ゲームの中と確信はしたけど、ゲームそのままってわけでもなさそうだなあ。

 んで最後に。アイテムボックスだ。これはまあゲームにもよくある機能だな。でもね、それは『特殊スキル』でもなんでもなかったんですよ? メニューからアイテム欄を開けばウインドウが出てきてですね、いつでも出し入れできたんですよ。

 それが特殊スキルですか。なんだよこれは。


「どうですか? 確認できましたか?」


 ゲームと違うステータスに困惑顔をしているとお姉さんが心配顔でこちらを覗き込んできた。


「あ、はい」


 綺麗なお姉さんの顔が近づいたことに内心ドキドキしつつ、できるだけ平静を装う。


「よかったです。他に質問などありますか?」


「大丈夫です」


 にっこりと笑顔のお姉さんに問題ないと伝える。


「そうですか。ではこれをどうぞ。転職のお祝いです」


 カウンターの下から取り出したのは、一本の木の杖だ。なんとなく節くれだっていて歪んではいるが一応まっすぐではある。

 そういえば転職祝いに杖をもらえたな。微々たるものだが一応魔法の威力が上がるんだっけか。


「ありがとうございます」


 右手で杖を受け取るが、カウンターには俺が持ち込んだ缶ビールが置かれている。そして左手には例の本だ。

 よし、ここはアイテムボックスの出番だろう。


 心の中でアイテムボックスを思い浮かべると、目の前にまたホログラムのようなウインドウが現れる。そのウインドウの上部には『アイテムボックス』と記載されている。

 どうもページ切り替えができるようだが、切り替える矢印がブラックアウトしていて選択できないようだ。Lvが上がるとアイテムボックスの容量が増えるってことかな?

 ウインドウひとつとっても縦四つ、横が十個で四十個の欄が表示されている。Lv1でも十分な容量があるように思う。ゲームのアイテム欄はもっと種類を持てたような気がするがどうなんだろうか。

 他にもこのゲームには『倉庫』というものもあったな。手持ちのアイテム欄に入りきらないものは、各街で共通になっている倉庫に預けると、どこの街でも引き出せるというものだ。うーん、ここでも倉庫は使えるのかな?


 とりあえずもらった杖と缶ビールと本をアイテムボックスへ収納する。目の前のウインドウに入れるように持っていくと、するりと入り込むように消えていき、ウインドウにはそれぞれワンド1、空き缶1、移動の手引き1と表示された。

 ん? 移動の手引き? この本の名前がそうなのか。表紙や背表紙には特に何も書かれてなかったしなあ。まあいいか。


 よし、次はさっそくスキルを試してみようか!


「ではがんばってくださいね」


 本については早々にスルーし、意気揚々とお姉さんに見送られてギルドを後にするのだった。

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