第4話 ロードライフオンライン -スキル-

 マジシャンギルドからまっすぐに街の外へと出てきた。門番が二名いたが、特にこちらに声を掛けることもない。まあゲームでも人の出入りを確認されることなどなかったが。

 門から外へは街道がまっすぐに伸びていて、その外側は草原が広がっている。パッと見た感じだとモンスターなどは見当たらない。


 ゲームだと割りとうじゃうじゃとモンスターが徘徊していた記憶があるんだが、最初の街の周辺では襲い掛かってくるモンスターは存在しない。こちらから攻撃を加えない限りはおとなしいものだ。

 それに攻撃されたとしても、受けるダメージは2や3といったもので、攻撃速度もそれほど早くもない。物理攻撃が苦手なマジシャンで真正面から殴り合っても勝てる相手なのだ。そこまで警戒する必要もないだろう。


 ――などと気楽に考えていた時期もありました。


 ふらふらと街道を進んでいると、ようやく遭遇しました。定番とも言えるモンスターのスライムだ。モニタ越しであればデフォルメされたかわいい感じの見た目だったが、リアルともなればそれは別だ。

 うねうねと伸び縮みする青い半透明の体が気持ち悪い。デフォルメされた目や口がついているわけなどなく、ぬめぬめとした表面が波立っているようにも見える。


「うわぁ……」


 思わず声に出してしまう。


 ゲームと同じように一度殴って様子を見てみようなどと思っていたが、これはもう早速スキルを試して倒してしまおうと決意する。

 ステータスを確認して使えるスキルに目を通す。


 ――――――――――――――――――

 スキル:

 火【フレアアローLv1】

 水【ウォーターボールLv1】

 風【ウィンドカッターLv1】

 ――――――――――――――――――


 序盤の敵だし何でもダメージは通るのだが、ここは相性のいいウィンドカッターにしようか。

 杖をスライムに向けて意識を集中させる。なんとなくだが魔法の使い方がわかる。スライムを凝視しつつ、俺は唱える。


「――ウィンドカッター!」


 杖の先端から見えない空気の刃が飛び出したかと思うとまっすぐスライムに向かって飛んでいく。スライムに接触した瞬間、スパンッという音が聞こえたかと思うほどにあっさりとスライムが半分になり、じわじわと溶けて消えていった。

 よくよく考えると切れたときは無音だったな。あまりにもゲームを想像してしまい、効果音が勝手に頭の中に響いただけだ。ハマりすぎると、目を瞑るだけでゲームの光景が浮かんだりする現象に見舞われたりしたが、似たようなものだろうか。

 ウィンドカッターは名前の通り、空気の刃を飛ばす魔法だ。このゲームでは魔法と言わずスキル全般にもレベルがある。新規に覚えるだけでなく、スキルポイントを消費してスキルのレベルを上げることで威力や範囲などが上がったりするのだ。ウィンドカッターの場合は威力が上がり、フレアアローは撃てる本数が増えたりだな。


 スライムが溶けた跡には、ドロップアイテムのゼルピーと呼ばれる宝石が落ちている。宝石とは言っても、スライムの中で生成されるくすんだ物質だ。真珠のようなものと思ってもらえればいい。価値などないに等しいが、ゲームではドロップアイテムを売ることでお金を得るシステムだったのだ。とりあえず拾っておいて損はない。

 ステータスが予想外に高かったおかげか一撃か。普通であれば二回は撃つ必要があるんだが……。


 そんなわけで調子に乗った俺はモンスターを見つけては狩るという作業を続け、三時間ほどが経過しただろうか。すでに夕方らしい時間帯になっている。これまでに倒したモンスターはスライムをはじめ、色違いスライムの赤いスライムベニー、膝くらいの大きさのホーンラビットの三種類だ。

 アイテムボックスを確認すると、ゼルピーが38個、ベニーという別種類の宝石が12個、スライム種が稀にドロップする赤い草が5個、うさぎからは肉が18個と骨が7個に綿毛が10個だ。

 ドロップアイテムについてはゲームと変わりないようだな。


 よしよし、じゃあ次はステータスを確認してみようか。


 ――――――――――――――――――

 名前:サワノイ マコト

 種族:人族

 性別:男

 年齢:31

 職業:マジシャン Lv6


 Lv:6

 HP:249/249

 MP:649/649

 筋力:12

 体力:10

 敏捷:12

 魔力:86

 技力:33

 幸運:135


 スキル:

 火【フレアアローLv2】

 水【ウォーターボールLv2】

 風【ウィンドカッターLv3】【エアハンマーLv1】

 土【アーススパイクLv1】


 特殊スキル:

 【アイテムボックスLv2】

 ――――――――――――――――――


 んんん……? ちゃんとレベルは上がってたのか。よかったよかった。ゲームじゃレベルアップ時に派手なエフェクトが出てたからな。そういうのがまったくなかったから気がつかなかった。

 にしてもおかしい。筋力や体力は通常通りだが、その他のステータスの上昇率がおかしい。今まで倒した敵は全てスキルで一撃だったので強くなった実感はないが、こうして数値で見ると改めておかしい上昇率だ。なんかバグってんじゃないだろうか。つかこの幸運の高さは何だ?


 ……あ、俺がここにいる時点でおかしいですよね。うん、今更上昇率とかラッキーくらいに思っておこうか……。


 あ、そうそう。アイテムボックスを確認したので気がついてたけど、レベルが2になったことでアイテム欄のページ切り替えができるようになってました。これで持ち歩ける種類が増えたね!

 とは言えだ、今のところ1ページ目だけで間に合っている。同じ種類のアイテムは同じ枠に入り、その横に小さく数字が表示されているのだ。まだ半分以上が空いている。


 それにスキルだ。なぜか勝手にレベルが上がっている。ゲームだとジョブレベルが上がるごとにスキルポイントを入手でき、好きなものに振り分けられたんだが……。

 しかも本来ジョブLv1上がるごとに取得できるスキルポイントは1のはずなのに、スキルの数とレベルがジョブレベルを超えている。……ってそれは最初からか。


 ああ、うん。考えてもしょうがない。ゲームの中にいること自体がすでにおかしいんだ。もう何も考えずに楽しもうじゃないか。

 と、悩みをすっぱりとスルーしたところでお腹が空いてきた。そういえばずっと狩りばっかりだったな。そろそろ帰ろうか……。自宅に。


 そうと決まれば俺は杖をアイテムボックスに仕舞うと替わりに本を取り出し、最後のページを開く。

 確かもう一度この魔方陣に手を当てれば帰れるんだっけか。


 今更ながら帰れるかどうかも試してないのにこの世界でよくモンスター狩りとかできたなぁとしみじみと思う。帰れなかったらどうするつもりだったんだ……、と自問自答するも、結局やることは変わらないんじゃないかという結論に達する。

 そんなことを考えながら恐る恐る最後のページに手のひらを乗せると、視界が暗転したと思った瞬間には見慣れた自室へと戻っていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る