3-12/フレンズ・アゲイン

 三人で『ワトソン&ホームズ』を片付けていると、誰かがミステリー研究会のドアをノックした。


「開いてるわよ」


 こういうときに真っ先に反応するのは大体いつもハルヒだ。もう少し部長に気を遣えよと思わないでもないが、長門本人は気にする様子もなく、ゲームのコンポーネントをひとつひとつ丁寧に袋の中にしまい込んでいる。


「では、失礼します」


 遠慮がちな声とともにドアが開き、一人の男子生徒が姿を現した。


「あれ、あなた」


 またも最初に反応したのはハルヒだったが、俺もそいつが誰であるかは、声が聞こえた時点でわかっていた。


「ええ。転校生の小泉一樹です」


 昨日の昼休みに会った時と同じくどさを感じるくらいさわやかな笑みを浮かべて、男は言った。そうして、たっぷり三秒ずつ俺とハルヒの顔を見つめた後で「どうやらここがミステリー研究会ということで間違いなさそうですね」と続けた。


「ここに自らの意思で来たってことは、期待しても良いのかしら」


 ハルヒは不適な笑みを浮かべて、睨み付けるように古泉の顔を見つめて、言った。


「もし僕が宇宙人、未来人、超能力者、名探偵だと言うのなら――でしたっけ?」


「そ。あたしの予想では名探偵と踏んでいるんだけど」


「どうでしょう。ひょっとした異次元人かも知れませんよ」


 相変わらずこいつのユーモアのセンスはさっぱりわからないが、ハルヒには何か通じるものがあったらしい。ぽんと手を叩いて「良いわねそれ」としきりにうなずいている。


「いずれにしても歓迎するわ。改めてあたしは涼宮ハルヒ。そこの二人は部長と平部員。よろしくね」


 こんな紹介ならしない方がマシだと言いたくなる極端に情報量の少ない紹介をして、ハルヒは全てを終えた顔をした。


「古泉です。転校してきたばかりで教えていただくことばかりと思いますが、よろしくご教示ください」


 こっちはこっちでまた極端に丁寧な常套句とともに、俺と長門に向かってぺこりと頭を下げた。


「ただ、残念ながら僕は入部希望で来たわけではないんですよ」


 古泉はそう言って、制服の内ポケットから綺麗にたたまれた紙片を取り出し、机の上に広げた。それはハルヒが作ったミステリー研究会がどんな部活なのかを知らしめるためのあのチラシだった。


「ミステリー研究会は謎を広く募集しているそうですね」


 まぁ確かにその怪文書にはそう書いてあるな。


「そうよ。でも、ありふれた謎じゃダメよ」


 ハルヒは黙っていてくれ。


「実離れしたような幻想的な謎、現実的に起こりえないような不可能状況の謎、現実を超越した驚天動地の事態、ですか」


「そう。わかってるじゃない」


「ちょっと待て。まさかお前、俺たちに解いてもらいたい謎があるとか言い出すんじゃないだろうな」


「そのまさかですよ」


 どこか自嘲的にみえる笑みを浮かべて、古泉は続けた。


「こちらに引っ越してきてからというのも、どうも誰かに付けられているような気がするんですよ」

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