3-7/フレンズ・アゲイン
「やっほー」
放課後、涼宮ハルヒは珍しく一番遅くにミステリー研究会の部室に姿を現した。
軽音楽部に寄ってきた、というわけではなさそうだ。何事も中途半端にしておくのが嫌いなハルヒは、ENOZの練習に参加するときはこちらに顔を出すこともしないし、ミステリー研究会に来る日は始終この部屋にいてあちらのことを気にかける素振りも見せない。とすれば遅くなった理由は別にある。
手がかりその一。ハルヒは今日の六限が始まる前に教室からいなくなりどこぞで授業をサボっていた。手がかりその二。ハルヒは今、両手にでかい紙袋を提げている。手がかりその三。紙袋の中にはわら半紙がみっしりとつまっている。
「ちょっと手間取っちゃって、ごめんごめん」
別に早く来てほしいと頼んだつもりはないんだがな。部屋の隅で『タイム・リープ』の続きを読んでいる部長もそうだろうよ。
「で? 何なんだその紙束は」
「ミステリー研究会がどんな部活なのかを知らしめるためのチラシ。新入部員を勧誘するなら、一にも二にも、名前を売るべきでしょ? 印刷室に忍び込んで五百部ほど刷ってきたわ」
真相。授業をサボって謎のチラシを作っていた。よく見つからなかったものだ。いや、今からでも自首させた方が良いのだろうか、などと思いつつ、俺も甘いものでついついハルヒが差し出した藁半紙を受け取ってしまう。
『ミステリー研究会大復活に向けての所信表明。
わがミステリー研究会は謎を広く募集しています。過去に不可思議な経験をしたことのある人、今現在とても奇妙な状況に直面している人、遠からず事件に巻き込まれる予定の人、そういう人がいたら我々に相談するとよいのです。たちどころに解決へと導きます。確実です。ただし普通の謎ではダメです。現実離れしたような幻想的な謎、現実的に起こりえないような不可能状況の謎、現実を超越した驚天動地の事態でなければいけません。注意してください。連絡先は・・・・・・』
「ちょっと待て」
一読してハルヒを睨みつける。
「ここはミステリー研究会だぞ」
「知ってるわよそんなの」
「ふつうミステリー研究会って言ったら、読んだミステリー小説について意見を交わすとか、ミステリー映画の上映会をやるだとか、部員で原稿を出し合って会誌を出すだとかそういう活動をするもんだろ」
自分で言ってて痛がゆい気分になってくる。長門とこの部室で出会った日に、この部屋を何だかよくわからん部の部室にしようとしてると言ったのは誰だ。
「じゃあ聞くけど、ミステリーって何?」
また難しいことを聞きやがる。佐々木クラスのマニアでも安易に回答すると火傷をするんだぞ、その手の問いは。
「――不可解な謎と、その解明をテーマとする物語」
突然あらぬ方から声がして、俺とハルヒが同時に振り返る。声の主は長門だった。
「良い答えね」
ハルヒの賛辞に、長門は特段の反応も見せずに読書に戻った。
長門の答えは悪くない。俺もそう思う。しかし、参ったな。これでは三手詰みだ。
「キョンはどう思う?」
「・・・・・・例外はいくらでもあるのかもしれないが、まぁまぁ最大公約数に近い答えなんじゃないか?」
「オーケー。だったらこれだって、ミステリー研究会の活動足り得るんじゃない?」
現実に起きていることであっても、不可解な謎がありその解明を主題とするならば、それはミステリー研究会の活動だと言い張るわけだ。なんとなくわかってはいたことだが、どうやらハルヒはミステリーの物語世界にだけ浸っているつもりはないらしい。
「納得したなら配りにいきましょう」
「別に納得はしてないが」
「あ、そ。じゃああんたは来なくていいわよ。他にやってもらいたいこともあるし」
聞いてないぞ。
「一度しか言わないから聞きなさい。ミステリー研究会のウェブサイトを作るのよ。とりあえず今日中に立ち上げだけでもしておいて。あ、最低限この謎の募集案内だけは載せておいてよね。もちろんとびっきり目立つところにね!」
言うだけ言って、ハルヒはひとりで部室を飛び出していった。長門を連れ出そうとしなかったのは、留守番役を頼んだということなのか、それとも引っ込み思案な性格に気を遣ってのことか・・・・・・いや、たぶん気まぐれだな。
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