3-2/フレンズ・アゲイン

 一年九組に転校生がやって来るらしい。朝のホームルーム前のわずかな時間に俺はその噂をハルヒから聞かされた。


「すごいと思わない? こんな中途半端な時期に転校してくるなんて、もうこれは間違いなく謎の転校生よ!」


「どうせ親の都合かなんかだろ」


 俺がうんざりした顔と声と態度で返事をしたのには理由がある。


 ――つい先日、ミステリー研究会でハルヒの発案により『第一回新入部員獲得会議』とやらが開催されたのだが、その席であいつはこんなことを言ったのだ。


「最低でもあと二人、部員を集める必要があるってのはわかるわ。でも、単に頭数を揃えれば良いというのは凡人の発想だわ。何ごとにも適材の人物ってのが必要なんだから」


 国木田や谷口あたりに頭を下げて名前だけでも借りようかとどうしようかと思い悩んでいた俺を笑い飛ばすかのように、あいつはそう言ってのけたのだ。


「それができれば苦労はしない」


「できるわよ。労を惜しまなければ」


「じゃあ聞くが、ミステリー研究会にふさわしい人材ってのはどんな人材なんだ?」


「そうね。やっぱり謎の転校生は押さえておきたいと思うわよね」


 転校生はともかく謎ってのは何なんだ。まぁハルヒからしてミステリー研究会にふさわしい人材なのかどうかは大いに疑問なんだが――。


 と、まぁそんなやり取りがあったばかりということもあり、ハルヒは欲しがっていた玩具を買ってもらえた五歳児が箱を開けるタイミングを見計らっているようなウキウキした顔で机から身を乗り出していた。やれやれ。


「またとないチャンスよね。うちのクラスじゃないってのは残念だったけど、何としてもミステリー研究会に入ってもらわないと」


「あまり期待ばかり先行しても、後で後悔するだけだぞ」


 と、馬から落馬するようなことを言っても、俺の意見なんぞに耳を貸すハルヒではない。そもそも馬を乗るときに落馬することなどわずかとも想像しないのがハルヒというやつだ。一限が終了するなりダッシュで教室から走り去り、一年九組へと向かい――そして、二限が始まる直前に自席へと戻って来たのだった。それも、随分と複雑そうな面持ちで。


「どうだったよ」


「うーん……あまり謎な感じはしなかった……ような」


 そらそうだ。この時期に転校してきたイコール謎の転校生だとしたら、全国レベルでみたらすごい人数になると思う。


「ちなみにそいつは男? 女?」


「女ではなかったと思う。ブレザー着てたし」


 なら男だろう。証明終わりq.e.d


 ハルヒも重ねて転校生の正体を探ろうとは考えていないようだし、これでこの件は終わりだと思ったのだが、そうは問屋が卸さないというやつで、俺は昼休みに話題の転校生と思いがけなく出会うことになる――。


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