2-6/カメラ!カメラ!カメラ!

 榎本さんとの話を済ませてミステリー研究会の部室に戻ってくると、涼宮ハルヒはまだ部屋に残っていた。有栖川有栖の『江神二郎の洞察』を熱心に読みふけっているところをみると、長門の小粋なジョークのおかげではないだろうな。俺のいないところで壮絶なビブリオバトルが行われた結果なのだとしたら、ちょっと面白いのだが。


「涼宮」


 俺が声を掛けると、涼宮ハルヒは視線を本に向けたまま「何?」と聞き返してきた。


「悪いがお前の入部を認めるわけにはいかない」


 はっと息を飲んだのは、当人ではなく部屋の隅で米澤穂信の『二人の距離の概算』を読んでいた長門だった。


「ああ、そう」


 涼宮ハルヒは憤るでもなく悲しむでもなく淡々と言って本を閉じると、壁の棚に『江神二郎の洞察』を戻した。その手つきは普段の彼女の言動からはちょっと信じられないくらい丁寧で、俺はどきりとしてしまう。


「邪魔したわね」


 その声ではっと我にかえり、俺は両腕を大きく広げた。

 

「待て」


「はぁ?」


「その前に、聞いてもらいたい話がある」


「なんであたしがあんたの――」


 反駁しかけるのを無視して、俺は少しだけ開けたままにしておいたドアの向こうに合図を送った。


「どうぞ」


 ドアが開き、四人の女子がミステリー研究会の部室に入ってくる。ボストンバッグを抱えた榎本美夕紀さん。それに、中西貴子さん、岡島瑞樹さん、財前舞さん。ENOZの四人組だ。


「ちょっとキョン」


「いいから聞けって」


「ごめんなさい、涼宮さん。折角月曜日に軽音部に来てくれたのに、居留守なんてしちゃって。今さら戻ってきてくれなんて言えないけど、どうしても謝りたくって、それで――」


 榎本さんが言って、他の三人もしっかりと頭を下げる。


「どういうこと?」


「俺があれこれ説明するよりも、ボストンバッグの中身を見てもらった方が早いんじゃないかな」


「ボストンバッグの、中身?」


 涼宮ハルヒが言うと、榎本さんは大きくうなずいて、ボストンバッグを開けた。


「ニャー」


 中に入っていたのは、一匹の三毛猫だった。


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