第二章

2-1/カメラ!カメラ!カメラ!

 昇降口前の掲示板は、色とりどりのポスターであふれかえっていた。


 スイーツ好きの少女ならずとも心惹かれるであろうリンゴのシャルロットを全面に押し出した調理部のポスター、スクラップブック風に構成された新聞部のポスター、型稽古の写真を小さくしてコマ送り風に並べた空手部のポスター、背面高跳びの瞬間をとらえた陸上部のポスター、エトセトラエトセトラ……生徒用の連絡掲示板は、ゴールデンウイークを過ぎてなお、各部の新入生勧誘の場となっていた。


 確かにここならどのクラスの生徒も必ず前を通るから効果はありそうだが――いや、しかし本当にを貼って良いものなのか?


 どの部のポスターもデザインこそまちまちだが、部員獲得への真剣な想いがひりひりと伝わってくる点だけは一致している。この中に『ミステリー研究会 部室棟で活動中 新入部員歓迎』と書いてあるだけの貧相なポスターを貼るのは蛮勇というより無謀だし、他の部活への冒涜ですらあるような気がした。


 しかしまぁこのままもたもたしていれば、生徒会クラブ運営委員会で廃部と判断されて部室を追い出されてしまうのは確実なのだ。いささか遅きに失した感はあるが、やれるだけのことは適度にやっておきたい。


 俺はなるべく他のポスターと見比べられないような――それでいて、まぁまぁ目立つポジションはないものかと掲示板を見回した。


 ふむ、あの辺りはどうだろう。


 俺が目を止めたのは、猫の里親募集ポスターのすぐ隣だった。突貫工事で作ったらしく、三毛猫の写真はピンボケで、極太マジックで書かれた『急募』の文字もかなり歪んでいた。失礼ながらこのポスターの隣なら、うちの貧相なやつでも、という気になってしまう。ついでに猫好きなミステリーマニアの目に留まるかもしれないというせこい考えもあった。


 画鋲でしっかりとポスターを固定してから、猫の里親募集ポスターを張り出した榎本美夕紀さんとやらのために心の中で祈る。早くこの猫の飼い主が見つかりますように、と。


「さてと」


 これで部員が来るとも思えないが、とりあえずは戻ろう――本ばかり読んでいる少女が待ってるあの部室へ。

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