1-5/バスルームで髪を切る100の方法
四月も半ばを過ぎると、教室で昼飯を食う面子というのも大体固まってくる。俺はの場合は、中学時代からの友人の国木田と、たまたま席が近かった谷口の三人で机を突き合わせるのが恒例行事となっていた。
もっとも国木田はあまり饒舌ではなく、俺も食事中はあまり話をしない方だ。なので、大概は谷口のしょーもないモテ談義を拝聴しながら弁当を咀嚼することになる。
今日の話題は、谷口が作ったという一年女子名鑑のことで、作者によればこの短期間に全クラスの女子をチェックした上、AからDまでランク付けしておまけにAランクの女子についてはフルネームまで記憶済みという。
大した努力だとは思うが、そんな風に人を見た目でランク付けする男のランクがどのようなものかに思い至ることもなく、やれ「朝倉涼子はAAランクプラス」だの「二年の先輩で名前はわからないがトリプルAとAAランクの二人組がいた」だの言っている辺りは、谷口の谷口たるゆえんだと思う。
「――そう言えば谷口は涼宮ハルヒと同じ北中の出身だったな」
一番口数が多いのに何故かいつも一番早くに食い終わる谷口が弁当箱をカバンにしまいこんでいるのを見ながら、ふと俺はそんなことを口にした。
当の涼宮ハルヒは、これもいつものことだが教室にはいない。四時間目が終わるとすぐに出て行って、五時間目が始まる直前まで戻ってこないのだ。まったくどこをうろついているのやら。
そんなことを思いながらの何気ない質問のつもりだったがいかんせんタイミングが悪かった。谷口はオレオレ詐欺に引っかかった老人を見るような目つきで俺を見やって、言った。
「もしあいつに気があるんなら、悪いことはいわん。やめとけ。あいつの奇人ぶりは常軌を逸している。高校生にもなったら少しは落ち着くと思ったんだが、全然変わってないな」
「北中でもあんな感じだったのか?」
「ああ、そうさ」
谷口は深々とうなずくと、中学時代の涼宮ハルヒのしでかした出来事の数々について語り出した。校庭落書き事件に放送室占拠事件、それから体育館消失事件……いやはや、うすうすわかってはいたが、やっぱりとんでもないやつだな。
「でもなぁ、あいつモテるんだよなぁ。なんせツラがいいしさ。スポーツ万能、頭も学業に限っていえば良いし、黙って突っ立ってるだけならほんとなーんも問題ねーんだが」
「それについても何かエピソードがありそうだね」
それまで黙って話を聞いていた国木田がふいに口を挟んだ。
「取っ替え引っ替えってやつだよ。何せコクられて断るということをしないやつでな。まぁ例外なく涼宮が振って終わりになるんだが。その際に言い放つ言葉がいつも同じ。『普通の人間の相手をしているヒマはないの』だとよ。俺の知る限り一番長く続いて一週間、告白の五……いや、十分後に破局したなんてのもあったらしいぞ。だったらオッケーするなってーの」
どうやら谷口も涼宮ハルヒに振られた口らしい。多分、告白の五分後にだろう。
「あー、俺にも故郷で黄色いハンカチを掲げて待っていてくれる美人がいないもんかねぇ」
その前にチンピラと肩をぶつけ合って喧嘩になる必要があるけどな。そもそも谷口、お前の地元はここだろうが。
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