1-2/バスルームで髪を切る100の方法

 珍妙なクラスメートの存在が気にならなかったと言えば嘘になるが、目下のところ俺にはやらなくてはならないことがあった。


 自己紹介に耳を傾けながら、机に上に置いてあったオリエンテーション資料をぺらぺらとめくり、学校の案内図が描かれたページを開く。


 お世辞にもうまいとは言えない手書きの図面を信じるならば、この学校には旧館と呼ばれる文化部の部室棟があって、ミステリー研究会の部室(会室か?)もその中に設置されているらしい。ふーん。


 そういうわけで放課後になるとすぐに、旧館へと足を伸ばした。


 コンピュータ研究会の二つ隣。何の変哲もないドアの上部に、ミステリー研究会と書かれたプレートが斜めに傾いで貼り付けられている。狭いところに無理やり横幅を圧縮したような文字。よく見ると、うっすらと文芸部と書いてあった痕跡が見て取れる。


 いぶかしく思いながら、ドアをノックをする。


 軽く叩いたつもりだったが、しっかりはまっていなかったのか、ノックの反動でドアがするりと開いた。


 そして見た。


 パイプ椅子に座り、長テーブルの片隅で本を広げている小柄な人影を。


 眼鏡をかけた髪の短い少女だった。


 俺に遅れること数秒、少女はゆっくりと本から顔を上げて、そしてはっと息をのんだようだった。


「ここがミステリー研究会なんだよな」


 言ってから、上級生である可能性が高いということに気が付いたのだがもう遅い。


「そう」


「他に部員は――」


「いない」


 短い返事にはしかし、とげとげしさは感じられなかった。むしろ人形めいた雰囲気も相まって、言葉と感情を覚えたばかりの機械が必死になってコミュニケーションを取ろうとしているような印象さえある。おそらく人と話すことにあまり慣れていないのだろう。


 俺が自分の名前とクラスを告げると、少女は眼鏡のツルを押さえてしばらく沈黙した後で「長門有希。1年6組」と名乗った。

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