第一章

1-1/バスルームで髪を切る100の方法

 好むと好まざるに関わらず日々は過ぎゆき、新たな生活が始まった。


 もちろん俺が薔薇色の高校生活を期待していたかと言えばそんなことはまったくないわけだが、地球環境に優しい省エネ主義を標榜するあの高校生に大いに共感する身としては、入学初日から随分と気が重くなるような事態に直面することとなった。


 県立北高校はえらい山の上にある。時節はすっかり春だというのに、歩くだけでこの大汗とは。暑い季節にこの坂道を上って登校せにゃならんことを考えるだけでもため息をつきたくなる。やれやれ。


 入学式の後、俺はこれからクラスメートになる生徒たちとともに一年五組へと向かった。中には国木田の姿もあった。中学時代に仲のよかった友人と同じクラスというのはまぁ女子のようにきゃあきゃあ喜ぶようなことはないにせよ悪いことではない。


 ただ、さして話し好きというわけでもない国木田が「休み中はどうしていたのか」だとか「また近く遊びにでも行こう」などとやけに積極的に話しかけてきたことには少々辟易としたが。飄々とした男だが、どうも妙な気の回し方をするヤツである。


 教室に入ると、ひとめで体育教官とわかる若い教師が待っていた。まずは若い教師が「担任の岡部だ」と名乗り、続いて生徒が自己紹介する番になった。


 クラスメートたちが順々に話すうち、氏名、出身中学、プラス一言というのがテンプレートになったので、俺もそれに倣うことにする。よし、こんなもんだな。


 必要最低限の台詞を言い終え、やるべきことをやったという開放感に包まれながら着席すると、後ろの奴が立ち上がったのが気配でわかった。


「東中学校出身、涼宮ハルヒ」


 俺は前を向いたまま、凛とした声に耳を傾ける。


「ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、超能力者、名探偵がいたら、あたしのところに来なさい」


 これはひょっとしてギャグで言っているのだろうか。


 しかし、ギャグだとしたら大爆死というやつだった。教室内はすっかり気まずい沈黙に包まれている。


 一体どんな女がどういうつもりで言ったのか、さすがに興味を覚えて、俺は肩越しにちらりと後ろを見た。


 長くて真っ直ぐな黒い髪にカチューシャをつけた美人が、この世の終わりでも目の当たりにしているような不機嫌な表情で、しかし張り詰めたような真剣な眼差しで、黒板の少し上の方を見つめていた。


「以上」


 そう言って、にこりともせずに着席した瞬間、俺と目が合った。いや、睨み付けられたと言った方が正解だろう。


 それが、涼宮ハルヒとの出会いだった。

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