第ニ章:万物流転(後編)

キーンコーンカーンコーン!

HRを終えた俺らは教室に集まっていた。

辺りはすっかり夕日に包まれ、既に部活をしている者まで居た。

「う~ん、やっと終わったねぇ」

背伸びをして軽く首を曲げながら気だるげそうに将吾は言った。


これまでの俺ならテキトウに相槌を打ちながらも直ぐに帰り支度を済ませていつもの帰路に着くのだが、今回ばかりはそうも行かない。


「それで、部活申請が通りそうな教師と言うのは誰の事でしょうか?」

合流していた安洞が問いかける。

そう、今此処に居る俺と将吾、そして安洞はひょんな事から(詳しくは前編を)探偵ごっこをする事になっているのだ。

言い出しっぺの将吾は乗り気で、すぐにでも顧問になってくれそうな人を己が得意とする観察眼と独断で調べてリスト化していたようだ。

やるのは勝手だが、俺を巻き込んで欲しくないものだ・・・ま、一度は了承したからには仕方ない、一応付き合いはするか。急いで帰る用事も無いしな。


「それなんだけど、何と言っても最初はこの人でしょ!皆、付いて来て!」

そうテンションを上げた将吾の後に俺達は付いて行きながら雑談を交わしていた。


現在1-B→廊下

「ねぇ、亨?嘘をつけない嘘つきの人をどう思うかい?」

廊下を歩いている時に将吾が唐突に俺に呟いてきた一言だ。

「いきなりどうしたんだ?また謎かけか?」気だるげに返すと将吾は笑みを浮かべて楽しそうに語った。

「まぁまぁ真面に考えてみなよ、今回これが結構重要なんだからさっ」

またコイツは・・・面倒な事を言ってきたもんだ。

「嘘がつけないなら嘘つきじゃ無いだろ?」

嘘がつけないならその時点でソイツは正直者ですと既に言っているようなものだし、ソイツがつく嘘は本当の事となって嘘と正直の矛盾が生じる。

「それが、嘘になるんだよ。不思議とね」

まるで俺の考えを見透かしてるぞと言わんばかりの含みがある笑みを見せながら楽しそうに答えた。

これを聞いてた安洞は真面目なのか天然なのか、将吾のどうでもいい質問に真剣に考えていた。

「安洞さんは何か思いついたかい?」

それを見てた将吾は彼女に目を向け聞いてきた。

「うーん・・・その人が言った事は既に過去の答えで今とは違う答えだった、とかですか?」

例を上げるなら教科書の内容とかニュースの内容が古かった、とかそういうのだろうな・・・と心の中で思っていると

「なるほどね、確かにそれでも嘘をつけない嘘つきという矛盾に対して答える事が出来るね、あくまでも言葉自体に対しての解答だけど」

と、安洞の答えを認めたかと思えば否定をしたのだ。

まぁ着眼点は悪く無いけどこの場合は相手が悪すぎたとでも思うのだな、安洞よ。

「ま、その問題は後にしてっと、もう着いたよ。」

話を初めて数分、足はいつの間にか目的地に着いていたようだ。


「確かに着いたが・・・ここは職員室じゃないぞ?」

そう、ここは職員室ではなく隣の校長室である。

「だって、ここの校長は君の叔父なんだろ?当たってみる価値は大いにあるさっ☆」

そう言って躊躇いもなくドアをノックし、入っていく。


現在廊下→校長室

「失礼します」

3人が挨拶をしながら入っていくと、まるでここに来るのを知っていたかのように真正面に居た、それもイスに座って両肘机に置き、手は組んで顎に乗せるという某アニメを思い出させるようなポーズだ。

「来たか・・・」

そしてこのダメ叔父は口調までも似せてきた、相変わらずこちらも別の意味で変わり者だ。

「おい、いい加減エヴァン〇リ〇ンに出てきそうなキャラの真似をやめたらどうだ?此処に居る奴だと俺ぐらいしか知らないぞ」


もう叔父に敬語や礼儀を使うのはやめた俺。そりゃこんな事してたらそうなるは。

「あははは、スマンスマン。ノックが聞こえて急いで準備したは良いがこれ以外思い付かなくてね」

笑いながらさり気にアドリブでやっていた事をバラしていた。というかそんな努力をするなら仕事をやれという正論は敢えて口にしなかった、本題はそこでは無いからだ。

「あの、校長。お取り込み中申し訳無いですが頼みがあるんです。」

話を戻したのは将吾だ、あんな事をしてる叔父に敬語を使ってるその姿はある意味すごいと思う。


「あぁ、そうだったね。一体3人で何の用なんだ?」

やれやれ、やっと話が進むようだ・・・さっさと用事を済ませたいもんだ。

「実は僕達3人で部活と言うかクラブのようなものを作りたいんです、お悩み相談というか謎解きというか、そういう生徒が気になるものを解決していくような内容で」

と、ここまで話していると遮るように叔父はこう言った。

「なるほど、用は私に顧問になってほしい、と?」

悪戯な笑みを見せながら何処か余裕のある表情でそう言った。

流石に変わり者だが校長にたどり着くだけの努力と能力は持っており、内容を瞬時に理解したらしい。

「そうだね・・・仕事と立場上中々顔を出せないが、まあ肩書だけならいいよ☆」


意外な答えだった、普通校長のような立場ならば学校に関わる全ての案件と向き合うような役職にも関わらず、あっさりOKをするとは俺は思ってなかった。


「ただし、正式な活動にするには最低でも4人居ないといけないのは知ってるかな?つまり、最低でも後1人連れてこないと認められないかな」

そう言いながら申請書をヒラヒラさせて名前を書く枠に4枠あるのを見せてくる。

これに関しては全員知らなかった。


「分かりました、では条件をクリアしたらまた来ます」

将吾がそう言うと俺達は用を終えて校長室を後にする。

そして一旦教室に戻り、詳しい事はまた明日話そうという結論に至り、俺達は解散した。


現在学校→帰路

「さっきの話だけど」

自転車に乗って帰ってる時に隣を走っている将吾が語りかけてきた。

「さっきのって叔父の話か?」

「違うよ、嘘をつけない嘘つきの話さ」

「あぁ、結局アレは何だったんだ?」

「僕が答えを言うと思うかい?僕はあくまで意見を言うだけで答えは出さないんだ、コレ推理小説では基本だよ」

そうかよ、と軽いツッコミを心の中でした。

「じゃあ、意見で良いんだが有力だった安洞の答えは何がダメだったんだ?」

「別に?何も悪く無いさ。「強いて言うなら考える事」が正解なのかもね」

「かもってお前・・・自分から言い出したくせに何も考えて無かったのか?」

「そんな事は無いさ、あの問題に関しては色んな答えが出せる。安洞さんの答えはほんの1例に過ぎない・・・つまり、答えは一つじゃないって事さ」

「それに・・・答えと言えるものはすぐ隣に居るんだけどね。」

「ん?今何て言ったんだ?」

「なぁんにも?それじゃあ僕はこっちだから、またね!亨!」

そういって交差点を笑いながら走っていく将吾。


全く、言ってる事が哲学臭いぞ将吾。

だけどまぁ、確かに決まった答えが無い・・・考える事が正解ってのは何となく理解出来るかもな。

例えば今の世の中は昔の顔も名前も知らない人が常に考えて、頭を働かせて努力した沢山ある可能性の中の1つの結果、という風に。

「一言で表すなら万物流転か・・・」

そんなどうでも良い題材をテキトウに考えながら俺は自転車を走らせた。




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俺は平凡に生きたかった。 春野龍助 @doukesi2525

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