大切なもの
「はぁ……」
誰もいない教室に響く大きなため息の正体は机に突っ伏したまま足を投げ出した陽菜だった。恐らく二人の幼馴染であればそれぞれの反応でこの行為を嗜めるであろう。
「……どこ行ったんだろう」
そう。その二人はまさに今姿を消している。
二人が揃っていないなどという事は珍しく、加えて言えば挨拶もせずに帰るということは今まで一度もなかった為、先に帰ったという可能性も殆どない。
「……何で上手くいかないの」
先程の情景を思い浮かべてポツリと吐き出した想いに返事をする者はやはりいない。
「……帰ろうかな」
陽菜は机の横に掛けておいたスクールバッグを手に取り、帰り支度を始める。
そこで明日の課題やペンケースを取ろうと机の中に手を入れると、
「……あれ?」
ある異変に気がついた。
(……嘘っ)
陽菜は顔を真っ青にしながら引き出しに手を入れる。
「……ない」
やけにうるさい心臓の音。
(……ない、ない、ない)
しゃがみ込んで引き出しを見ても、見当たらないのだ。
「ペンケースと教科書がない……」
慌てて教室中を探しても見つからないペンケースたち。
「……どうしよう」
陽菜の頭はパンク寸前だ。
「ここにないなら、他の場所って事だよね…」
その状況の中で必死に頭を動かし、冷静に分析をしていく。
(掃除の時間にはまだ全てあったから…放課後?)
陽菜は全ての授業を終えた後、委員会の関連で先生に呼び出されていたのだ。
席を離れていたのは一時間近かった為、教室に戻って来た時には騒がしかった教室はしずかになっており誰一人いなかったのを記憶している。
(どうしよう…)
その場に力なくしゃがみ込む陽菜。
(絶対に見つけなきゃ……)
この前のように手紙での脅迫であれば、家に持ち帰って考える事も出来るが物がなくなってしまったからには何としてでも見つけて帰らなければここまで隠してきた問題が公になってしまうかもしれない。
(それに…―)
陽菜はなくなってしまった物たちに想いを馳せる。
(なくしたのは哉汰がプレゼントしてくれたペンケースに、一緒に落書きもした大切な教科書だもん…―)
そう考えた途端に、目に涙が浮かんできた陽菜。
それだけ哉汰の存在は大きく、一緒に過ごしてきた年月と様々な思い出は欠かせないのだ。
(…っ、泣かないの!)
そう言って、両頬をバシバシと手で挟む。すると、
「何、やってるの……?」
後ろから声が聞こえた。
ショコラトール くるみ @yume_koi
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