動き出す二人のヒーロー
「……ん」
先程まで明るかった空もいつのまにか落ち着きのある色に変わっていた。
見ていたのは幼かった頃の夢……——
淡い記憶を引っ張り出してきても千昌という存在は大きい。
「でも、いくら千昌にでも……」
そう呟くと、哉汰は天を仰いだ。
「陽菜は……陽菜だけは譲れねぇ」
誰にも届かないはずの声……
「誰に誰だけは譲れないの?」
だったのだが、それに返事をし、コンクリートの空に突如現れたのは先程まで思い浮かべていた幼馴染。
「ちっ、千昌?!」
思わず裏返った哉汰の声に、可笑しそうに笑う千昌。
「なっ、笑うなよ!」
「ごめんごめん」
口元に手を押さながら悪びれもせずに謝る姿は相変わらず彼らしい。
「……っ!つーか、いつからいた?!」
動揺した哉汰の問いかけに顎に手を当てながら考えるふりをする千昌。
「哉汰が天を仰ぐ前あたり…?」
「要するにお約束通り初めからって事か」
哉汰は大きくため息をつくと、
「何しに来たんだよ……」
座ったまま伸びをして俯いた。
「それはこっちの台詞でしょ。授業までサボって何やってるの」
千昌の言葉に一瞬の思考停止に追いやられた哉汰の脳は、
「……今何限だ?!」
やっと正常に機能し始めたらしい。
「……はぁ。とっくに授業は終わって今はもう放課後だよ」
呆れたようにため息をついた千昌は哉汰の隣に腰をかけた。
「……そんなに寝てたのか、俺」
「日頃の疲れでも溜まってるんじゃない?」
まるで心配などしていないように前を向いたまま答える千昌をジロリと睨む哉汰。
「それで……」
未だ前を向いたままの千昌は一呼吸置いて、哉汰の顔を見つめた。
「……こんなところで何してたの?」
それは質問というよりも尋問という言葉が似合うような聞き方で哉汰は思わず息を飲んだ。
「……なっ、なんでもな「何でもないわけがないことくらい知ってるからね?」
にこりと笑う千昌に哉汰は盛大にため息をつくと顔を背けて話し始めた。
「……陽菜が虐められてる」
「……」
「たまたまここに居合わせて覗き込んだら、これ……拾って」
そう言って差し出したのは先程拾い集めた陽菜のペンケース。
「……成る程ね」
焦りもしない幼馴染を見た哉汰は、
「やっぱり気がついてたのかよ」
少し拗ねた様子で呟いた。
「……何?嫉妬?」
千昌は哉汰の方を覗き込むとニヤリと笑った。きっと彼ならここで慌てて否定をして目を逸らされるだろうと思っていると、
「……悪りぃかよ」
そのまま見つめ返された。予想の外れた千昌は狐につままれたような表情をした後に少し間をおいて微笑んだ。
「……何だよ」
少し機嫌の悪い哉汰の声に、千昌は可笑しそうに言葉を返す。
「……嫉妬するなら俺にじゃないよ」
「……は?それどういう意味だよ?」
すると、次は哉汰が不思議そうな顔をする。
「この事実を教えてくれた子がいるんだ」
「そ、そいつ誰だ?!」
慌てた様子の哉汰に千昌は意地悪そうに笑った。
「んー、それは内緒」
そう言った千晶が頭に浮かべたのは二つの顔を持つ美少女。
「だから……俺と哉汰は一緒だよ」
そう言った力強い目は同様にこのことを悔やんでいるのだと物語っていて、哉汰は何も言えなくなる。
「……」
「……だからさ」
千昌はそう前置きをするとそのまま哉汰に拳を差し出した。これは幼い頃から二人が行なっている一種のまじないのようなもので…。
「次は守ろうね。陽菜のこと」
そのままにこりと笑った千昌。
「……当たり前だろ!」
哉汰も笑ってそれに答えた。
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