繋がるピースと記憶の欠片




哉汰は暫くその場に1人しゃがんでいた。





「こんなん…、いつから……」





そして心ここに在らずといった状態で目の前に散らばっているペン達を拾い上げていく。それらの中にはヒビの入ったものもあり乱暴に扱われていた事を物語っていた。





「…………」





——キーンコーン カーンコーン





哉汰はチャイムが鳴ったことにもお構いなく暫くぼんやりとその場に座り込む。





「………」





思い浮かぶのは陽菜の笑った顔。





「……っ」





そして……。





『いやっ』





焦ったような仕草と少し怯えたような目。





「何で…気がついてやれなかったんだよ」





そう言って自身を責めるように強く手を握る。

もう一人の幼馴染であれば彼女の異変に気がつけていたのであろうかと思えば思うほどに哉汰の中での悔しさは大きくなっていく。





「……俺なんかじゃ」





幼い頃から千昌は哉汰にとって最大のライバルで、それと同時に信頼し、尊敬する存在だった。





「……駄目だよな」





階段に座って手すりに頭を預けてそんなことをぼんやりと考えていると哉汰の意識は遠くなっていった。





———————————————





『うえええ〜ん』

『ひな?そんなにないてどうしたの?』





そう言って泣いている陽菜の傍に駆け寄るのは今よりも小さい千昌。





『なんでなくんだよ!』





その隣でどこか焦ったような表情を浮かべているのは同じく小さい哉汰だ。





『よしよし。ひなどうした?ないてちゃなにもわからないよ』

『……っく、かな…たが…わたしのおひめさまかわいくないっ…てい…う』





陽菜の手に握られているのは今話題のプリンセスものの絵本だった。





『おひめさまって…このひと?』





千昌がその本を取ってページを開くとこくんと頷く陽菜。そこにはキラキラとしたシールで彩られたドレスを着た一人のお姫様が描かれていた。





『……』





じろりと見つめてくる千昌の視線に耐えかねたのか口を尖らせたまま哉汰は喋り始める。





『お、おれはそんなやつよりひなのほうが…』

『やつなんていわないでっ!』





先程まで涙でいっぱいだった目をキッとさせて哉汰を睨む陽菜。いつもとは違う彼女の雰囲気にたじろいでいる哉汰は助けを求めるように千昌に視線を移す。





『ひなもかなたもけんかはおしまい!』





少し呆れた様子でため息をついている姿は、幼さに似合わずなんとも大人びた雰囲気を出している。





『いやっ!いじわるばっかりいうかなたなんてきらい!』

『……』





嫌い、という一言にショックを受けた哉汰は何も言えずに俯いてしまった。





『ひな、おいで』

『……なに?』





その様子にひなも少し狼狽えていると、千昌が陽菜を手招きした。





『かなたはこのおひめさまよりひなのほうがかわいいっていいたかったんだよ』

『え……?』

『だからゆるしてあげて?』

『それなら……ゆるしてあげる』





そう微笑む少女はなんとも愛らしい。

覚束ない足取りで哉汰に近づく陽菜はもうすっかり笑顔を咲かせていた。





『かなたっ、ごめんね?』

『お、おれも……ごめん』





そう言って笑い合う二人と穏やかに笑う一人という光景は幼い頃から現在まで続いている。





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