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◇
―8月6日、広島に原爆が投下された―
夜空に浮かぶ明るい光。
光の点滅が川辺を漂う。
「……お兄ちゃん、あれはなに……」
「きっと……ヘイケホタルだよ……」
ホタルなんて嘘だ……。
きっとあれは……迫り来る火の粉……。
女の子に恐怖を与えないように……
僕は嘘をつく。
僕がついた初めての嘘だ……。
視力を奪われた僕の目には……
迫り来る火の粉が、蛍の朧気な光に見えた。
恐怖心を和らげるために、僕は紘一と見た蛍を思い出す。
6月から9月に見られるヘイケホタルは、ゲンジホタルよりも光は弱い。
その光は儚くて、揺れるような朧気な光。
まるで、僕みたいだ。
「お兄ちゃん……水が…飲みたい」
その声を最後に、女の子の声は聞こえなくなった。
「……ここにいたのか、捜したぞ!大崎君、大丈夫か!しっかりしろ!」
聞き覚えのある声がした。
その声は谷崎大佐だった。僕は谷崎大佐に抱き抱えられる。
「……女の子を……先に助けて下さい」
「……残念だが、女の子はもう亡くなっている」
「そんな……」
僕は救助活動をしていた部隊により、陸軍救護所に運ばれ手当てを受けたが、全身に及ぶ重度の火傷と致死量の放射線を浴びていた。
被爆の実態は未来で目にし、十分わかっている。
僕の命の灯火が、あと僅かなことも……。
「……ご両親はどこに住んでいる?誰か、連絡したい者は?」
鉄道寮の仲間は……
紘一や軍士は……
未来から来た桃弥君は……。
「紘一……軍士……桃弥くん……」
思わず、名前を呟いた。
僕の大切な友達……。
「それは君の仲間か?私が責任を持って連絡する。どこに連絡すればいいんだ」
僕は大きく息を吸い、首を左右に振る。
僕は最期まで、鉄道寮のことは話さなかったよ。これは、男と男の約束だから。
「………ね……ねちゃん」
僕の体はぼろぼろに傷付いていたけど、僕の心は穏やかだった。
生死の境を漂いながら、僕は夢を見ていたんだ……。
平和な日本で、音々ちゃんと桃弥君と過ごす……楽しい夢を……。
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