弐
8
原爆投下、敗戦、そして終戦から71年後の未来。次々と明かされる衝撃の真実。
怖いはずなのに、広島の街も、広島の人も、キラキラと輝いて見えた。
――美味しかったよ。
桃弥君が作ったカレーライス。
ちょっと辛かったけど、あの味は一生忘れない。
――ドキドキしたよ。
音々ちゃんの弾ける笑顔。
女の子の笑顔にドキドキしたのは、はじめてだった。
紘一が、2015年に死んでしまったことはとても悲しかったけど、日本がこんなにも美しく平和な国になっていることを知り、僕は心から嬉しかったんだ。
◇
―2016年5月28日広島平和公園―
黒い雲を切り裂く稲光。
あの日見た閃光が脳裏に蘇る。恐怖から身が竦む。
僕の左腕を掴んでいた桃弥君も、僕の右手を掴んでいた音々ちゃんも、同時に雷光に包まれた。
体に電流が流れるように、ピリピリとした痛みが全身に走る。体が痙攣したみたいに、声を発することも息をすることも出来ない。
僕達は落雷を受けたんだ……。
咄嗟にそう思った。
音々ちゃんの体がぐらりと傾くのが見えた。
音々ちゃんの手が僕から離れる。
『……ね……ね』
桃弥君が手を伸ばそうとしたが……
その手は、音々ちゃんには届かなかった……。
――僕は内心ホッとしたんだ。
これで音々ちゃんは……
助かると思ったから……。
薄れゆく意識の中で、その恐怖から僕を救ってくれたのは、脳裏に浮かぶ音々ちゃんの優しい笑顔と、鼓膜に残る優しい声だった。
◇◇
―1945年8月2日鉄道寮―
僕は桃弥君と共に再び1945年に戻った。でも、あの日ではなかった。
今ならまだ間に合う!
紘一を、鉄道寮の仲間を、広島市民を救うことができる!
僕達が今、出来ることは、ちっぽけなことだ。それでもみんなと力を合わせ警告文を作り、仲間とともに町中に配布した。
音々ちゃんがこの時代にタイムスリップしていることは、5日まで知らなかった。
祖母の家で音々ちゃんに逢えたことは、僕にとって奇跡だった。……と同時に、音々ちゃんがこの危険な広島にいることに驚愕した。
僕が音々ちゃんと未来で出逢わなければ、音々ちゃんはこの戦時下にタイムスリップすることはなかったのに。
桃弥君と……
音々ちゃんを……
危険な目に遭わせたのは……
この僕だ……。
もしも、僕の命があと僅かなら……
自分の気持ちを音々ちゃんに伝えたい。
……でも、そんなことをしたら桃弥君は怒るかな。非国民だと、寮の仲間は笑うだろう。
――音々ちゃん……。
もしも生まれ変わったなら、平和な時代で君と出逢い、共に生きたかったよ……。
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