56

 母方の祖母(守田蛍子もりたけいこ)と私は面識はない。何故なら祖母は、私達が生まれる前に47歳の若さで亡くなったからだ。


 初めて逢う祖母に、私は戸惑いを隠せない。


「もしかして……綾さんのお母さんですか?」


「ええ、綾がいつもお世話になってます。さあ、お2人ともこちらへ」


「私達……。招待されてないの。こっそり綾さんに逢いに来たんです。だから……披露宴会場には……」


「まぁ、ご招待してないのに、わざわざお祝いに来て下さったの?折角来て下さったのだから、お時間が許すなら是非参列して下さい。私達家族と同じテーブルでもいいかしら?ちょっと待ってね」


 祖母は、スタッフを呼び私達の席も用意するようにと交渉している。

 突然のことにスタッフは困惑しているが、祖母はそれでも粘り強く交渉を続けている。


「大丈夫かな。お祖父ちゃんも一緒だよね」


 こっそり見るつもりだったのに、母の家族と同席するなんて……。


「どうしよう。もも、お母さんの友達だって嘘ついちゃった」


「紘一さん……俺達のことに気付くかな」


 ――あれから36年……。

 私達はあの時と何も変わっていない。


 でも両親が存在するということは、祖父が戦火の下を生き抜いたことになる。

 祖父は原爆投下の広島から生還したんだ。


 戦時中のことが脳裏に蘇り、胸が押し潰されそうになる。


 スタッフと交渉していた祖母が、私達のもとに戻り右手の親指と人差し指で丸を作り、『オーケー』って笑った。茶目っ気たっぷりで優しい笑顔、初めて逢うのにずっと前から知っていたみたいに親近感がわく。


蛍子けいこ何しとる。披露宴が始まるぞ」


 少し怒った口調の男性。

 しわを刻んだその顔が、若き日の紘一さんの面影と重なる。


「お父さん、綾のお友達ですよ。わざわざお祝いにいらして下さったんよ。家族のテーブルにご一緒してもいいでしょう?」


「綾の友達?」


 祖父は私達を見て目を見開いた。

 明らかに驚愕している。


「君達は……!?」

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