第2話 プロ2戦目 〜サウスポー編〜
まだ昨日の余韻が覚めないまま、朝を迎えた。興奮で結局、一睡も出来なかった。仕事は明後日まで年休をとってある。顔の腫れが酷い。ところところ内出血もしている。触れとる痛さが走った。8オンスで殴り合うといのはこう言うことかと思った。スマホを確認すると、お祝いやお疲れさまLINEがたくさん来ていた。昨日はデビュー戦ということで、母親の友美や友達、職場の皆んなが、応援に駆けつけてくれたのだ。スマホを確認していると新堂トレーナーから電話がかかって来た。
稔侍は「はい」と応答した。
「昨日はおめでとう!身体は大丈夫か?」
「はい、身体中、痛いですが、問題ありません」
「それは良かった」
「ゆっくり休養して、ジムに来たらええわ」
「はい、ありがとうございます」
と短いやりとをして電話を切った。
改めて俺は、勝ったんやと、実感が湧いて来た。その後、母親の友美と昨日の出来事を少し話して、皆にLINEを返すなどして、一日を家で過ごした。
3日後、仕事に行くと、職場の皆んなも祝福してくれた。本当に気分がいい。まるでヒーローになった気分だった。その日の仕事終わりに、ジムへ挨拶に行った。
ジムに入るなり、新堂トレーナーと朝倉トレーナーが「おめでとう」と言ってもらえた。朝倉トレーナーは光新ジムの元プロ選手で、日本ランカーまで昇りつめた強者だ。試合のセコンドについてもらった八木トレーナーは、今日は休みのようだ。お礼のお菓子の詰め合わせをトレーナーに渡した。来る途中の洋菓子店で買ったものだ。朝倉トレーナーは「遠慮なく受け取るわ。ありがとうな」と言って、選手のコーチングを再開した。
新堂トレーナーに帰りの挨拶をして、家路についた。2週間の完全休養をとって、練習を再開した。練習を再開をして2週間、後ろから新堂トレーナーの声を聞こえた。
「はい」と返事をした。
「試合の話があるんや」と新堂トレーナーは言った。
「相手は大阪剛拳ジムの池山選手で、その日がデビュー戦になるとのこと。会場はMMPホール。時期は来年の1月15日。相手はデビュー戦やから、万全の状態でやりたいんやろう。まだ少し時間があるので、しっかり練習して挑もう」
「はい、分かりました。宜しくお願いします」
「ちなみに相手はサウスポーやわ。試合のウエイトはバンタム級で頼むわ、ほな宜しく」
試合の話を聞いている間、顔には出なかったが、恐怖心が襲っていた。デビュー戦の時とまではいかないが、やはり怖い。俺は練習で怖さを払拭するしかないと思った。新堂トレーナーも、そう言っていた。とにかく練習しかないのだ。その日から練習にも力が入った。サウスポーとは、どんな闘い方をしたらいいのだろうか…。
八木トレーナーからは、相手はデビュー戦なんやから、あまり気にせずに自分のボクシングをしたらいいと、朝倉トレーナーからは、とにかく相手の左を警戒しないといけないから、打ったら左、打ったら左にまわるようにと、新堂トレーナーからは、相手の右をパーリングして、そこから、ジャブを返す練習をしっかりやろとのことで、色々コーチングしていただく中、頭の中で整理できない自分がいた。光新ジムにもサウスポーはいたが、10キロ以上体重が上だったこともあり、軽くマスボクシングをするだけだった。こうした中、少し不安が残る中、試合の日が来た。前日計量は300アンダーで無事にパスした。計量は順調に行ったが、なんだか胸がつかえていた。今回も第一試合に組まれていたので、時間通りアップが出来る。バンデージを巻いてもらい、気合いが入る。シャドーをして、いつものようにミット打ちをこなした。胸のつっかえはどうやら胸焼けをしているようだ。
やって来た事を全部出す!自分に言い聞かせた。第一試合を開始します。両選手の入場です。リングアナウンサーの声が会場に響いた。
第1ラウンドのゴングが鳴った。「相手はデビューや、こっちは落ち着いて行こう」と新堂トレーナーがリングを去りしなに声をかけた。俺はジャブから丁寧に打ち、相手の出方を見た。池山はあまり攻めて来ないのを見て、俺は距離を詰めた。一瞬、池山のボディが空いた。その空間に左ボディを突き刺した。ボンッという音と同時に、池山は膝をついた。ダウンだ。レフェリーがニュートラルコーナーに行くように指示がでた。俺はニュートラルコーナーへ行き、セコンドの方を見た。新堂トレーナーから「稔侍、ラッシュや!」と連呼しているのが聞こえた。会場もダウンシーンで沸いている。池山は立ち上がり、ファイティングポーズをとった。レフェリーがボックスと言って、試合が再開。俺は、すかさずラッシュをした。しかし、ラッシュは空回りした。焦ってパンチが大振りになったのだ。このラッシュで大きく体力を消耗することになった。そして、第1ラウンドが終了した。八木トレーナーがリング脇から差し出した椅子に深々と座った。インターバルは60秒だ。その間に少しでも体に酸素を取り入れ、体力の回復を図ると共に、チーフセカンドの指示を聞く。チーフセコンドの新堂トレーナーから「ようやった。この調子でいこ。打ち終わりのガードをしっかりやるように」と指示が出た。俺はその時、小さく「はい」と返事をするのが精一杯で、著しく体力が消耗しているのが分かった。おまけに胸焼けもひどくなっていた。
第2ラウンドのゴングが鳴った。池山はダメージから回復したのか、1ラウンドをこなし緊張もほぐれ動きが良くなっていた。ジャブもシャープに打って来る。サウスポー慣れしていない俺は、思うように距離を測れず、何発もジャブをもらった。それでも距離をつぶし、ボディを中心に戦った。お互い、クリーンヒットがなく第2ラウンド終了のゴングが鳴った。コーナーに戻る足取りが重い。明らかにスタミナ切れだ。インターバル中、ふと、昨日の計量後、スタミナを回復させるために大量のニンニクを食べたことを思い出した。胸焼けの原因はこれだと思った。そして、第3ラウンドのゴングが鳴った。苦手なサウスポーに加え、吐き気との戦いは苦しいものになった。
第3ラウンドは池山優勢に進んだ。最終第4ラウンドは何とか気力を振り絞り、五分五分の内容となった。勝敗は判定に委ねらた。ジャッジ郡山、ジャッジ新田、39対37。ジャッジ小泉、39対38。以上3対0の判定により、勝者赤コーナー桜井稔侍〜とリングアナウンサーが俺の名前をコールした。よしっ勝った!デビュー戦同様に嬉しさが込み上げた!ドクターチェック後、控室に戻り、バンデージをトレーナー陣に取ってもらう。その時、新堂トレーナーが「アップの時からニンニク臭かったわ」と言った。「昨日どんだけ食ったんや」
「生のニンニクを5個食べました」
「アホか、スタミナ切れはそれや。ニンニクはスタミナにはええのは誰にでも分かってる。でもな、食べすぎは逆効果や。胸焼けもしてたと思うわ」
「すみません、食べすぎました」
「勝ったからええものの、これからはニンニク禁止や」周りのトレーナーがどっと笑った。こうしてニンニン禁止令が出された。
【戦績2戦2勝】
ボクシングアライブ BANTAMU @bantamu
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