スウィートハニー
萱草真詩雫
スウィートハニー
俺の名前は外村颯天(とのむらはやて)、高1、料理部。
…で。
特技は、自分じゃ分からないけど…部活の先輩達からもその腕を絶賛される程、趣味の域を超えたお菓子作り。
そんな俺が気になる人は鳴神壱成(なるかみいっせい)さん、2歳上、高3の先輩、帰宅部。
その、鳴神先輩が苦手な物…それは甘いお菓子全般。
しかも今は冬、もうすぐ3年生は卒業。
…全然俺の事好きになってくれる気がしない。
「…はぁ」
「はーやてっ!なーにため息ついてんだ?」
「あ、氷牙先輩」
部活中、ため息を吐きながらメレンゲを泡立ててると、同じ部活で引退した氷牙先輩が遊びに顔を出し、俺を後ろから抱き締めてきた。
「いや…なんでもないです」
「そーか?おっ、マドレーヌじゃん!もーらいっ!」
俺は人懐っこい氷牙先輩に苦笑して答えると、氷牙先輩は目の前にある、先ほど作ったばかりのマドレーヌを一口で頬張る。
「ん~っ、超うまっ!」
幸せそうに両手で頬を押さえる氷牙先輩に笑うと。
何やら部室の入口から騒がしい声が聞こえてきた。
「…あれ、壱成だ!珍しいなー」
「……!!!」
氷牙先輩の言葉に、まさかと思って入口の方を見ると。
同じ部活の先輩が、鳴神先輩を無理矢理引っ張って部室に連れてきたのだ。
俺は鳴神先輩を目にした瞬間、思わず手が止まった。
「止めろよっ、離せ!俺が甘いもん苦手なの知ってるだろっ!」
「良いから良いから」
「何が良いんだ!…うぇっ、気持ち悪ぃ…」
お菓子特有の甘ったるい匂いに鳴神先輩は口元を押さえる。
でも俺はそれどころじゃなく。
大好きな鳴神先輩を目の前にして、嬉しさのあまり固まってしまった。
「壱成、あれが噂の外村颯天」
「………あ」
先輩の一人が俺を指差すと鳴神先輩はゆっくり俺を見る。
目が合った…!
「…お前があの1年か」
『あの』が何なのか分からないけど、鳴神先輩は俺の事知っててくれてる…!
凄く嬉しい!
俺はたどたどしい口調で何とか話そうとした。
「あ、あの…」
「お前お菓子作りの才能すげぇんだってな。俺はそういうの食えねぇけど、頑張れよ」
俺の言葉を遮って、鳴神先輩は微笑んでそう言うと俺の頭を軽く撫で去って行こうとする。
笑顔が眩しい…
そんな鳴神先輩に俺は精一杯。
「ありがとうございますっ…!」
と叫ぶと、鳴神先輩は背を向けたまま手を振ってくれた。
どうしよう…心臓の音が…
俺、やっぱり鳴神先輩が好きだ。
だけど、もうすぐ鳴神先輩は卒業してしまう…
「…そうだ」
俺は何かを思い付いた。
ー月日は流れ、卒業式の日ー
校門の前にいた目当ての人を見付けた俺はその人に駆け寄る。
「鳴神先輩…!」
「…外村」
俺に気付いた鳴神先輩がこっちを見た。
「卒業、おめでとうございます。…それで、これ。受け取って下さい」
俺が差し出した袋を鳴神先輩は受け取り中を確認する。
「これ…」
「抹茶スコーンです」
「俺、甘いもん苦手…」
「知ってます。でも、騙されたと思って食べてみてくれませんか…?」
俺の願いに鳴神先輩は渋々抹茶スコーンを一口食べる、すると驚いた様子で。
「…美味い」
小さく呟いた。
「本当、ですか…?」
「あぁ、そんなに甘くなくて美味い」
そう言ってくれた鳴神先輩は次の瞬間、思ってもいなかった言葉を口にする。
「俺、前からお前…外村の事が気になってたんだ。お前なら、俺の甘いもん嫌い克服させてくれそうだって」
「え…」
嘘…
あの鳴神先輩が俺を…?
嬉しさと、信じられないという思いに言葉が出ない俺に、鳴神先輩はけど…と言い俺を引き寄せ口付けをした。
「んんっ!?…はぁっ」
「…やっぱ甘い。悪くないけどな」
ニヤリと笑う鳴神先輩に俺は真っ赤な顔で名前を呼んで自分も想いを伝えようとすると。
「…鳴神せんぱ」
「壱成で良い、颯天。好きだぜ?」
下の名前で呼ぶよう促し先に告白してくれた。
「いっ、せい…」
「ん?」
「ずっと好きでした…!卒業、しても…傍にいてくれますか…?」
「勿論」
ニッコリ笑い俺を抱き締めた。
どうやら難攻不落な彼を、俺はあっさり落としてしまったようだ。
ーおしまいー
スウィートハニー 萱草真詩雫 @soya
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