第4話 まずは言葉が通じるか調べてみよう

 何をするにも、まずは街を歩いてみなければ始まらないわけだが、勝手に歩き回って大丈夫だろうか。


 気を付けるべきは以下の点だろう。


 ・適当にぶらついて安全かどうか

 ・街を歩く上での規則等があるのかどうか


 適当にぶらついて安全かどうかについては、つまり、俺が周囲からどのようにみられているのかという問題だ。スーツ姿の俺は、どう考えてもこの世界に於いては、服装の上で異質だ。下手な注目を集める可能性がある。もしも、この世界の住民が排他的であるならば、何らかのトラブルに巻き込まれる可能性も否定できない。


 街を歩く上での規則等があるのかどうか。これは、日本ではまぁ考えられないことだが、身分などによって歩いていい地域と歩いてはいけない地域があるかどうかだ。もしも、貴族専用の道などがあって、切り捨てごめん制度があったならば、即座にぶっ殺されてしまう。


 これらのことを考えるに、まずは、この世界の常識を把握することから始めなくてはならないだろう。


 言葉が通じるのかどうか。身分制度などはどうなっているのか。金銭はどうなっているのか。この辺りは把握しておきたい。どうするか。言葉が通じるかどうか、手近な人に問いかけてみるか。


 といっても、通りを行き交う人々に声をかけるのは不自然だ。


 そうだな、とりあえず、商店に入ってみようか。物を買うふりをして、言葉が通じるかをチェックしよう。言葉が通じなければ、異国の旅人を装って店を出ればいい。


 見渡すと、程よく通りの近くに、屋台が出ていた。俺はそこに向かう。


 と、屋台を見て、衝撃を受けた。


「日本語じゃねーか!」


 屋台に並んだ異形の魚たちの上に、札が置かれ、そこには、



『大特価! 目玉商品!!』


だの、


『これは美味いっ!! 新鮮間違いなし!!』


 だのと書かれている。俺は思わずずっこけそうになる。いったいどういうことやねん。


 だが、お金については『円』が通用しないようだ。全く聞いたことのない通貨単位が書かれている。魚にしてもそうだ。日本でなじみの秋刀魚だの鯛だの鯖だのは見当たらない。これはいったい何の魚なのだ? 深海魚か? と訊きたくなるようなものが並んでいる。


 ううむ……。


 俺が悩んでいると、店主らしき男が声をかけてきた。


「兄ちゃん、お安くしとくよ」


 おぉ! 日本語だ。俺は返答することにする。これで会話が成り立てば、言葉は通じるということになる。


「こ、こんにちは」

「おぅ、こんにちは!」


 つ、通じた! 普通に通じた! これは、いけるぞ。


「あの、少しだけ、教えてもらえませんか?」

「なんだい?」

「僕はその、旅人でして」

「ふむ、旅人」

「はい。つい先日、この辺りに来たばかりなんです。まだ、この辺りのルールのようなものが分かっていなくて。その、周辺地図や町の歩き方などがわかる、観光案内所のようなものはありませんか?」

「あぁ。それなら……」


男が通りの向こうを指さした。


「この道をずっと行ったら、ミソノ商会ってのがある。そこが、この辺の商店街連盟の会長さんだ。そこに行けばいろいろと聞けると思うよ」

「ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。商店街連盟なんてものもあるのか。普通に街として成り立っている感じだな。


 俺がそのまま出ようとすると、店主が言った。


「ちょっと待ってくれよ。そのまま行っちゃうの?」

「え?」

「いやいや、人にものだけ尋ねといてさ。そりゃないでしょう。なんか買っていってよ」


 男が、笑顔で凄む。なるほどな。こういう手合いだったか。俺はポケットを探り、小銭を取り出した。


「なんだい、これ?」

「申し訳ないけど、さっき言ったように、この辺りには来たばかりでね。通貨変換をしていないから、別の国の通貨しかないんだ」

「へぇ……」


 男が目を細めた。


「あんた、一体どこから来たんだ? この辺は一律、共通通貨になって久しい。別の貨幣なんて、ショウジの森の向こうか、チュルクの谷を越えた先にしかないと思うぜ?」

「その辺りからやってきたんだよ」

「何日もかけてか」

「ああ。だから腹ペコなんだ」


 男が笑った。


「だったら、貨幣交換したらうちで何か買ってくれ。加工食品も扱っている」


 たしかに、屋台の右奥に、魚のすり身が置いてあった。


「そうさせてもらうよ。約束だ」


 俺は手を振って、その場を離れた。

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異世界選挙日記 孤独なカウボーイ @lonesomecowboy

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