第4話 魅入られる

「『星環』に託された鴉……か」

 金星かなぼしは誰もいない図書室に一人事を呟いた。現世を舞台とする物語。実際に起これば、面白いのに。でもそれが起きないのが現実というものだ。


「……ちょっと待て。これって──」

 椅子に背を預けて、読みふけっているとけいと言う名前が書かれていた紙切れを見つけた。

「けい……? 」

「へぇ~。面白いの見てるね。何それ?」

 突如、一人でいたはずなのに聞いたことのない男の子……子供の声色が聞こえた。不意打ちで油断した。思わず肩を震わす。

「……別に、ただの物語だけど?」

 一呼吸置いて返事をした。

の物語なんだ?」

 後ろから声をかけて来た子は、金星の座っている席の隣に来る。座る訳でもなく、棒立ちしている。まるで、こちらを監視しているかのような。面倒くさい奴に絡まれたな、と金星は相手に気づかれないように小さく肩を落とした。

「なんでそこを強調するんだ……」

「実際に起きることだって言ったらどうするの?」

「実際に……? 起きる訳がない。俺を馬鹿にしているのか!」

 手元にある物はただの本で、ただの物語にすぎない。

「馬鹿になんてしてないよ?」

「早くどっかに行ってくれないか? 読書の邪魔だ」

 金星は覚めた目で訴えた。邪魔なのは確かだ。

「これを見ても?」

 石を見せつけられた。しかし、その石はどす黒く濁っている。

「……まじかよ」

「そうだ! この石、あげるよ」

「貰いたいなんて一言も言ってない……」

 どす黒いのは、悪いことをして濁った証。綺麗なのは、良いことをした証。確かそう物語には書いてあった。

「本当だったとしても、いらない……」

 悪いことをして濁った証なんか、尚更いらない。

「じゃあ、啓って言う紙切れが入ってた理由は知らなくていいよね?」

「……教えてくれ」

「じゃあ、契約ね!」

 男の子の、高らかな笑い声が響いた。



















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星環の跡で ルロルタ @ruroruta

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