カワウソの代行川渡し

緑黄色野菜

本編

 かばんとサーバルが去った後も、じゃんぐるちほーの川は濁った水が流れていた。水面から伸びる木々の姿は陸上の木々とは違っていて、とてもおもしろい。天気も良く、いつもと変わらない川でジャガーは泳げないフレンズたちのために木板を引きながら泳いでいた。

 「今日もみんなを川を渡らせてあげられて良かった。お腹もすいたし、一度住処に帰ろう」

 無事に仕事を終えて、上機嫌な様子でジャガーは自分の住処に帰ることにした。ジャガーは静かなじゃんぐるの川の音に耳を傾けながら泳いでいると、カワウソの遊び場が見えてきた。

 「おーいジャガー、今日もいい滑り日和だね!」

 カワウソがお気に入りの滑り台からジャガーに手を振る。

 「カワウソ、今日も楽しそうだな」

 「うん、たーのしーよ!ジャガーも一緒に滑ってく?」

 「私はこれからジャパリマン食べに戻るところだから、またな今度な」

 ジャガーはカワウソに手を振り返すと再び泳ぎ始また。だが、その瞬間。ジャガーは先ほどの穏やかな様子から一変して苦悶の表情を浮かばせた。

 「う、後ろ足がっ……!?」

 持っていた木板を手放し、川の中でもがくジャガーは何度も水を飲み込み、更に動揺して暴れてしまう。

 「ジャガー!?」

 カワウソは滑り台から飛び込み、得意の潜水で一気にジャガーに近づいた。

 「落ち着いてジャガー。私の手を握って一緒に岸に上がろう!」

 暴れるジャガーをカワウソは落ち着かせながら岸へ誘導していった。




 「カワウソ、ありがとう。助かったよ」

 落ち着いたジャガーは岸辺で横になりながらカワウソに言った。

 「どういたしまして。でも、一体どうしたのジャガー?」

 「急に片方の後ろ足が動かなくなってな。それで泳げなくなったんだ」

 「そうなんだ。で、どう?立てる?」

 「いや、まだピリピリした感じがして立てないな」

 ジャガーは小さくため息をつく。

 「これから、さばくちほーに出かけに行ったフレンズたちが帰ってくるのに。川渡しの仕事はどうしよう……」

 ジャガーが気落ちしている様子をカワウソはまじまじと眺めていた。そして、何かに気付いたようだ。

 「ねえねえ、ジャガー?今日は私が川渡しの仕事をやってあげようか!?」

 「え?カワウソが?」

 「ふふふっ。泳ぎならジャガーと同じぐらい得意だから私にもできると思うよ!」

 「ふーむ……」

 少し考え込むジャガー。

 「……そうだな。カワウソなら私の代わりも務まると思うし、お願いしようかな。でも、慣れないことなんだから無理はするなよ?」

 「分かってる、分かってる!それじゃ、行ってきます!!」

 カワウソは駆け足で川に飛び込み、木板を持ってアンイン橋に向かって勢いよく泳いで行った。

 「本当に大丈夫かな……?」

 やる気満々のカワウソとは対照的に、ジャガーはカワウソの後ろ姿を心配そうに眺めていた。




 「よいっしょ。これで最後かな」

 カワウソがさばくちほーから帰ってきたフレンズたちを渡し終えた頃には、太陽は傾き、じゃんぐるちほーは朱色の光で包まれ始めていた。夜行性のフレンズたちが目覚め、昼間とは違うじゃんぐるちほーに姿を変えていく。

 「アリクイからお礼のジャパリマンを貰っちゃった。川渡しって、たーのしー!」

 カワウソは貰ったジャパリマンを木板に乗せてジャガーが待つ自分の遊び場に帰っていった。

 「あっ。カワウソおかえり」

 遊び場に戻ると、そこにはカワウソの帰りをジャガーが落ち着かない様子で待っていた。

 「ただいまー、ジャガー。もう足は大丈夫なの?」

 「うん。おかげさまで安静にしてたら回復したよ。それで川渡しの方はどうだった?」

 「上手くいったよ!でも、インドゾウは他のフレンズより重くて大変だったよ!」

 「……それはインドゾウの前では言うなよ?」

 「それとアリクイが川渡しのお礼にジャパリマンくれたから一緒に食べよう」

 「お、いいね。ありがとう、カワウソ」

 二人は仲良くジャパリマンをはんぶっこに分けて美味しく頂いた。川のせせらぎを聞きながら食べるご飯は格別なことだろう。

 「今日はいつもと違うことしてたのしかった!ジャガー、また明日ね」

 カワウソがさよならの挨拶をするが、ジャガーは何か言いたそうにもじもじしていた。

 「あのーなぁ?カワウソ」

 「うん?」

 「そのー。あれだ。えっと。……カワウソが引く木板に、私も乗せてくれないか?」

 その言葉を聞いたカワウソはニヤニヤとした少し意地悪な表情を見せた。

 「んー?ジャガー。普段、自分が引いてる木板に乗りたくなっちゃたのかな?かな?」

 「う、うるさいな。乗ってる側はどんな感じなのかなーって気になっただけだ!」

 「ふふっ。からかってごめんよジャガー」

 カワウソはジャガーの手を握り、満面の笑みで答えた。

 「いいよ。今日は私がジャガーを送っててあげる」

 「おう、お願いします……」

 カワウソに顔をそむけながらジャガーは照れながら答えた。




 「私が泳いで、ジャガーが木板に乗る。たまにはこういうのもいいね」

 「たまにはな」

 「それにしてもジャガーって、見かけによらず押しが弱いよね。この前来たアライさんって子もこうざんに行こうとするのを止められなかったし」

 「アレは……。いいんだよ!私はちゃんと伝わるべき時にちゃんと伝わればそれでいいの」

 「ふふっ。それもそうだね」





 

 

 

 

 

 

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