第25話 運命の言の葉を読む

 敵を眼前に見据え、おびえながらも剣を構え、意を決してシュンディリィは敵へと駆け出し――思い切りすっ転んだ。


「ぐべっ!」


 不格好なうめき声を上げて顔から地面に突っ伏して土を舐める。


 ……?


 突然の出来事に敵の竜ですらも怪訝に思い、こちらの様子を探ってくる。先程まであれほど巧みに身を飜えしていた少年が、いきなり無様に転んだとあっては無理もない。


「ぺっぺっ!」


 口の中に広がる苦い砂埃の味にツバを吐きながら、シュンディリィは身を起こす。突然の転倒はシュンディリィが鈍くさかったからなのか? いや、それは違う。


(か、身体の調子が全然違う!)


 シュンディリィが転倒してしまったのはむしろその逆。あまりにも身が軽く力強すぎたせいだ。それもそのはず、シュンディリィの身体には今も猫戦士の秘蔵の魔術による身体強化がかかったままだ。少年の普段の運動能力をはるかに凌駕する力が彼自身に宿っている。

 だがそれは本来猫戦士の卓越した技と身体制御によってのみ真価を発揮するものであり、ちゃんとした戦闘訓練など行ったことのない少年ではただ持て余すばかりの力だ。この力を操り敵と戦うのは容易ではない。


(ただ少し走っただけなのに、暴れ馬の上に立ったみたいだ!)


 猫戦士ジルグドは他者の身体であるにも関わらずこのパワーを完璧に制御していた。あるいはその制御の巧みさこそ猫戦士の本領なのかもしれない。

 内心でそう舌を巻くが、ボヤボヤしてもいられない。シュンディリィの奇行がただの無様であったと見て取ったのか、竜は再び進撃を開始する。さきほどまでの技はないと悟ったのだろう、慎重さを捨てた勢いでだ!


 Grrrooo!


 突っ伏したままのシュンディリィを薙ぎ払うように振るわれる前足! 鋭い爪の生えた巨木のような脚が見る間にシュンディリィの視界いっぱいに広がる。


「くっ――このぉッ!」


 歯噛みし、跳ね上がるように身を起こせばその身は高く飛び上がる。腕の力だけの跳躍でも竜の前足は回避できた。シュンディリィとてただ手をこまねいてばかりではない。新たに手にした銀の剣で、回避ざまに斬りつける!

 振るわれた剣は竜の鱗を幾枚か割り、その皮膚を切り裂いた!


 Grrrr……!


 思わず受けた痛痒に、竜は反射的に身を引く。

 間合いを空けて地面になんとか着地したシュンディリィは、竜の血のしたたる剣をかざす。


(この剣、ジルグドの剣よりも強い!)


 ジルグドの剣は自在にその形状を変えるという点で便利であったが、反面攻撃力はそれほどのものではなかった。猫戦士の技量があればそれでたいていの敵には対応できたのだが、竜相手では武器の攻撃力こそがものを言う。

 名工の最新作というこの剣は、ジルグドも業物と太鼓判を押したものだ。シュンディリィの素人剣技で竜鱗を断ち割り、刃こぼれも歪みも無いというのだから伊達ではない。


 もしジルグドがこの剣を使えていれば竜との戦いの結果は大きく変わっていただろう。だがあの状況では竜に対して有効な武器を探している暇もなく、不確かな可能性にすがるほど彼は軟弱ではなかった。

 彼の力を借りられなくなってからこの剣がシュンディリィの手の中に転がり込んできたのは皮肉と言わざるを得ない。


「でも、この剣なら僕でもやれる……! あとは――」


 どこをどう攻めるか、だ。

 いくらこの剣が業物であるとはいえ、シュンディリィの腕では竜の脚や首を切り落とすなどとてもではないが不可能だ。かといって竜の巨体をチマチマと浅く傷つけたところで決定打になるはずもなく。ならば狙うはただひとつ、


「逆鱗、しかないのか……」


 腕はあれど武器の無かったジルグドと腕は無いが武器はあるシュンディリィとで同じ結論に至るのもまたやむなし、ということか。

 だが問題はそれが果たせるのかということ。武器があり、身体能力が高まっていたとしてもそれを操るのがジルグドでなくシュンディリィでは……。


 Grrrrr...


 低い唸り声を上げながらにじり寄る竜。その殺気が放つ圧力は並ではない。


「く、ううっ」


 汗を流し、歯を食いしばりながらじりじりとシュンディリィは後ずさりを強いられる。やはりシュンディリィでは圧倒的に戦闘の経験が無さすぎる。技量も、そして精神力もジルグドには遠く及ばない。


(退いちゃ駄目だ……攻めないと……!)


 頼みの綱の強化の魔術の効果は無論永遠ではない。術者であるジルグドと離れた今、いつ途切れるかもわからない危うい状態だ。魔術が切れればシュンディリィに勝ち目はない。

 ここは――意を決するところだ!


「う、うあああああアアアアッ!」


 一声、腹の底から絞り出すように気合の声を上げ。シュンディリィは再び前に踏み出した!

 強化された肉体にバランスを崩さないよう意識しながら、剣を振りかぶって竜に挑みかかる。


(ジルグドのやり方を思い出すんだ!)


 そう自分に言い聞かせ、勇気を奮い立たせる。

 ジルグドのやり方、つまりは敵ではなく『景』を見て戦うやり方だ。未熟なシュンディリィの技量で、ジルグドの真似をそのままやれるとは思わない、だが。


「『見る』ことでなら、ジルグドにだって負けないぞ! ――『鑑定アプレイザル!』


 人は窮地に陥ったときにこそその行動に本質が現れる。鑑定魔術師たらんとするシュンディリィが、竜との戦闘という極限の状況で鑑定の魔術を使ったのは必然であった。そしてそれは思わぬ効果を生んだ!


(これは……!)


 シュンディリィは思わず息を飲む。

 瞳に宿る鑑定の魔術の光によって青く染まるシュンディリィの視界。普段であれば、鑑定をしたいものに焦点を合わせ見つめればそのものの詳細が言葉となって脳裏に走るはずである。だが今は少し違う。


(鑑定が速くて……軽い!)


 シュンディリィの目……感覚器官すら操ったジルグドの同調魔術の副作用なのか、はたまた直前に竜などという膨大な魔力の塊を鑑定した影響なのか、それはわからないが。通常であれば結果を得るのにある程度の集中した凝視が必要だった鑑定魔術が、


『かつて賑わいを見せた薬草屋の軒先も、暴竜の蹂躙に見る影もなし』


 瓦礫の一部をでも、ちらりと一瞥するだけでその内容が頭に負荷なく滑り込んでくる。その速さと軽さは普段の比ではない。


「これ、なら――」


 シュンディリィの脳は、彼なりの拙い戦術観でもって戦いのプランを組み立てはじめる。

 たとえば対峙する竜の脇を回り込み斬りかかる、そう画策した場合竜に至るには二通りのルートがある。単純に右から回り込むか、左から回り込むか。そしてその竜の両側には崩れた商店の残骸があり、竜に斬りかかるのであれば左右どちらかを足場にしなければならないだろう。どちらのルートを選ぶのか、そこでこの高速化した鑑定魔術が活きてくる。

 まずは、と左の瓦礫を見る。


『そこで売られた迷宮地図には、竜の居場所は記されていなかった。もっともそれが記されていたならば、ここで地図が売られることもなかったであろう』


 どうやら左の瓦礫、そこは地図を扱う道具屋があった場所のようだ。だが情報はまだ足りない。もっと深く、シュンディリィの目は情報を貪欲に取り込む。

 瓦礫の中、小さな缶の箱。地図に書き込むための黒鉛筆が収められていたらしきその箱に、シュンディリィの鑑定の瞳の焦点が合わせられる。


『象が踏んでも壊れぬぞとは、しょせんはただの売り文句。竜が踏めばその結果は火を見るより明らかだ』


 その言葉を読んだ瞬間、シュンディリィは地図屋とは反対方向に跳ぶ!

 一瞬遅れて竜の前足が地図屋の瓦礫を蹴散らす。散乱する破片の中には踏み潰された筆箱があった。

 シュンディリィの位置は竜の前足の逆側、踏み潰しの攻撃は完全に回避できた。


 !?


 動きを読まれたことに竜が驚きの念を漏らす。そのわずかな戸惑いは、未熟なシュンディリィであっても見逃さない。

 白銀の刃が閃き、不格好ながらも力強い斬撃が竜の胴を薙いだ。断ち割った竜鱗が舞い、熱を帯びた竜の血が流れる。


(やれた……!)


 思惑が上手く行ったことに、シュンディリィは心中で快哉をあげた。

 上手くいくかどうかはほとんど賭けだった。普段からおぼろげには思い描いていたことであったが、それをこんな土壇場、命をかけた戦いの場で実践することになるとは思っていたなかった。

 それは彼の特異な、詩文を読むという鑑定魔術を応用した『未来予測』だ。

 シュンディリィが鑑定魔術で読む詩文は、過去や現在の事柄ばかりではなく未来にも及ぶことが、ままあった。そのモノが何処から来て、何処に行き着くのか。つまりは『運命』。それをシュンディリィの鑑定は読み取っていたのだ。


 シュンディリィは筆箱を鑑定し、竜に踏み潰され壊されるという運命を読み取った。ならば竜の足は筆箱を踏むという未来が予測できる。それさえわかってしまえば回避は容易い、というわけだ。

 普段のシュンディリィの鑑定魔術ではこんなことは出来はしない。ジルグドの強化魔術と竜を直接鑑定した魔力逆流という2つの偶然が鑑定魔術を高速化させたからこそ今だからこそなしえた芸当だ。

 だがそれでもこれは大きなアドバンテージ。誰にも真似できない、シュンディリィだけが持つ反則じみた力なのだ。


「フー……ッ」


 大きく息を吐き、シュンディリィは剣を構える。その顔にはもはや恐れはない。魔術の宿る青の瞳が、戦場全てを見通していた。


 Grrrr……。


 そして相対する竜もまた鑑定をされた怒りを忘れ、平静さを取り戻していた。目を細め、己に立ち向かう『敵』の姿を見定める。シュンディリィの鑑定が運命を鑑定たように、竜もまたこの敵……ただの非力な少年に己の運命を見た。

(この者であったか)

 竜の心中を語るとすれば、そんな言葉であっただろうか。

 半日ほど前、地下で感じた違和感。竜をこの階層にまで導いた、何者かと繋がるような感覚。その正体こそこの少年であったと竜は確信した。それは何か形容しがたい、『納得』に似た感慨をもたらす。水路を水が流れるように、この戦いに己が行き着いたのは当然のこと。自分がこの世に生まれてきたのは今ここでこの少年と戦うためであった、とすら感じられた。

 ゆえに竜は怒りを収める。ここで相対するのが必然であるならば、それまでの振る舞いは全て不可避のものであるのだから。

 そして!


 GRRRRRROOOOOOO!!


 一際強く、これまでにないほどの猛々しさで竜は吠える。


「く、うっ……!」


 ビリビリと大気を震わせるその音圧にシュンディリィは歯を食いしばる。竜の気配が変わったことはシュンディリィにも感じられた。これまでの怒りにまかせ獲物を喰らわんとする獣じみた気配ではなく、ジルグドが放つそれによく似た――戦士の気配。

 竜は認めたのだ。シュンディリィが、己が命を賭けて戦うべき相手であると。怒りや本能だけで戦うことは能わない強敵であるのだと。


「……ああ、やってやるとも」


 竜が放つ戦士の気配は強くあったが、不思議と恐れを呼ぶものではなかった。むしろ落ち着いた心持ちで戦いに臨む覚悟が生まれるほどであった。

 構える剣は青眼に。白銀の切っ先が竜と重なる位置にある。鑑定の魔術はあらためてその剣の『運命』を読んだ。


『暴威の顎門あぎとに自らを投げ入れる勇気を持つ者だけがそれを為す。この剣は――竜を殺す剣だ』


 この言葉を読むのはこれで三度目。一度目は戸惑い、二度目は疑い、三度目の今は確信を得る。竜を殺す術はここにあり、と。


「行くぞおおおッ!」


 シュンディリィは地を蹴った。迷宮に散らばる数多の物品が、その運命を彼に見せ、行く道を示してくれる。壊れゆくモノ、残るモノ。万華鏡のように広がる言の葉の波が一筋の光の道となる。敵の、喉元に至る道に!

 強化された脚力を全開にして地を駆ける。転ばば転べ。たとえ姿勢を崩そうとももはや止まらない。投げられた一つの剣となって突き進むのみだ。


 gooooo……。


 待ち受ける竜は大きく息を吸う。吠え猛るのではなく肺腑いっぱいに息を吸い込み、胸を膨らませる。その行動はある一つの攻撃の前兆だ。それは強力でありすぎるがゆえに、閉鎖空間であるダンジョンの中で使用すれば竜自身にもダメージがいきかねないその攻撃。

 カッカッカッと甲高い音が響く。竜が口を開け閉めし、牙の中に隠し持つ硬質の骨を打ち鳴らしているのだ。乾いたその骨は火花を生む。あとは体内に溜め込んだ空気、そして内臓より滲み出るが揮発し混ざり合い、竜の莫大肺活量によって一気に押し出されれば……発火する!

 すなわち竜の吐息ドラゴン・ブレス! 竜の最大最強の攻撃である!


「!」


 眼前に展開した超高熱の炎の壁を前にシュンディリィは目を見開く。それまで見えていた光の道は急速にその数も太さも失い、か細い一本の線が見えるのみとなってしまった。

 なんの防御もなしにドラゴンブレスに突っ込めば一瞬で消し炭だ。活路を求め、シュンディリィはただ一本見えた光の道に従い、瓦礫の山を蹴って高く跳躍した。それなりの高さがあるとはいえダンジョンの中だ、その身は天井スレスレにまで近づく。


 空中から見下ろすシュンディリィと、息を吐ききり周囲を焼き尽くし見上げる竜の視線が一瞬の間に交錯する。シュンディリィは竜を見たが、もはや鑑定の情報はその脳裏には浮かばない。強化の魔術は今の跳躍で完全にその効果を失ったのだ。手の中の剣は一気にズシリと重さを増した。あとはシュンディリィ自身の力のみで竜と渡り合うよりほかない。

 だがもうここまでで十分だった。もうすでに勝利への道は見えている!

 迎え撃つ竜は牙を閃かせる。ブレスはそう何度も連発できるものではない。竜もまた、あとは牙だけが最後の武器なのだ。


「そいつを――待ってた!」


 シュンディリィは自由落下を待たず、天井を蹴って竜に向かって飛んだ。切っ先を向け、まさに天より落ちる剣となった。


「う、ああああああッ!」


 一直線に向かう先は竜の口、大きく開いたその口内に飛び込むつもりなのだ。

 

!?


 まさか敵自ら、鋭い牙の並ぶ口の中に突っ込んでくるとは思いもよらず、竜はその口を閉じるのを一瞬遅らせてしまった。


「暴威の顎門あぎとに自らを投げ入れる勇気を持つ者だけがそれを為す!この剣は――竜を殺す剣だ!」


 剣を読んだ詩文を自分に言い聞かせるように、世界そのものに運命として刻む呪文のように声に出して唱える。

 閉じかけた牙は少しかすっただけでシュンディリィの革鎧をいともたやすく引き裂いた。彼の身に傷がつかなかったのはその下に着込んだ――フュリアタが着せてくれた鎖かたびらのおかげだった。


 べちょりとした竜の舌の上に横たわったシュンディリィはためらわずその身をさらに奥へと滑らせる。事ここに至ればその狙いは明白だ。竜の逆鱗を外からではなく、内から刺し貫くつもりなのだ。

 だが竜とて黙ってそれを見過ごすはずもない。敵が喉元に滑り込もうとするのならば、あえてそれに逆らわず喉を動かし嚥下する。このままシュンディリィを丸呑みしようというのだ。


「ぐ、ううう」


 喉奥で圧迫され、胃の中へと落とされそうになりながらもシュンディリィは剣を構えた。チャンスは一度切り、何も見えない竜の体内から正確に逆鱗を狙わなければならない。目印は――ある!


「あ……『鑑定アプレイザル』!」


 効果を失っていた鑑定の魔術を再発動する。鑑定をするの竜の肉体ではなくその身にまとわりついていた一つの異物。先刻、不運にもジルグドの攻撃を阻んだあの剣だ。あれはまさに逆鱗のすぐそばに刺さっていた。

 その刃は竜の肉一枚を隔てた先だ。遮蔽物を透視をしての鑑定は本来高レベルの技であるが、剣が竜の身体とほぼ一体化してしまっている状態ならばシュンディリィでも可能だ。

 シュンディリィの瞳に魔術の青い光が再び宿り、剣を見た……!


   ○


 瞬間。シュンディリィの意識は戦いの場、竜の体内という鉄火場より飛んだ。


(これは……)


 見える光景は知らない場所。ダンジョンの中でもない。どこか、豪奢な屋敷の一室だ。


『……』


 部屋の中には女性が一人。顔を伏せてソファーに座っている。彼女の目の前には一振りの剣。それはまだ新品の状態の時の、竜に刺さったままとなっていたあの剣だ。


(あの剣の過去、なのか?)


 鑑定をしたときアイテムに込められた強い思いが言葉となって見えたことはあったが、こんな映像となってまでそれが見えたことはさすがに初めてだ。それはあの剣に込められた思いがそれほどまで強いものであるのかを示しているのだろうか。

 女性は震える手で剣を撫でる。思いを込めるように。


『どうか、あの子を守って――』


 つぶやく言葉。その簡単な一言こそがこの剣に込められていた運命の詩文――。


   ○


「っ!?」


 シュンディリィの意識は再び戦いの場に戻る。白昼夢のような光景からの目まぐるしい変化にほんの一瞬戸惑ったが、今はあの光景の意味を吟味している暇などない。

 暗い肉の壁の向こうに、ほの明るく光るモノ。それは鑑定の魔術に反応したあの剣の在処を示している。つまり、逆鱗の位置を!


「こ、こ、だあああああッ!」


 手の中の白銀の剣を光に向けて突き立てる! さしもの竜といえどその体内に強固な竜鱗の備えは無い! 名工の鍛えた剣は筋繊維を縦に切り裂き、太い血管を貫き、神経を断ち切った!

 白銀の剣は内側より竜鱗を広げ、突き刺さっていた剣を体外に押し出した。朽ちた剣がこぼれ落ち、地に落ちる。カラン、と乾いた音を立てて。


 GOOOOBRRROOOOO!!


「ぐぁッ!」


 たまらず悶絶する竜の絶叫は、その喉にいるシュンディリィの耳朶を打つ。口からだけでなく喉の傷からもくぐもって漏れるその吼声は、傷口を広げ自らをも苛んでいく。激痛にその巨体をよじれば、体内はまるで横転する馬車の中のように激しくシェイクされる。体内奥深くに落とされぬよう突き刺さった剣を両手で握り、シュンディリィは必死にその振動に耐えた。

 やがて、


 …………!


 竜は力を失い、その身を迷宮の大地に横たえた。ブレスによって焼け焦げた瓦礫をさらに押しつぶし、ドシンという轟音を立てて沈み込む。土煙が舞い、あたりに静寂が満ちる。

 竜は――絶命した。

 シュンディリィが鑑定した白銀の剣の詩文の通り。その剣は竜を殺したのだった。


(続く)

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