第22話 竜と相対する。

「あれは、竜……!」


 遠目に見るその威容は間違いない。シュンディリィもフュリアタも実際に目にするのは初めてだが、知識として伝え聞く竜の姿に間違いない。

 大きさにして2階建ての建物ほどはあるだろうか。フリークフォドール霊廟の天井はかなり高いため頭がつかえるということはないだろうが、それにしても見上げるほどの大きさである。

 鱗の色は火の魔力を帯びていると思しき赤に輝いており、粘性のある体液がわずかに表面を濡らしている。典型的な下位アンダー火竜ファイアードラゴンの姿だ。


 通常下位竜は積極的に人間を襲うことはない。人間を襲うのはの無さの割りに危険が大きいことを知っているからだ。だがこうしてダンジョンに召喚された下位竜は違う。召喚術式に組み込まれた狂乱化の魔術により正常な判断を失わされ、その凶暴性が大きく強化されてしまっている。

 哀れといえば哀れだが、実際に襲われる人間にしてみれば同情している余裕はない。


(ジルグドが休んでいるこんな時に……!)


 人間を超越した知覚能力を持つ猫戦士のジルグドであれば竜の接近をもっと早く察知できたかもしれないが、間の悪いことに彼は今まさに深い眠りの中であった。


「きゃあああああっ!」

「に、逃げろぉッ!」


 あたりからは他の商店の者たちの悲鳴や叫び声が響く。我先にとダンジョンの2層、安全が確保された出口の方向へと逃げていく。


「シュンディリィ君! ――これを!」


 そう言ってフュリアタが投げて寄越したのはジルグドの剣だ。彼女自身はジルグド自身とこれまでの売上と釣り銭の入った布袋とだけを抱えこむ。


「今はジルグドを起こしている余裕はありません! 私たちも逃げましょう!」

「は、はい!」


『何かあればまず逃げろ。すぐ逃げろ。とにかく逃げろ』それがジルグドが常日頃から二人に言い聞かせ続けているダンジョン内での緊急事態への対処法である。


 竜を狙うはずだった魔狩人ハンターたちは4層へ出立したばかり。3層の市場に残っているのは商人と休息と買い物中の数名の探索者ディグアウターだけだ。とてもじゃないが竜を押し留めたり、まして狩り殺すことなどできる状況ではない。

 混乱はすぐに市場中に広がる。竜に近い位置から逃げ出した人々と、異変を知った遠くの人々が押し合い始めている。早く行動をしなければ逃げ遅れることとなる。


「急いで!」


 ジルグドの言いつけで、鎧などの装備は必ず身につけたままであり(特に今のように睡眠などで彼自身が動けないときは絶対に、と言い含められている)、最低限持ち出すものも目星はつけてある。

 ……そう最低限のものは、だ。


「……っ!」


 逃げようとする身体を押し留め、フュリアタは振り返りわずかに逡巡する。ジルグドと売上、2つは持った。だが持って行けぬものもある。商品だ。

 

 いまだ売れてないポーションや雑貨類はそのままでありこれは持っていけない。『格納』の魔術は儀式に時間がかかるためそれを行う余裕はないし、抱えて持っていける量ではない。であれば置いていくより他ない、竜の暴れるその鼻先に。


 フュリアタの迷いはほんの一瞬だ。しかしその苦悩はけして小さくない。

 商人にとって商品とはただの資産ではない。生きていくために守らなければならないモノであり、同時に御客と自分をつなぐ大事な拠り所。けして軽んじられるものではないのだ。

 とはいえ命を危険に晒してまでこだわるべきものではない。ましてシュンディリィを巻き込んでまで守るほどの価値は無い。それはもちろんわかっている。

 それでも――


『まったく希望が無いわけじゃありません、今回の行商の売れ行き次第ではもっと早く――』


 さっき言いかけた言葉が足を止めさせる。

 このまだ買い手のつかない商品たち。これは文字通りの『希望』だ。これが売れるのと売れないのとではフュリアタの将来の展望は大きく左右されてしまう。これを置いて逃げることは希望を捨てることと言ってもいい。

 命を取るか、希望を取るか、その選択をフュリアタは迫られてしまったのだ。


「フュリアタさん……」


 苦悩に顔を歪めるフュリアタ、その横顔を見たシュンディリィの頭にも迷いが生まれる。

 暴れるの竜の咆哮と、人々の悲鳴、そして市場をなぎ倒す物騒な物音はじょじょにこちらに近づいてくる。だがまだこのアグザウェ商会が破壊されつくすまでは若干の時間の猶予はある。ならばどうするべきか……!


「……よし!」


 シュンディリィは強く頷き、己の武器を手に取る。年代モノの使い込まれた戦闘ナイフ。それは亡きフュリアタの父が遺したものだ。たしかな柄の感触がわずかに勇気を与える。


「フュリアタさん! 僕が――あの竜を引きつけます! その隙に商品を『格納』してください!」


「な、――何を言うんですか!」


 驚き、声を上げるフュリアタ。しかしシュンディリィは止まらない。


「竜を倒すことなんてできなくてもこの市場から引き離すことくらいはできるはずです! 4層のほうに引っ張っていければ魔狩人たちがいるかもしれないし……勝算はあります!」


「そんなの危険すぎます! お店のことなんていいですから今は避難を――」


 Grrrrrrooooo!!


「「!」」


 バっと二人は音のほうを仰ぎ見る。

 言いかけた言葉を遮って龍の咆哮が響いた。その位置はかなり近づいてきている。逃げるにせよなんにせよ一刻も早い決断が迫られる。


「時間がありません! 僕は――行きます!」

「待って、せめてジルグドを――」


 言葉の途中でシュンディリィはすでに駆け出していた。今はまだ竜に見つかるわけにはいかないため、他の市場のテントなどに身を隠しながらだ。だがそれでもその目は決然として竜を睨んでいる。少年の決意は固かった。

 呆然としてその背を見送ってしまったフュリアタは、一瞬の放心のあとすぐ我に帰る。止めることは出来なかった、ならば彼を救う方法は一つしかない。


「ジルグド! 起きて……!」


 その戦士の名を呼びながら、ヒゲを3度引っ張った。


 ○


Grrrrrrooooo!


 咆哮の声は近づくばかり。走るのをやめ、竜に気づかれぬよう慎重に距離を詰める。


(まずは回り込まないと……)


 目的は2つだ。1つはアグザウェ商会から竜を引き離すこと。そしてもう1つは竜から逃げ出すことだ。これは相反する目的だ。竜を引き離すには自らを囮にせねばならず、しかしそうなれば竜に追われる身となる。それを解決するには、


(4層のほうに行けられれば……!)


 4層には先刻出会ったサルダットのような竜を退治するために集まった魔狩人たちがまだいるはずだ。この竜がいかにして彼らと遭遇しないまま3層にやってきていたのかは知らないが、入れ違いになったというのならまったく不運としか言いようがない。

 竜が召喚された目撃情報があったのは5層であるから、ぐずぐずしていれば魔狩人たちはそちらに向かってしまう。急がなければならないが……。


 グワシャアアアン!


「っ!」


 竜が何気なく振るった尾の一振りが、積んであった商品の木箱を吹き飛ばす! 中身は飲み水の入った瓶だろうか? ガラスの割れる激しい音を立てながら木箱は宙を舞う。水の満載した木箱は尋常な重量ではないだろうに。まるで積み木細工でも蹴散らしたかのような竜の膂力にあらためて戦慄する。

 なんの戦闘技術もない、魔狩人どころか冒険者ですらないただの少年鑑定魔術師ではとても正面から太刀打ちできる相手ではない。


「ここまで来れば!」


 間近で感じる竜の暴威に腰が抜けそうになりながらも、シュンディリィは身を隠して移動し。なんとか竜の背後に回り込むことに成功した。あとは竜の注意を引いて4層へと向かうのみだ。

 ……だがどうやって竜を引きつける?


「石なんか投げたって気づきそうもないよな……」


 破壊した市の破片などものともせずに暴れ狂う竜に、シュンディリィ程度の力で石を投げてもまるで痛痒を感じないだろう。かといって攻撃魔術戦士ではないシュンディリィには有効な攻撃魔術もない。狂乱している竜には大声も届かないはずだ。

 今のシュンディリィでもできる、何か確実に竜の注意を引く方法。そんなものが――


「あ……」


 ある。

 一つだけ、それを成しうる方法が脳裏に浮かぶ。だがそれはシュンディリィにとって、いや鑑定魔術師にとって『禁じ手』とも言える手段だ。たとえ暴れまわる竜が相手でも、それを行うのには非常に強い抵抗がある。

 だが手段を選んでいられる状況ではない。アグザウェ商会がどうなっているかはここからでは見えないが、ジュンディリィの願い通りフュリアタが『格納』の儀式を行っているとすればけして猶予はないはずだ。


 ならば迷っている暇はない。その方法を使うべきときだ!


「――」


 小さく息を吸い、己の中で魔力を練り上げる。使う術とはすなわち魔術。それは彼が唯一使える、彼自身を悩ませてやまないあの魔術だ。

 眼窩に熱く、魔力が集中するのを感じながら、じっと竜に視線を集中させ彼は魔術の言の葉を紡ぎ出す。


「――『鑑定アプレイザル』」


 行程を過たず魔術は発動した。シュンディリィの瞳に青の光が灯り、照射された魔力は対象である竜へと集中する。鏡が光を返すが如く、竜にまつわる『世界の記録』がシュンディリィの脳裏に焼き付いた。

 しかし、


「う……ギャアッ!?」


 潰れた蛙のような悲鳴を上げ、シュンディリィは後ろへと吹き飛ばされた! 竜から反射したあまりにも膨大な魔力が彼の脳に強い刺激を与え、それがよる不随の反射的な防衛反応により彼の全身の筋肉は強く痙攣してしまったせいだ。いわばシュンディリィは自分自身の筋力で己を投げ飛ばしてしまったようなものだ。受け身すらとれず破壊された市の残骸にその身を突っ込ませた。


「う、ぐぐう……」


 よろめきながらなんとか身を起こす。その目は真っ赤に充血し、魔力の青の光と合わさり『紫の目』へと変貌してしまっていた。強い魔力が起こした拒絶反応だ。

 ズキズキと痛む目を押さえながらシュンディリィは立ち上がった。反動は大きかったが鑑定は成功した。竜にはたしかに魔力は届いた。


『竜を■すか若■よ。だが■悟せよ■の道は艱■■苦に■ち、お■えに■■と■■を■え■■■……』


 竜から読み取った詩文はところどころにノイズが走りまともな文章の体をしていない上に途中で途切れている。だがどうせろくなことは書いていないのだろうという実感がシュンディリィにはあった。なんとなれば、


「…………」


 


 ものの諺で言えば『天使が通った』とでも言うべきか。それは奇妙な沈黙であった。怒り、猛り狂っていた竜はピタリと動きを止め、吐息すら漏らすことなくシュンディリィを見ている。その目はたしかにシュンディリィの瞳へと焦点を合わせ、完璧に眼と眼があっていた。

 なにか冗談のような無音は永遠のように感じられたが、それは実際には一瞬のことだ。そしてシュンディリィにはその沈黙は必ず破られることがわかっていた。

 意思のある生体物を『鑑定』するということは、


GRRRRRRROOOOOOOOOOO!!!!


 そういうことだ!

「!」

 それまで以上の勢いで竜が咆哮した。その目に宿るのはたしかな怒り! それも召喚魔術で付与された狂乱による、無差別に振りまかれる怒りではない。シュンディリィをこそ憎む竜自身の怒りだ。


(ヤバいヤバいヤバい――!)


 猛烈な焦りと、恥ずかしくも後悔の念が少年の裡に湧き上がる。

 考え無しもいいところ。自分はとんでもないことをしてしまった!

 その実感が今更ながらシュンディリィを襲った。

 ……生物は鑑定の魔術をその身に受けると強い不快感を受ける。それは何も自分の来歴を他人に知られてしまうという社会的な羞恥からではない。それでは竜のような野生の動物には通じない。


 鑑定の魔術が暴くのはそのモノがこの世界に発生した瞬間からの此の方と行く末が記された『世界の記録アカシックレコード』だ。太古の昔にあった文明にはその記録そのものに手を加える術すらあったというが、現在の人間が使えるのはせいぜいそれを限定的な形で覗き見る『鑑定』の魔術だけだ。


 いずれにせよそれはただの記録ではない。物質の(あるいは魂の)根源的な部分と深く結びついた情報であり、それを魔術をもって干渉すれば必然魔力が対象の肉体と精神に影響を及ぼす。全身の神経を逆撫でされるかのような強い不快感という形で、だ。

 大小問わず、この不快感に逆上しない生物は存在しない。鑑定魔術をもって他者を見ないというのはマナーでもあるが同時に術者自身を保護するための必要な措置でもあるのだ。


 そして竜はこの不快感をその身に受けた。こうなればもう黙ってはいない。魔術の素養など無くてもすぐにその術者を逆探知する。つながった糸の先を見やるのと同じことだ。竜はこの不快感をしかけた相手を、シュンディリィの存在を知覚した。相手を滅ぼし尽くすために!


 GROOOOOOOO!!!


 再び吠え猛る竜は、完全にシュンディリィに狙いを定め、これまで以上の勢いで突進を開始する。


(だけどこれで引きつけることはできた!)


 効きすぎたと思えるほどに効果はあった。狙い通り竜の注意を引くことには成功したのだ、あとは竜を4層へと誘導するだけだ。巨大な竜はそれだけ歩を進める速度は大きいが、シュンディリィとて体力には多少の自信がある。ごく初歩の身体強化魔術も併用すれば逃げ切ることもけして不可能ではない。

 ――はずであった。


「――!」


 竜の、殺意に血走った目がシュンディリィを見る。

 竜の凝視。それはただ対象を視界に収めるという行為ではない。竜という強大な存在の眼光は、相応に大きな力を伴っている。


(うっ……!)


 ビクリ! と突如シュンディリィの全身が硬く強ばる。


(な、なんだこれ!?)


 人間が寝ているときに時折起こす金縛りにもよく似た状態にシュンディリィは陥る。身体を動かそうというたしかな意思があるのに、身体がまったく言うことを聞かないあの状態だ。

 硬直の魔術を仕掛けられたのか? いいや違う。竜はただ少年を見ただけだ。

 竜はただの殺意だけでシュンディリィを射すくめたのだ。それだけでシュンディリィの身体は動かなくなってしまった。


 ただの凝視で動けなくなるとは情けないことだ、と余人は思うかもしれないが。たしかにシュンディリィは戦士の心構えを持たないただの少年であるが、それでも身を挺してアグザウェ商会を助けるという覚悟はもっていた。ただの殺意に屈するほどの弱虫ではない。ただそれでも、竜が発する圧力というものは度が外れていた。

 下位竜であるといえど竜は竜。地上最強の生物の一つであることには代わりはない。やはりその力は尋常ではない。


「あ――あ、あ――」


 パクパクと口を開いて言葉を喘がせ、なんとか身体を動かそうとするが彼の身体はまるで石に変わってしまったかのように動かない。

 そうしている間にもすさまじい速さで竜は迫りくる。竜が到達するまでは時間にしてみればほんの数秒であろう。しかし竜の圧力にさらされたことで激しく刺激されたシュンディリィの脳は、体感の時間を鈍化させる。

 鋭い牙をむき出しにして迫る竜をまじまじと見せつけられシュンディリィは目をつむることすらできず恐怖にさらされる。跳ね飛ばされるか、踏み潰されるか、あるいは食いちぎられるか。いずれにせよ華奢な少年の身体などひとたまりもない。フュリアタが見立ててくれた鎧や鎖帷子などなんの役に立たないだろう。

 シュンディリィが数秒後の死を確信した……その時である!


gNAOOOOOOOO!!


 竜の咆哮とは違う、低い唸り声が別方向から響き、その音がシュンディリィの耳朶を貫いた!


「っ!」


 その声を聞いた途端、弾かれたようにシュンディリィの身体は唐突に動くようになった。こわばりが一瞬で解かれたことに戸惑いを覚えるが、状況は待ったなしだ!


「伏せろッ!」

「!」


 その命令の声に反応できたのはほとんどただの条件反射だ。考えるよりも早く、シュンディリィは這いつくばるようにしてその場に身をかがめた。

 その瞬間の直後、ほぼ同時とも言えるタイミングで彼の頭の上を何かが高速で通り抜ける。一抱えほどもある丸い物体。それには見覚えがある。あれは――


 ドゴォン! 


 轟音を立ててその物体が竜に激突する! すさまじい竜の突進にもなお負けない速度と質量を持ったそれは、まるで大砲の弾だ。横っ面に直撃を受けた竜はたまらず横転、シュンディリィの眼前で倒れ伏した。

 激突した物体はくるくると空中を回転し、その勢いを巧みに制御。鋭い動きで彼の目の前にスタリと降り立った。それはまさしく、


「じ、ジルグド!」


 彼がよく知る一人の――一匹の戦士だった。

 竜が地上最強の生物であれば猫戦士は地上最強の戦士。体躯の大きさは比べるまでもなく違うが、その強さはけして竜に劣る存在ではない。

 竜の威圧が少年を硬直させたのであれば、猫戦士の激発が少年を動かさない道理はない。

 固定睡眠から覚醒したジルグドは即座にシュンディリィのもとに駆けつけ、彼を救ったのだった。

 極度の緊張からの解放で、伏せたままの姿勢から立ち上がることもできないシュンディリィをジルグドは振り仰ぎ、


「何考えてんだこの……バカ野郎!!」


 苛烈な怒声で少年を打ち据えた。


「魔狩人でもないてめえが竜を引きつけて逃げるなんぞ、できるわけねえだろうが!」

「う、うう」


 返す言葉もない彼の叱責に、少年の目にも少し涙が浮かぶ。


「俺が来なかった今ごろてめえは竜の腹ん中だったんだぞ、わかってんのか!?」


 怒りのまま声を荒げ、竜の瞳にも負けない強い眼差しで彼を見据えた戦士は、唸るように首を振って自らの苛立ちを消そうとする。


「……ったく。たしかに俺もおまえには気張れとは言ったが、こんなことをしろとは言ってねえぞ」

「だって、こうでもしないとフュリアタさんの店が……」


 絞るような言い訳の声に、猫戦士はふうとため息をついた。


「店は間一髪のところでまだ無事だ。フュリアタも商品をまとめて逃げる準備をしている。おまえが時間を稼いだおかげだが――高くつくことになったぞ」


 目線を倒れ込んだ竜に戻せば、不意打ちのダメージから回復した竜が身を起こそうとしている。その目に宿るのはこれまでの狂ったような殺意だけではない。恐るべき強敵の到来を感じた、猛りながらも冷静さを保つ冷たい敵意の眼差しである。

 最強の猫戦士、ジルグドの脅威を竜は的確に感じ取ったのだ。

 こうなればもう盲目的にシュンディリィを狙うだけではない。ジルグドを積極的に排除しようともするだろう。

 つまり、どうあっても逃げることは不可能となったのだ。


「チッ」


 ジルグドも舌打ちし、スラリと自らの剣を抜き放つ。シュンディリィを小さな猫の背にかばいながらも、少年を逃がそうとする様子は見せない。凶悪無慈悲なる竜の暴威、その眼前に無力な少年をとどめおく姿勢だ。


「こうなったらもう逃げられるなんて思うんじゃねえぞ。めんどくせえことこの上ないが――ここでコイツは仕留めるしかねえ!」


 剣を構えたまま前傾姿勢を取り、最強の戦士は攻撃の気配を強めた!


【続く】

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