第7話 シュンディリィの答え
「ええと、ランタン用オイルが3つ……よし。黒炭硬筆が1箱……よし。ロープが1束、金属フック2個、防水布が1巻き……よし! よし! よし! 買出し完了っと!」
頼まれた買出しリストのメモを読み上げ確認し、シュンディリィはうなずいた。
荷物の詰まった布袋を一度パンと叩き、商店街を歩き出す。
シュンディリィの買出しは順調に終わったと言える。というよりただの雑貨の買出しなど、もとより手間取るほどのこともない。誰でも出来る子供の使いのような仕事だ。……彼の雇い主を除けば、だが。
「……フュリアタさん、こっちは終わりましたよ」
そうシュンディリィが声をかけたフュリアタがいるのは商店街の端にある小さな店。商品棚に並べられてるのは金槌や鋸といった大工仕事に用いられる工具の類。つまり工具屋だ。
「…………ううっ」
彼女はその工具屋の軒先で、野外用ナイフ(頑丈な造りで様々な用途に使えるものだ)を手にとってしきりに首をかしげている。彼女の目の前には似たような――しかし値段や大きさがわずかに違うナイフが何本か散乱しており、どれが良いのか迷っているようだ。
……そう、迷っているのだ。
(朝からずっと、ですかい……)
商品選びに夢中になっている彼女の後ろでがっくりと肩を落とす。ずり落ちかけた商品鞄の重さに気持ちまで引っ張られるようで、思わず膝をつきたくなるがそこはぐっと我慢する。
(こりゃ僕の責任は重大だな……! 道理であんなに頼まれるわけだ!)
そう気合を入れなおし、何故こんなことになったのかを改めて思い出すことになった。
●
「……シュンディリィ君。住む所を探しているのなら、もしよければ――ここに住んでみませんか?」
彼女のその提案を聞いたとき、シュンディリィにまず浮かんだのは困惑であった。
(ここってアグザウェ商会――フュリアタさんの家に!?)
まさか今日出会ったばかりの女性から、家に住まないかと提案されるなどとは思ってもおらず、ただただ驚くばかりだ。
「おい、フュリアタ!」
これにはもちろん彼女とこの商会を守る
だがフュリアタはあえて彼を無視し、彼女らしからぬ強硬さで話を進める。
「私とジルグドが住んでいるだけなので空いている部屋はたくさんありますし、もちろんお金なんか取るつもりはありません。期間だって、シュンディリィ君が望むのならいつまでだって居てくれてかまいません。仕事探しだって、商人仲間の方に聞いてみていい所が無いか探すのも手伝います。その代わり――
その代わりどうか! 私の仕事を手伝ってくれませんか!」
フュリアタはぐっとシュンディリィの手を握った。たおやかな女性の手指の感触が心地よくもくすぐったく彼の肌を刺激する。
だが彼女の手はただ柔らかなだけではなかった。その若さゆえにまだ
しかし彼女はその荒れた手指を恥じてはいない。やはり瑞々しい14歳の少年の手に、その感触で自分が仕事に持つ誇りを伝えている。
「ええと……」
シュンディリィは返事に窮し、ジルグドを見た。
厳しい目をした猫戦士の男は溜息を一つついたあと、
「……好きにしろ」
突き放すようにそう言った。
「…………っ」
フュリアタは蒼の瞳に強い感情の色を浮かべてじっとシュンディリィを見つめる。こんな、図々しいとも思える強引な誘いなど普段はすることがないのだろう。
(力になりたいって、そう思ったんだよな? 俺は……)
あらためてそう自分に確認する。そしてそれならば答えは一つしかない。
「……家賃はちゃんと出しますよ」
「えっ……」
シュンディリィの答えにフュリアタは一瞬きょとんとする。
「仕事のツテ探しもしてもらわなくてもいいです。どうせならちゃんとこのアグザウェ商会で雇ってください」
「それじゃあ……!」
シュンディリィは笑う。
「……正直なところ、僕がフュリアタさんの力になれるかはわからない。さっきだっていい気になって助けに出たのはいいけど、失敗して迷惑をかけたばかりだ。そんな落第鑑定士だけれど――僕をここで働かせてくれませんか?」
あらためてそう願う気恥ずかしさに、少年の頬はわずかに朱に染まった。そしてその少年の手を取るフュリアタは、花のように笑む。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
横目でそれを見ていたジルグドは小さな肩をすくめる。
「やれやれ……どうなっても俺は知らんからな」
そう言う彼であったが、その尻尾はわずかに揺れていた。
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