第70話 いばしょ

 三人が友達となり、まずは自分達についての話を進めた。所謂、自己紹介というやつだ。主に、成り行きや交友関係についての事が多く、イマは二人の流れる様な話を、まるで、子供が絵本を聞くかの様に、目を輝かせながら聞き入った。


 アライさんの日常は平静さの欠片もなく、大騒ぎな毎日ばかりで、聞き入るイマを飽きさせなかった。そんな日々を送るアライさんに、フェネックが同行するのも納得出来る程、彼女の話にはドキドキとワクワクが詰まっていたのだ。


「アライさんのこと、少し分かってきたよ」

「それは良かったのだ。帽子さんの話も聞かせてほしいのだ!」

「もっちろんっ! まずはねー、私の子供の頃の出来事から……」


 こうして、フェネックの時同様にイマは自分の過去について、そして、スタッフになるまでの生い立ちを語り始めた。時折、水分補給を取りながら、イマは退屈させない様に面白おかしく話を進めていく。自分の知り得ない情報に、そして、新しいヒトの世界にアライさんは好奇心を抑え付けながら、その話をまじまじと聞き入る。そんな様子を横目にフェネックも楽しそうに、イマの話に耳を立てた。


「で、今に至る。っと、こんな感じですねー」

「帽子さんは夢を叶えたってことなのかー。凄いのだ!」

「ありがとっ。だから、私にとっては、ここはみたいなものなんだ。私が目指して、望んで居る場所。皆との大切な居場所なの」

「アライさんにとってもそうなのだ。楽しいがいっぱいある場所なのだ! フェネックはどうなのだ?」

「うーん? もちろん、そうだよー。ここが無くなったら私達は消えてしまうからねー。ヒトでいう所の家みたいなものさー」

「ヒトは家が無くなっても、どうにか生きていけるけどね……。フレンズは……」

「消えてしまうのか!?」

「……うん。フェネックの言う通りだね。だけど、それをどこで……」

「小耳に挟んだのさー。博士と研究所の人が話してるの偶然、目撃してねー」

「盗み聞きしたのね……」

「いやー、そんな悪趣味なことはしないさー。立っていたら聞こえてしまっただけだよー」

「な、なるほど……」

「ぼ、帽子さん……。それは本当なのか……? ここから出られないなんて……」

「うん……。だけどね、ジャパリパークはアライさんが考えるよりも、もっと広大で楽しいが詰まった世界なんだよ。私だって全部行ったことがないんだからっ!!」


 驚愕の事実を知り、落ち込むアライさんにイマが励ましの言葉を投げた。その言葉が真実である事は、彼女の視線と表情を見れば一目瞭然であった。そこには、好奇心と胸が高鳴る感情が今現在も含まれている。


「キョウシュウエリアだけじゃない! もっと、たくさんの島とエリア。多くの施設にアトラクション。そして、いっぱいのフレンズが存在する世界なんだよ。ここは!!」


 彼女の話すその姿に。その表情に。


 アライさんは、沈んだ面持ちを明るいものへと変化させた。


「聞いただけで……、ワクワクするのだ!! いつか行ってみたいのだっ!!」

「このエリアだけでも広いのにね~。アライさん、きっと回り切れないよー」

「駄目なのだ! それでは、アライさんのが叶えられないのだ!!」

「「ゆめ????」」

「興味あるなー」

「私もー」

「ふふーん。アライさんの夢は、パーク中にアライさんの名前を轟かせることなのだ!」


 アライさんは自慢げに自らの夢を広言した。

 あまりのドヤ顔具合に、その自信はどこからくるのか……、は常時であるが、二人は苦笑し、詳しく聞いてみる事とした。


「えーっと、つまりは、名声が欲しいと? それとも……、有名になりたいだけ……とか? あんまり変わらないか……」

「違うのだ!! アライさんは、アライさんの活躍によって名前を轟かすのだ!!」

「つまり、アライさんは皆に認めてほしいのさー。誰も否定はしてないんだけどねー」

「なるほどねぇ……。解る様な、解らない様な……。けど、夢があるっていうのは良いことだと思うよ。フェネックは何かないの?」


 質問を受けたフェネックは、少しの間を空けてそれに答えた。


「……私は、楽しい毎日が送れればそれで良いかなー。今はアライさんも帽子さんも居て、満足しているのさー」

「フェネックらしいと言えば、らしいかもね。現実的な感じが」

「つまらないのだ。アライさんはもっとあるぞー! お宝を見つけ出して、一山当てるのだ!! 想像するだけで……、じゅるり。ふーはははは!!」

「……ははは。奇想天外とは、アライさんの為にある言葉なのかも……」

「???」

「単細胞も付け加えようー」

「???」

「ふふっ……。けどね、その単純さはきっと、アライさんの長所でもあるから、捨てちゃ駄目だよ」


 イマはアライさんの肩に手を当てて優しく言い聞かせた。


「種によって、得意なこと不得意なことがある様に、フレンズによって、特別な個性があると思うの。だから、アライさんはそのままで居てね……」

「うむ。分かったのだ!!」


 アライさんはその言葉を素直に聞き入れ、笑顔で返した。

 すると、フェネックはその横から小さく囁く。


「けど、少しは頭良くなってもいいと思うよー」

「フェネックゥゥ!?」


 その笑顔は一瞬で消え、アライさんは一驚して固まった様に顔を歪めたのである。

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アライさんの大冒険 a @aha777

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