第69話 ゆうじょう

 広大なさばんなちほーは、そこかしこに人の手が加えられている。これは、ジャパリパークが自然的に近い、人工的テーマパークである為の設備であり、その証拠品といえる。設備が整っていようとも、夜を迎えれば暗くなり、ヒト独りでの移動は困難を伴う。それが、土地に慣れたのパークスタッフであっても同じ事。


 日が完全に沈む前に、イマはお開きをつげた。フェネックもそれに同意して、話を進めていたのだ。


「随分、話し込んじゃったね……。こんな時間までちほーに残るのは初めてかも……」

「そうなのかー。帽子さんはいつも、別の所で寝ているのー?」

「そうだよ。私は、寮で生活してるんだ~。一応、ここ、離島だしね……」

「りょう?」

「えーっと、お部屋だよー。ロッジみたいな壁で仕切られた空間のこと。フェネックでいう所の巣穴、みたいなものかな?」

「なるほどー。そこへ毎回戻って行くんだね。それって近いのー?」

「うーん……。遠くはないかな。キョウシュウエリアではないんだけどね……。このエリアで生活するなら、ロッジなんじゃないかな?」

「なるほどー……」


 フェネックは会話が途切れると名残惜しそうにしょぼんとして、後の言葉を詰まらせる。


「それじゃあ……、そろそろ戻るね」

「うん。今度は……、友達も連れてくるよー……」

「この前言ってた娘かなー?」

「そうだよー。面白いフレンズなんだー。だからさー……」


 フェネックはどこか不安だった。

 イマを繋ぎ止めるものは既に無く、スタッフとして勤務でこの地を訪れ様とも、自分に会いに来るものではないのだと。それは彼女にとって、とても苦痛な“退屈”なのだ。


 それを感じ取るのは極めて難解なものだった。

 フェネックは普段から表情があまり変わらない。それに加え、頭も良いので自分だけの意思を押し通す様な真似は簡単にはしない。となると、ヒト同様に感情をしまいこんでしまうのだ。


 しかし、イマは。


「うん。

「――!?」


 フェネックは俯き掛けた顔を上げ、ハッと彼女を凝視した。

 その可笑しな行動に、イマは思わず吹き出して。


「……っふ。何? そんな驚くことじゃないでしょ? だって、私達、もう友達なんだから」

「……ははは。そ、そうだよねー……」


 平然と言ってのけた彼女に、フェネックは自分の感じた不安が、些細なことだと理解する。そして、彼女も小さな笑みで言葉を返した。


 地面に座り込んで二時間程度。

 移動の為に、立ち上がり彼女達は向き合った。


「それじゃあ、また……」


 イマはフェネックの前に手を出して、握手を求めた。少しの間が空き、彼女も同様に手を出すと、その手を取って、二人はぎゅっと握り合う。


「??」

「これ、ヒトの挨拶なんだ」

「なるほどー」

「親愛、喜び、協力、和解、意味は色々あるんだけど……。つまりは、これからもどうかよろしくね、ってことで」


 イマはニコっと微笑み、彼女のふわふわの手を優しく握って包み込む。フェネックは少しだけ口角が上がり、その言葉にしっかりと答える。


「こちらこそー!」


 日が沈みかけるさばんなの中央で、二人は互いを分かり合う。

 それは、彼女達に確かな友情が芽生えた瞬間であった。


 グリーンフラッシュを背景に、二人はその場を去ってゆく。

 また、約束の再会の時まで。


*


 そして、その日がやってきた。

 太陽光の射し込む、昼過ぎのさばんなで、二人がイマの到着を待っている。


「遅いのだ!!」

「アライさん、しょうがないよー。帽子さんは仕事で忙しいんだからー」

「そんな仕事は辞めるべきなのだ!!」

「それは無理だよー」


 木陰で涼み、会話を続ける二人のフレンズ。

 そこへ待ち人であるイマが、げっそりとしながらフラフラとやってきた。


「お前、遅刻なのだ!!」

「アライさんも遅刻したじゃないかー」

「それはそれ。これはこれ、なのだ!」

「ごめんごめん。ちょっと……、食べさせて……」


 木陰に着くや否や、イマは持参した弁当を取り出し、食べ物を口へ運んでいく。それにつられたのか、二人のフレンズも、内からジャパリまんを取り出すと、モグモグとし始めた。その様子は、傍から、まるでピクニックの様であった。


「……ゴクリ。ふっかーつ!!」

「帽子さーん、お腹が減ってたのー?」

「うん。ヒトは一日に三回食事をとるんだけど、今日はちょっと忙しくてねぇ……。お昼がとれなかったんだぁ……」

「なるほどー……。最近、スタッフさん達、活発に動いてるもんねー」

「開園前は何かと多忙になるんだとさー……。こればかりはしょうがないよねぇ……」


 すると、蚊帳の外に耐え切れず、会話に割り込む様にしてフレンズが声を発した。


「フェネック!!」

「あぁ、そうだー……。帽子さん、この前言ってた友達の……」

「アライさん、なのだ!!!!」

「アライさん?? えーっと、アライグマさん?」

「違うのだ!! アライさんはアライさんなのだ!!」

「お、おぅ……」


 ネコ目アライグマ科アライグマ属のアライグマこと、“アライさん”。


 薄紫色の服に首周りにモフモフとしたファーを巻き、胸元に黒色のリボン、同色のミニスカートを履く。タイツや髪色は元動物の体色を表現した色合いで、瞳の色は茶色。自信有り気な表情は、彼女のポジティブさから滲み出るものである。


「元気な娘だね。イマだよ。よろしくねっ!!」


 イマは手を差し出した。

 しかし、アライさんは至極当然ではあるが、その意図を掴めず、その手を凝視している。それ所か……。


「なかなか、良い手をしているのだっ!!」

「……ははは。そっちかっ!」

「……??」

「アライさん、手を出してお互いに握り合うのさー。これがヒトの挨拶なんだってー」

「ふむ。こうか?」


 そして、二人はぎゅっと握手を交わした。


「これで、友達。よろしくねっ」

「よろしくなのだっ! ……アライさんも握手をしたことがあるぞ?」

「??」

「へー、誰とー?」


 すると、アライさんは立ち上がり自分の手の平を重ね、すりすりと擦り合せる。


「……?? 違うのか?」

「……ふふふ」

「アライさーん、それ、手を洗ってるだけじゃないかー」

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