第11章 単純と複雑と
第41話 もやもや星人のち、晴々星人になれるでしょうか。
もやもやが止まらない。
このままではもやもや星人になって、綿飴のようにべた付きながらドロドロに溶け出し、そこへ通りかかったワンコなどにぺろりと飲み込まれてしまうのではないだろうか。
いや、その前に得体のしれないドロドロなんか見向きもされねえな。
と、そこで下らない妄想は姉貴の声に断ち切られる。
「ほらボケボケしない!早く車から降ろしてあげなきゃ可哀そうじゃない」
「あ、ああ」
断ち切られても、一旦もやもやしたものはそう簡単に消えてはくれず、返す返事も曖昧なものとなる。
「ねえ、さっきからボケボケして、あんた大丈夫なの? まったく、急にイノウエへ迎えに来てくれって言うから、慌てて何かと思えばずっとボケボケして……」
徐々に険のある声に変わりつつ姉貴の声に、やっと脳内が反応し始める。この声はまずい、状況が改善されなければ数分後には説教モード入りのトーンだ。
「わーった!わーったよ!ボケボケ言うなって、今やるって」
助手席のドアを勢いよく開けると、左腕に小動物用ケージを抱え、右腕には盛大に買い物してきた一式大袋を下げて玄関へ向かう。
器用に左手の小指だけでドアを開けると、鼻先に肉じゃがの香りが漂ってきた。バタバタとスリッパの騒がしい音と一緒に、安定の丸顔が顔を出す。
「おかえりーってあら、あんたなの」
あらってなんだよ母上。
俺は気のない、ただいまーを唇に乗せながら階段を登る。
「ただいまー、はーお腹空いたー」
後から姉貴がでかい声を出しながら玄関に入ってきた。あれでなかなかモテるらしいんだから不思議だよなー。
「あら、あんたたち一緒だったの? ねえあの晃が持ってきた大荷物はなんなの?」
「それがさー、ミサミサだっけ? 美咲ちゃんを連れて帰ってきたんだって」
「へえ?! あんたも何言ってんのよ、波多野ちゃんがあんなに小さい訳ないじゃない!」
そこ全然かみ合ってないから、ホント噛み噛みもいいとこだからな!
飯の間中は続くであろう会話を想像してうんざりしながら、ケージを床にそっと降ろした。隙間から鼻をひくひくしてる様子からすると、体調は悪くなさそうだ。
腹減ったなー。
だが、もう夜の時間帯に入る。夜行性の小動物に早く落ち着いた環境作りをしなければと、大袋から取り出した住居用のケージを取り出し、ドアと反対側の壁側に設置する。
2階建てのケージに(俺はメンテナンスの点から1階建てがいいと主張、姉貴の2階建ての方が絶対楽しそうの声に負け買わされる)ウッドチップの床材を敷き詰め、木製の階段つき隠れ家と、砂浴び場をセットする。
回し車を装着し、水のボトルをセットした。なかなか良い。
が、けっこうでかくねえ? 俺の部屋ん中で、ベットの次ぐらいは存在感あるぞ。水色とは言えパステルカラーだもんなー、目立つよなー。
ご飯の容器に、総合フードとおやつ要素の強いフードを混ぜて入れたら完了だ。
後は、ここの新たな家主に入ってもらう、と。
ミサの入ったケージをカパッと開けて、入り口に手の平を広げてじっと待つ。
ハムスターなどを移動させる時、上からがばっと掴んでしまうと、自然界では空の敵を警戒しながら暮らしている小動物たちを怯えさせてしまうからだ。
細かく白いひげをひくひくさせながら、1歩1歩慎重に小さな体を手の上に預けてくる。全身が乗ったところでそっと住居用ケージに移動させると、恐る恐るといった風に床材へと足を踏み出した。
か、か、可愛いじゃーねーか。
つぶらな黒い瞳と、その丸っこいラインのモフモフとしたその愛らしい姿に軽く動揺する。
ふと、このミサの姿を波多野に見せたら喜ぶんじゃないかという気がしてきた。
じゃあどうやって見せる? とりあえずLINEで元気だぜって言ってみるか。いや、いつもの「あっそ」で終わりだろ。
電話してみるか?いや、それも「何の用?」で終わりだな。
と言うかさ、なんで俺、あいつのこと気にしてんだよ。
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